32-06 【フィールドアタックと弓使いと兄弟戦士】 Ⅵ
後衛に任せる訳にはいかない数のモンスターが狙ったかのように真後ろから襲いかかってくる。前衛の3体も厄介所ではないが、後ろを放っておく訳にはいかない。
「二人共…! ここを任せてもいいですか!」
「む、それは……!! わかった! 彼女達を頼む! ウォレス、死ぬ気でこいつらをここで堰き止めるぞ!」
「挟み撃ちか…狙う様な知能は無いはず、運悪くかな…大丈夫、こっちはなんとかしよう」
「行ってきます!!」
二人に支援を掛ける時間もない、自分に回復魔法を掛けカノン達の後ろに回りこみざまに両手を前に突きだす。
「吹き飛べ!! 【爆裂】!!」
熊を中心に据えて爆発の魔法を唱える。
轟音と爆炎がモンスター達を焼き吹き飛ばすが、ヴァイパーならともかく熊がこの程度で止まる訳がない、ダメージを受けたヴァイパー達は見るからに移動力が落ちているが熊のスピードは殆ど変わってない。
「間に合え…!! 【防壁】!!」
対象一人の防御力を上げる魔法を唱え全力でその場に立ち塞がり盾を構える。ここで吹き飛ばされたら、熊はそのままアリアちゃん達に襲いかかる。ここで死んでも止めなくては…!
「ヴァイパー4、熊1…まずいわね」
「……ん……カノ…ン…前……私…ヤスオ…助け…る」
「頼むわ、あの数をヤスオさん一人に任せるのは大変だから」
カノンとアリアちゃんの言葉が聞こえる。
前衛は恐らくカノンとノーヴァ君で対応してくれるのだろう。アリアちゃんが此方に回ってくれるのはとてもありがたい。
「がああああああああああああああっ!」
「き、来やがれっ!! 【土壁】【風壁】!!」
地面からせり上がってくる土の壁をあっさりと突き崩し風の防壁も殆ど意味がなく後もう少しで僕に突撃してくるだろう、今の僕で防ぎきれるか……
「…へい…き……助け…る…」
「アリアちゃん!? こっちまで来たら!!」
直ぐ横までアリアちゃんが駆け寄って来ていた。
援護してくれるのはありがたいが、こんな近くまで来ていたら護っている意味が…と考えている間にも熊はもう目の前までやってきている自分の二倍は余裕で超える熊が今正に僕達を攻撃しようとしたその時…アリアちゃんの行動の方が少し早かった。
「……【防壁の門】……展開」
一瞬、瞬きすらしていないのに目の前に巨大な門が現れる。アリアちゃんとダンジョンに行くときは大体お世話になっている帰還用の門ではなく、全体的に黒い鉄の様な物で出来ている門が出てきた。
同時に門に強い衝撃音が響く、恐らくあの門におもいっきりぶつかったんだろう。門は全く微動だにしていない…あのだけの勢いでアンナものにぶつかったらただじゃ済まないな…
召喚された門はそのままスーっと下部分から消えていく。その先には倒れこんでいる熊とそれに巻き込まれただろうヴァイパー2体が潰されて呻いている姿、そして門が消えたことで襲い掛かってくる残りのヴァイパーだった。
「……あれ…1回…だけ………」
「十分だよ! 有難う!! 【爆裂】!!」
たった1回でピンチを切り抜ける事が出来ただけで十分だ。後で改めてお礼をしなくては、護っているはずなのに護られているのは少し情けないがその分戦って返していこう。
再び放たれた爆発でヴァイパー達は流石に消えていくが、熊はあれで3~4割削っただけに過ぎない、ここからはアリアちゃんと二人で戦うのみだ。
「アリアちゃん、援護をお願い。僕があいつを止めに行く」
「……ん……」
「ありがとう…おおおおおおおっ!!」
任せろと言わんばかりに大きく頷くアリアちゃんを横目に剣を構えて今だ倒れている熊に突撃する。あの場で魔法で戦う手もあるが、既にMPは殆ど残っていない。爆裂数回に、火球、支援魔法に、壁魔法を何回も使っていて精神的な疲労がピークになっている。
更に言えば彼処で戦えば皆を巻き込んでしまう。ここは前衛として前で相手を翻弄しつつアリアちゃんの攻撃魔法に期待するのが一番安全な方法だ。
「【蓮華】!! 【三散華】!!」
「がああああああああああああっ!?」
連続攻撃を一番効果がありそうな首を狙って放つが、やはり剛毛の前に止めきられてしまう、それでも鉄の塊を首に叩きつけた衝撃はあるのでぐらついているのがわかる。
倒れこみながらもがむしゃらに暴れるが、その程度の攻撃ならば問題なく回避できる。
「……【邪妖糸】」
アリアちゃんの魔法が鉄すら切り裂きそうな糸となって熊の振り上げようとした左手を切断する。
「ぐおおおおおおおおおおおっ?!」
左腕から血が飛び散りバランスを崩して再び倒れこみ、そこを僕が再び追撃を掛ける。
「お前1体なら…問題ないんだよ!! 【蓮華】っ」!!
脳天を叩き割るつもりでショートソードを突き刺す。
流石に回避や暴れる体力が残っていないのが、吸い込まれる様に熊の口内に突き刺さる。そのまま全体重を乗せ突き刺した。
「はぁ……はぁ……よしっ!」
「……ヤス…オ……がんば…った……」
彼女の言葉通りゆっくりと消えていく熊。そこには1枚のカードが落ちている。なんとか倒すことが出来たようだ、
「後はあっ……あっちも終わったかぁ……」
僕達の後遅れる事少し、援護に回る前にあっちも終わったようだ。
流石に無傷とは言えず、ウォルクさんもウォレスさんもあちこちから血を流している。もう1本のMPポーションを飲みながら僕は二人の治療に回った。




