33-03 【譲れない物と槍】 Ⅲ
誤字指摘皆さん有難うございます。
スレの方で多用してる名前はよく間違えて書いてしまう事が多いです(汗
努力は裏切らないというのを改めて実感する。ほんの数カ月前はハウンドを倒すのも命掛けだったのに得意としていない槍を装備して技も使わずハウンドを無傷で倒した時はちょっと感慨深いものを感じた。
あれから僕達は鍛錬を続けながら少しずつ先にすすんでいる。戦っていない時はフィル君から槍の扱い方などを教えてもらい、それを頭に叩き込んでいく。頭は大して良くなってはいないが【知】上がっているお陰で物覚えだけは良くなってきた。一度読んだ本などは大体覚えておくことが出来ている。流石に1文字1文字完璧にって訳じゃないが、どういう内容でどういうものだったかなどは簡単に思い出せるようになった。
槍の扱い方も同じく聞き学び少しずつ覚えていく。後は実戦でどこまで動けるかと言う所だろう。
「1体ならハウンドも無傷で行けたか。でも数が多いと厳しいなぁ」
「槍は薙ぎ払うより突く方が強いからな、どうしても威力が一点集中しちまう。そこを技とかで補うけど普通に薙ぎ払う程度じゃ余程武器の性能と力が強くないと吹き飛ばして逆に敵を分散させるだけだからな」
「あんな馬鹿力で薙ぎ払われたら人間なんてもれなく死ぬっつーの」
冷や汗を流しながら言うミキ。確かに普通に薙ぎ払われただけでも普通の人なら大きく吹き飛んで墜落ダメージとか通常ダメージとかで動けなくなりそうだ。僕が初期の頃なら多分一撃で死んでるか這いずって泣きわめいてるだろう。
「人間とモンスターが一緒な訳ねぇだろが、ウサギですら人間の大人レベルの体力とかHPを持ってるんだ」
「レベルが1ならばそれが普通ね。人間はモンスターと違って生まれてきたら確実にレベル1からスタートする。モンスターは自然発生しいきなり高レベルになるタイプが多いわ。更に人間と違い長く生きればそれだけで強くなる」
「人間はモンスターを倒すことで経験値を得る…どうしてモンスターだけなんだろうね? 鍛錬して筋肉はつくし体格だって変わる」
動物を倒しても経験値は入らないし対人だって同じだ、フィル君と模擬戦を何度もやったが経験値のけの字も入ったことは無い。てか僕はログを見る限り一切経験値が貰えてないみたいだが。
「それは少し誤解ね。一応モンスター以外でも経験値が入る方法はあるわ」
「へ? そうなのか?」
これはフィル君も知らなかったようでキョトンとしている。
「えぇ、あまり好まれた方法ではないけどね……」
カノンが珍しく言い淀んでいた。
「モンスター以外で人間が経験値を手に入れる方法……それは【ダンジョン】で人を殺した時に経験値が手に入るわ。相手が強ければ強いほど…ね」
「うげ……なにそれマジで?」
ミキが青ざめた表情で言う、隣ではフィル君や僕も似たような表情をしているだろう。アリアちゃんだけは表情が全く変わらないので分からないが。
「ダンジョンは瘴気によって空間が捻れてしまった場所、そこはフィールドや人の住む場所の常識が通用しないわ。突如トラップが発生したり、進んだ場所が明らかに元居たダンジョンとは違う形状をしていたり、とね。そこでは人間もモンスターの一部としてみなされるのか、殺すことで経験値を得ることが出来る。倒すだけじゃだめで、モンスター同様に相手を殺す事が必要なの」
衝撃的なカノンの言葉。ダンジョンでなら人同士で殺しあっても経験値になる…それを知っている人が悪人ならば必ず利用するだろう。なにせ相手を殺せさえすれば装備もお金も経験値だって手に入るのだから。
「そ、そんなことする奴がいるのかよ…」
「別にダンジョンに限った話ではないわ。冒険者全てが善人と言う訳ではないから。楽してお金を手に入れたいと考えるのは何も冒険者だけじゃないし…ね」
「まぁ、楽してお金貰えるならだけど…ミキ様は人を殺してまでってのはちょっと……」
「ふふ、シーフにしてはまともな考えね。とは言えこういう人種は稀にしかいないわ。相手が余程いいものを持っていないかぎり非効率的ですもの。逆にいい物を持ちすぎている相手だった場合返り討ち、絶対的な数は少ないわ」
「ダンジョンを探索する時はそう言う事も考えておかないと、か……」
一応パーティのリーダーとして指揮する事が多い僕には必要な情報だった。出来ればそういう人種とは会いたくないが覚えておく事に越したことはないな…
「ごめんなさいね、折角の鍛錬の途中なのに」
【―のーないかのん― あうあああああ!? やらかした!? かのんやらかしましたよ!? ここで話すってか訓練中に話す内容じゃないでしょおおお!? あかん、このままではこのままではハブられてしまう!? どうしよう?!】
「いや、ダンジョンに潜るなら必要な知識だし、今教えてもらえて良かったよ。ありがとうカノン」
「だなっ。俺は特に自警団だからそういう奴等は取り締まらないとだしさ」
「……そう、ありがとう」
柔らかい笑みをこぼすカノンに少しだけ見とれてしまった僕は多分悪くないだろう。隣でミキがだらしない顔してるとか言ってきたがスルーしてモンスター探しに戻った。
…………
周囲は草原が広がっているのでハウンドはともかくウサギは茂みに隠れて見えないから奇襲を受ける時がある。最近は殺気や気配にも気づけるようになってきたのである程度近くのモンスターならなんとなく判別出来るが、まるでスコープか何かで覗いてるんじゃないかレベルでモンスターがどこに居るか見つけ出すミキのエネミー感知力はほんとありがたい。
「おっ、彼処にスモールベアいんぞ? 周りには他にモンスターもいないみたい」
「よく見つけたなぁ…よし、スモールベアなら丁度いいし僕が行ってくる」
「おう。こっちは俺に任せとけ」
胸を叩いて言うフィル君に皆を任せ槍を構えてスモールベアに歩み寄る。直ぐこっちに気づいたスモールベアが臨戦態勢を整え此方に突っ込んできた。
―スモールベアが現れた!!
ミキの言う通り周りにモンスターは居ない。こいつに集中して攻撃を仕掛けよう。こいつはハウンドと違ってタフで硬い。スモールベアはブラウンベアーの幼体とも言われていて攻撃力も防御力も高いのだ。
ショートソードで切りつけた時もかなり力を入れないと体毛で受け止められてしまうのだ。【蓮華】を叩きこめば攻撃力も上がるので綺麗に切断出来るが普通の状態では防がれてしまう。
「……ミスリルスピアなら…たあああああああっ!」
モンスターが動くより早く槍を思い切り突き刺す! 鈍重なスモールベアでは今の僕の一撃を避けるだけの回避力は無い。
「ギイイイイイイイイイイイ!?」
―スモールベアに絶大なダメージ!!
穂先がスモールベアの右胸辺りに深々と突き刺さる。ショートソードでは途中の体毛で防がれてしまうが攻撃ランクが高いミスリルの槍はそんなもの全く無視して簡単に突き刺さった。防がれる事を考えて全力で突いたから逆に此方が驚いてしまう。
素早く引き抜き此方に飛び掛ってくるスモールベアを槍の柄の部分で防ぎ押し返す。かなりの衝撃が腕に伝わるがこの程度なら何の問題もない。
―スモールベアの攻撃!!
―ヤスオに微小ダメージ!!
この衝撃もダメージのうちに入るんだなと考えながらも再び槍を構え突き刺そうとすると身体が思い切り軽くなった!!
―ヤスオの攻撃!! 【槍突】を閃いた!!
感じる力のままにスモールベアに向かって突撃しそのまま深く突き刺しながら突撃する。全身に力が溢れそのままのスピードで突き刺したまま走り抜け槍を更に奥深くまでねじ込んだ。
「ギャアアアアアアアアアア!?」
槍はスモールベアの胴体を貫通し穂先所か柄の部分まで貫通している。僕が今やった攻撃を簡単に言うなら【体当たり】だ。恐らく先ほど閃いた技は槍と自身を強化して相手に突撃する技なんだろう。【蓮華】は剣にオーラの様な物が発動して敵を斬り倒すが、この技は全身と槍を包み込むらしいな。ちなみにこのオーラ名前とか無いそうです。
―スモールベアに致命的なダメージ!! スモールベアを倒した!!
―ヤスオを除く全員に経験値配布!!
ぐったりしたまま動かないスモールベアがそのまま消えていく。その真下に幾つかのドロップがあったのでそれを拾って皆の場所まで戻った。
「よっ、早速技閃いたな! 今の【槍突】だろ? あれは命中しやすくなるし威力も高いから【力】が強いなら結構使える技なんだぜ」
「ありがとう。うん思いの外早く閃けたよ、時間もまだあるし出来れば後もう1個位閃いておきたいな」
「うっし! それならもっと探さないとな!」
「探すのはミキ様なんだからなー、後で晩ごはん奢れよぉ?」
「あぁ、それ位なら問題ないさ。頼むよミキ」
ミキが居ればわざわざ探す手間がかなり減る。夕食程度で付いてきてくれるならもうバンバン奢ろう5番でもいいぞ? 安いし量も多いし。
「……ん……」
「ん? アリアちゃんこれ…?」
「……飲む……技……HP…使う………回復…」
アリアちゃんから手渡されたのはポーションだった。
「……作った………果実……いれた…か…ら……多分……美味し…い」
「多分って…ヤスオあんたそれ飲むの?」
「いや、自分で回復できるけどこれは…」
「……お手伝……い…する………飲んで……」
有無を言わせぬアリアちゃんの言葉にそのまま飲むしか無かった心の弱い僕です。それにしてもポーション自作とは凄いよなぁ…僕も鍛冶師見習いだから物を作る大変さはよく分かる。特にHPを回復するポーションとなれば作業も大変だろうに…
「うん、ありがとう頂くよ……!? これ…美味い?!」
ポーションの味は粗悪品や良品、高級品、ハイポーションに至るまでひたすらまずい。製造過程で味をつけるには専用のスキルと技術が居るらしいから回復効率を考えれば店売りは味なしが基本らしい。
だがアリアちゃんの様に商売目的で作っていないなら効果が下がっても美味しいポーションが作れるという。今貰ったポーションは今まで飲んでいたポーションとはまるで違いオレンジジュースの様な味がした。
―ポーション(高級品)を使用した!!
―HPがカナリ回復!! 全回復した!
「は……なにそれずっこい!! アリア私にも頂戴!?」
「……15万R……」
「ちょ!? お金取るの!?」
いやまぁそりゃあ無料じゃないだろうミキさんや。
「………冗……談…材料……あれば……作る……」
「ポーションの素材といえば普通に薬草ね。町周辺でも探せば見つかるし錬金術士なら自生もさせているけど…貴方錬金術も使えたのね」
「……ん」
こくこく頷くアリアちゃん。
錬金術が使えるとなれば、確かに材料を持って行ってお願いするのも有りかもしれないな。
「へぇ、自警団で働いてる医者の先生もさ錬金術士なんだ。結構錬金術士って多いんだなぁ」
「だねぇ。アリアちゃん今度材料持って行くから暇のある時作ってもらえるかな?」
「……ん……まかせ……ろー……」
両手を腰に当てこくこく頷くアリアちゃん。
彼女がポーション作成を引き受けてくれたお陰で回復剤にはこれからかなり余裕が持てそうだ。後は僕がダンジョンで戦う為の最低限の槍の実力を上げていくだけだ。
早く最低限槍で戦えるようにしないとな。




