35-02 【忍び寄るもの】 Ⅱ
自警団の会議室では重苦しい空気が流れていた。
現在集まっているのはファッツやハウル、フィル等の自警団の面々にセイルやマリーなどの自警団を兼任している者が数名、そして町長のカーマインが居る。モンスターが適度に襲ってくる以外は前回の大襲撃を除きのどかな町で起きた冒険者と町の人間の死はどこよりも重いものだった。
「あいつら…いっつも俺の所でポーションを買っていく奴でよ、もうすぐ中級になれるかもって騒いでた奴等なんだ、畜生がっ!」
ドンとテーブルを叩くセイル。
「まさか、この町のフィールドで死者が出てしまうとはね…」
カーマインが指二本をこめかみに当て言う。
ダンジョンで亡くなった冒険者などは確かにこの数年で0ではない。知り合いだったものも少しの間だけ滞在していた冒険者も帰らない時があった。
だが…【フィールドで奇襲を受けて冒険者達が殺された】という話は殆ど聞くことはない。フィールドでは基本的に集団を作る事が無いモンスターが奇襲を行うほど知能的な行動を起こす方がおかしいのだ。そう言うモンスターが居るならともかく、周辺に居るモンスターは一番頭がよくてパライズモス程度、それも良い所ヤスオが戦って様な程度の群れを作るのが限界だった。
「ハウル、ヤスオ達は呼んだの?」
「ロシェルが呼べる奴は呼んでいるが、そっちはフィルの方だな」
「いや、俺も来たばかりなんだ、まさかそんな事になってるなんて」
「あいつらには世話になってるからな早めに伝えておくのもいいだろ。フィル! ひとっ走り頼む!」
「分かった! 知ってる冒険者全員連れてくる! 少し遅れるけど待っててくれ!!」
「フィルさん僕も手伝います。一人よりは早いでしょう?」
「助かるぜロシェル! お前はカノンとミキ達を連れてきてくれ!!」
そう言うと勢い良くドアを開けて出て行くフィル。
続いて頭を下げてロシェルも会議室を後にする。
「…てんちょー君やエスタ君も呼ぶべきかな」
カーマインがハウルに少し考えながらも進言するが、ハウルは直ぐにそれを断る。
「いや、彼らは既に引退した人達です、連れてくる訳には行かないでしょう」
「そう…だね」
「で? どうするんだファッツ? 今回の事は少々ややこしいが町の人間はともかく冒険者に俺等が出来る事は良くて注意位なもんだろ?」
「冒険者が全部ヤスオみたいな奴ならちゃんと聞いてくれるんだが、此処に来る冒険者全員がそういう訳じゃねぇからな。一番良いのは固定でパーティでも整えてもらえりゃ楽なんだが」
冒険者は大体にして我が強い傾向がある。
そうしなければ生きられない世界だからというのもあるが、実際に戦って己に自信を持っている者が殆どだ、それを全く関係のない自警団が危険だから云々と言えは反感を買ってしまうのは考えなくてもわかる。
寧ろヤスオの様な冒険者の方が珍しいのだ。
「冒険者という所が厄介だ、奴らの行動と責任は奴ら自身のものだからな。だがこのままだと確実に無駄に犠牲者が増える。これから死人が増えてみろ? 下手すれば町の信用問題にも関わる」
「じゃあどうするのよ? 何か悪い事してる訳じゃない以上、私等じゃ突っ込めないわよ?」
「幾つか出来る事はある。単純な注意喚起だけでもまともな冒険者の幾つかは落ち着くだろう。後は冒険者同士で情報をとりあってもらう事だな、ヤスオやカノン達と交友があって助かった、あいつらなら冒険者達ともそこそこ関係がある、それを利用できるはずだ」
自警団が直接言えなくても冒険者同士の言葉なら相手も無碍には出来ない。
実際に冒険者がフィールドで死んだという事実もあるのだから無謀な者でない限り自重するようになるだろうとハウルは睨んでいる。
「とりあえず情報拡散は私に任せてくれ。このままじゃ大変なのは目に見えているからね」
「俺やナッツの所は冒険者が良く来る場所だからな。情報伝える位なら問題ねぇ。実際に死亡者が出てるんだ、馬鹿な奴じゃなければ無茶はしねぇだろ」
「カリーナ。お前は冒険者などがよく立ち入る料理屋などに張り紙を。店主達にも伝えておいてくれ。後、町の人間にはこれから伝えるが外に関する依頼は出来るだけ出さないように注意させてくれ。依頼がなければ、後はダンジョン位しか外にでる理由があまりないからな」
ハウルの言葉に頷くカリーナ。
「俺等は俺等で数集めて外の警戒だな、パトロールの人数を増やして距離をのばしておくか。その時今までどおりの人数じゃまずいから…ちっ、暫くは人がカツカツになりそうだな」
「過信はするな? 俺やお前が強くなっても全員が全員強い訳じゃない。最低でもフィルか冒険者の1~2人同行させろ。後者は冒険者に現状を理解させるためにもいい効果になる、金さえ払えば冒険者は動くからな。あとはこの状況を知ってどうするかはそいつ自身が決める事だ。それでも馬鹿な事をやらかすのなら出来れば、死ぬなら他の場所で死んで欲しいが」
「ハウルあんたねぇ…」
ジト目でハウルを見るカリーナだが、ハウルは全く意に介さず話を続けていく。
そんな時会議室のドアが叩かれ直ぐにカリーナが対応する。
「どうしたの? また何かあった?」
ドアの外に居たのは事務をメインにしている自警団員だった。
「あぁ、カリーナさん。団長に会いたいって冒険者が来てるんだが今大丈夫かい?」
「ファッツに冒険者の客? いいわ通して」
「了解、すぐ連れてくるんで」
それだけ言うと直ぐに戻っていった。
「どうしたカリーナ? なんかあったのか?」
「あんたに冒険者が客だって、ヤスオならフィルが連れて来てるでしょうし違う人でしょ。死んだ冒険者に関係ある人だったらちょっと面倒よね…」
そんな事を話していると再びドアがノックされる。
再びカリーナが対応したのだが客の顔を見て驚いた表情を見せた。
「あ、あんた……」
「すみませんお邪魔しますぞ。団長氏、副団長氏お久しぶりですな」
メガネをクイッと持ち上げた、ふとましい男性。
強力な阻害魔法の使い手、オッターが其処に居た。




