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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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35-01 【忍び寄るもの】 Ⅰ

 

―自警団 詰め所



 その日ハウルはいつも以上に顔をしかめさせていた。

 机の上に並んでいる書類に目を通し額に手を当てながら大きくため息をつく。


「フィールドのモンスターの挙動がおかしい…既に何人も冒険者が返り討ちになっている、か。これで死なれたら面倒だ」


「だな…ダンジョンじゃなくてフィールドってのが厄介だ」


 冒険者は命を掛けて冒険するから冒険者だ。

 勿論その場合自分の命が無くなる事も想定して動いている。つまり冒険者が死のうと生きようと普通で考えれば何の問題もない。知り合いの冒険者などが死ねば心こそ痛むだろうが、町の人間に取っては赤の他人が死んだだけだ。


 だが…ここホープタウンではそうは行かない。

 他の町や村のように豊潤な資源がそこまでない。町にとって悩みのタネであるダンジョンがすぐ近くに複数存在する。そしてなにより―


「このペースで冒険者の来訪が少なくなれば町の経済に支障がでる、か」


 この町において冒険者は大事な働き手でもある。

 慢性的に人が少ない上に、町を護るために人員を割いている為冒険者の様な人員は喉から手が出るほど欲しいのだ。報酬こそ割高になるが万一の際には町を守ってくれる冒険者が複数居るのはホープタウンにとって必要不可欠とも言える。


 そこで【フィールドで冒険者が大怪我もしくは死んだ】と言う情報が流れた場合に彼らがここを敬遠してしまう可能性がある。規模を縮小すれば冒険者がそれほど居なくてもどうにかなるが、かなりの経済的な打撃になるのは間違いない。


「つっても、冒険者に危ないから外に出るなとはいえねぇしなぁ」


「奴等も馬鹿ではない、広報誌に出しておけば誰か彼か注意しだすだろう」


 冒険者は此処に滞在しているだけであり、町の人間ではない。

 そのため自警団があれこれ言う事は出来ない。ヤスオやアリアオロの様な冒険者なら話を聞いてくれるだろうが、この町に居る冒険者が全てそういう人種ではない。むしろヤスオ達の方が珍しい程だ。


 ならば冒険者がよく利用する場所に張り紙をしたりそれとなく店主達から情報を流して注意喚起する程度が限界だろう。既に幾つかの店には張り紙等をしているし自警団に席を置いているセイルも道具屋なので冒険者とは毎日嫌でも顔を合わせる事になるから色々話をつけているようだ。


「モンスターの大量発生以降、この街近くでもあいつらが群れる様になってきた、か……どう思うハウル?」


「さてな、小さな町では情報もそこまで入ってこない。ここらで一番大きな都市【アヴァンテラ】だったら今頃必死に調べてるだろうさ。あそこはそこらの都市より冒険者の出入りが激しいからな。だが、俺達はこの町を守るだけだ、それ以外は知ったことではない。情報は流石に集めねばならんがな。頭が痛くなる事ばかりだ。」


「そりゃそうなんだがな。この町にとっては渡りの冒険者も大事な働き手だ。あいつらが外で認識不足で怪我でもされちゃあやりきれねぇ」


 ファッツはなんだかんだと冒険者の知り合いが多い。

 自警団の団長としての責任を果たしながらも町を護るために強くなろうとし、冒険者と何度も組む事が多いので仲が良くなった相手も結構多い。冒険者の生死は自己責任とはいえ、ダンジョンではなく比較的安全なフィールドで死んでしまうと言うのは気持ちの良いものではない。


「何にもなければ良いんだがな……開いてるぞ」


 ファッツが愚痴を零した時、会議室のドアが叩かれた。

 入ってきたのはロシェルという歳若い自警団員で主に経理を担当している。


「失礼します。あぁ二人共揃ってましたか」


「おっロシェルじゃねぇか。一体どうした? なんか浮かねぇ顔してやがるな?」


「この顔は生まれつきです…とまぁ、実際あまり良い情報じゃないんですけどね」


 ロシェルとしてもこれからこの報告を伝えるのは気が滅入る物だった。

 

「…町の外より少し離れた場所で警邏の自警団員が町民及び冒険者達の遺体を回収しました。この町を拠点にしていた低ランクの方のようです。僕も何度かお話しした事があります」


「!? …続けろ」


「恐らく依頼を受けていたのでしょう、薬草の束を籠に詰めていた町民の人がイましたから。全身毒によって爛れていて確認は取りづらかったですが、間違いなくホープタウンの人です。冒険者達の傷を見るからに複数のヴァイパーに囲まれたようですね。鱗粉もついてましたから追加でパライズモスも居たのでしょう。下位ではひとたまりもない」


 淡々とした口調だったが、その中に確実に悲しさを含ませたロシェル。

 事細かな詳細が書かれた資料を手渡すとファッツはひったくるようにそれを奪い取る。


「……くそ…がぁ…じいさん…あいつら…!」


 亡くなった冒険者も町の人間もファッツの知り合いだった。

 最近此処に来た気のいい冒険者で、何度か一緒に狩りに出たこともある。まだまだひよっこの冒険者だったが団結すればパライズモスやヴァイパー程度に負ける程ではなかった者たちだ。

 町の方の被害者もファッツが小さい頃からの知り合いで薬草を使っての料理が得意な老人だったのを覚えている。


 資料に寄ればパライズモスやヴァイパーの数は恐らく10を超えているらしく、それもヴァイパーの這いずった後を見るに途中で後列から奇襲された可能性が高いらしい。


「…やはり起きたか。それも最悪な形で」


 冒険者が死ぬのは最低限許容出来たが、町の人間まで巻き添えで死んだとなってはのんびりしている場合では無いと直ぐにこれからの事を思案していく。


「ファッツ、団員を呼び集めろ対策会議を開くぞ。恐らくだがこれで終わるとは思えん」


「…わかった……ロシェル! 今すぐ皆を集めてくれ!」


「お二人ならそう言うと思ってましたので、他の自警団員は招集しています。冒険者は流石にツテがないので呼べませんが…注意喚起だけはしておこうと思います」


 慌ただしくなる中ハウルは窓の外を見る。

 暖かく陽気な天気でここはいつもの町なはずなのに、何故か暗く見えた。


「……また、何かが起きるな」



 平和な町だったホープタウンに何か恐ろしい物が忍び寄ってきていた―




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