32-08 【フィールドアタックと弓使いと兄弟戦士】 Ⅷ
32話はここで終了です。
31日も元旦も投下予定です。 時間は20時で変わりありません。
―深夜 ヤスオの自室
誰もが寝静まった中一人で剣の素振りをしていた。
この長屋の部屋はそこそこ広いし、ショートソードの様な短い剣ならある程度振り回しても何の問題もない。ゆっくりと1回1回確実に意味を込めて剣を振る。
でも頭の中ではずっとノーヴァ君の言った言葉が頭を離れなかった。
何も言えなかった。1から10まで全部彼の言う通りだったからだ。この剣を使っているのは自分の趣味の問題で、それを命をかける戦場に持ち込むのは仲間を危険に晒す行為なのだ。それでもやはり胸が締め付けられる感じがした。
新しい剣や今より確実に強い武器は沢山ある。なにせ作っているのが親方なのだそれらの武器が自分が作った武器より弱い訳がない。だけどその武器よりも今手に持っている剣の方が自分には魅力的にみえてしまう。戦いの中で壊してしまったとはいえ森に居た時から使っていた剣なのだから当然だ。
この剣で初めてウサギを倒した時の事は今でも鮮明に覚えている。恐怖に怯え、ガタガタに震えながらがむしゃらに剣を振ったあの時のことを。今ではたやすく倒せるようになったあのウサギ………だが、あの殺されるかもしれないと言う恐怖とモンスター斬った時の感触は忘れていない。そして命を助けてくれた剣に感謝したことも。
「…せいっ!」
考えている間も剣を振ることは忘れない、教えてもらった剣の型をなぞるそうにこなしていく。これが全てモンスターとの戦いで活かされると言う事はない。寧ろ殆ど役に立たないと言っても良い。それは僕が上手く活かせないのもあるし、実際にこちらを殺しに襲い掛かってくるモンスター達が素直に斬られてくれる訳じゃない。何度も実戦を経験したまにあるタイミングでそれを活かせる時が稀にあると言う位だ。
でも剣を振る型に意味が無いって訳じゃない。精神鍛錬になるし剣を上手く扱うための型なのだから、自然に剣の扱い方も上手くなっていく。戦闘ではそれを応用して戦えるようになってきたし努力は人を裏切らないのだと改めて思う。
「……ふぅ……」
カチャリと音がなるショートソードを見つめる。無骨な装飾すらない鋼の剣で色々な小剣類の中これを選ぶような人はほとんど居ないだろう。剣の質も見た目も普通の売り物の方が上なのだから。だが、それでも…どんな聖剣や魔剣、強い武器、かっこいい武器よりなによりも、自分はやはりこの剣が好きなのだ。新しい剣を持つ…それは自分には凄く受け入れがたい事だった。
「やっぱ女々しいんだな僕は…こいつは自分だけが鍛えたいって思ってしまう、こいつ以外の小剣は持ちたくないと考えてしまう」
詰められて意固地になっている訳ではない…だが、この剣は既に僕にとって自分の身体の延長なのだ。ただの量産品だと皆は思うだろう、実際量産品程度の性能しかないだろう、でも…この剣があるから今の自分がここにいる。この剣のお陰で今の僕がある、宝物であり、命の恩人であり…そして僕の剣はこいつしかいないんだ。
もちろんこの剣を意地を張らずに師匠に鍛えなおしてもらうのも手だ、自分が叩き直す剣より何倍も強いだろう、それこそ新しい剣を買う必要が無い位に。
「………あれから少し僕は強くなれた。お前を手に入れたおかげで…なければあそこでウサギのエサだったよな」
妥協は…しない、したくない。たとえ皆とパーティを組めなくなったとしても。この剣だけは僕自身で、そして小剣をメインで戦うならばメイン武器はこいつ以外に考えられない。覚悟を決めよう。
「お前は僕が鍛えるよ。僕が手に入れたんだ、例え初めはあの死体の人の剣だったとしても…今は僕の最高の武器なんだから。きっと親方にも負けない位強い剣にしてやるんだ!! 絶対に鍛えあげてやるからな!!」
答えは決まった、後は明日話すだけだ……ダンジョンで戦えなくなるかもしれない以上カノンとパーティを組むのは難しくなるだろう。暫くの間はカトル君のパーティに混ぜてもらいながらフィールド戦うことも考えておこう。
剣は買わない…ならどうするか。鍛冶の腕を上げてこの剣を強い剣に打ち直す。だからその間までの【違う種類】の武器を装備しよう。ガキの考えだ、でも僕はガキで良い、自分の思いを捻じ曲げて戦うのはきっと何処かでねじれてしまうから。それならバカでいい。
「……そうだ、槍を買おう。剣が折れてから最後まで魔法と槍だけで戦ってたんだ。槍ならフィル君から教わればいい」
一応槍の鍛錬も行ってきている。
フィル君の様に【槍破術】の【技】は覚えていないが【槍修練】はある。エスタさんには槍についての戦い方も教わってきているから訳を話して槍の鍛錬も着けて貰おう。
「この選択が正しいって訳じゃないけど……僕にとっては最善だ」
明日二人はどう思うだろうか……
…………
―翌日 ホープタウン中央広場
「え…? 剣じゃなくて槍を買う…の?」
「……ぉー…」
やはりと言うか何というか予想通りのカノン達だった。
何にせよ昨日考えた自分の考えを二人に告げる。
「ごめん二人共。やっぱ僕にはあの剣以外の剣は使えない。だから前使った槍を鍛えようと思うんだ。だからダンジョンアタックは少し待ってくれないか? 無理だったら他の人を誘えるように知り合いを辿ってみる」
ウォレクさん達兄弟なら僕より前衛として強いしカノン達を守ってくれるだろう。もしダメになった場合はあの二人に話をつけるつもりで居る。が、カノンの答えは予想外な言葉だった。
「……貴方がそうするというのならば止めはしないわよ。槍は槍でリーチも長いし技も様々にあるしね。ヤスオさんは色々出来るみたいだから、幅が膨らむのは此方としても利点があるわ」
「………プリ…ン…食べ…る……友達……だか…ら…」
アリアちゃんは何かそう言うと思ってた…冒険者っぽくない所があるから…
「剣の技の【蓮華】も【三散華】も使えなくなる、槍は小剣より攻撃力が高いって言ってもの戦闘時の攻撃力は確実にさがる。だから最悪パーティから外してくれても構わない。暫くは町のフィールドでカトル君達と鍛錬しようかと思う。迷惑はかけられないしこれは自分のわがままだから」
「馬鹿な人。その程度で私がパーティを抜ける訳無いでしょう? びっくり箱のような貴方、先がどうなるのか私も楽しみにしてるのよ? 寂しいこと言わないで頂戴な。別に急いでないものそれにダンジョンアタックの時はいつものメンバーならその剣でいいわよ。貴方の自由になさいな」
宝石のような髪の毛をゆっくりとかきあげ微笑むカノン。年下で、戦闘中は凍てつく様な瞳を見せる彼女の表情はとても柔らかく微笑んでいた。
【―のーないかのん― 大丈夫よヤスオさん! 貴方がその剣を大事にしてるの知ってるもの! それにこれは皆で一緒に頑張って更に絆が深くなるフラグ!! つまり固定パーティが出来る可能性大よっ! 一緒に頑張りましょうね!! 暫くはフィールドで訓練よっ! ビシバシ行くからねっ♪】
「有難うカノン、アリアちゃん。早く剣を鍛えて戦力を高めるよ」
「………ん……槍…買う……」
人差し指を武器屋さんの方に向けてぴこぴこと腕を揺らしているアリアちゃんに僕達は笑みを零しながらセレナちゃんと親方が居る武器屋に向かいはじめた。




