32-02 【フィールドアタックと弓使いと兄弟戦士】 Ⅱ
―ホープタウン フィールド
最早見慣れたフィールドに僕たちは集まっていた。
「問題なく集まったようだね、それじゃヤスオ点呼頼むよ」
ノーヴァ君が連れてきたのは前に露店を出していた二人の兄弟でお兄さんの方が【ウォルク】さん、弟さんの方が【ウォレク】さんという。190近く超えるような筋骨隆々のいかにも戦士と言わんばかりの体型で腕の太さなど僕の腕の2倍はありそうなほど逞しい。いわゆるマッチョという感じだ。武器などは持っておらずカトル君と同じように素手だけで戦うファイターと聞いている。
「今日は宜しく頼むよ。クマ退治はかなり実入りがいいからね。ダンジョンじゃないのは残念だがシーフが居ない点を考えれば妥当かな」
「今日は誘ってくれてありがとう、頑張らせてもらうよ」
二人は双子らしく装備も見た目も殆ど変わらない、まったくの瓜二つだ。お兄さんのウォルクさんが黒いレザー装備に身を包んでいるのに大して弟のウォレスさんは焦茶色のレザーを装備している。装備を変更されたら正直どっちがどっちなのかわからないほどそっくりだ。
二人共レベル11と言うのだからとても期待できる。中級間近のファイターの戦いをよく見させてもらおう。
「それじゃ改めて点呼を。1です」
「……に…」
「3よ」
「4だね」
「じゃあ私が5だな」
「最後は僕で6かな」
点呼は冒険者のお約束である、これを忘れちゃだめらしい。
「今日は宜しくお願いするわね。レベル11が5人、10が一人。アリアは後衛だし、魔法の腕も確かだから問題ないわ。ヤスオさんは言わずもがな…頼りにしてるわよ」
【―のーないかのん― 別パーティ!! 別パーティよ!! 燃えるっ!! ヤスオさんとアリアちゃん以外はほとんど組んだことがない人…! これは友だちが増えるフラグね!! 広場にいてよかった!! よかった!! 誘ってくれて有難うヤスオさん! 私頑張るから!!】
半分ほど知らない人ばかりなのに何一つ冷静さを欠かずに色々進言していくカノン。アリアちゃんはアリアちゃんで空の方をボーっと見つめて緊張ってのは全く無さそうだ。僕は結構緊張しているし力量的には一番下だから頑張らないとだよ。
「タンクが居ないのがクマ相手に不安が残るが、まぁ…さして問題ないね。ヤスオを含め今回の前衛3人の事はよく知っている、頼りにしているよ」
「有難う、期待に答えてみせるよ。なぁ、兄さん」
「あぁ、任せておいてくれ!! ヤスオ君も今日は頼むぞ! ノルマは10体を目指そうか!!」
ぐっと力瘤を作って人好きのする笑顔を見せるウォレクさん。前も露店の時に思ったけど、優しそうな二人で良かった。
「わかりました!! クマが出るのはここから少し先、途中にヴァイパー達がいるんでできるだけ倒していきましょう。挟み撃ちは厄介ですし」
「………がんば……る……」
ぴこぴこと擬音が付きそうな位手を振るアリアちゃんに癒やされながら僕達はフィールドを歩き出した。
町や村を街道から少しでも離れるとモンスターの生息地に辿り着く。町の周囲はファングラビットやハウンド、まれにスモールベア位しか出てこない、街道の方は常に自警団がパトロールをしているので、ハウンド位なら紛れ込んでも倒せるから結構安心だ。
こういう街道から逸れた場所が僕達冒険者の稼ぎ場や修練所でもある。奥…町から離れれば離れるほどモンスターは強いのが多くなるので、力量に応じて狩場を変えていくのだ。僕ならばまだ下級なので一人ならこの辺でハウンドなどをメインにするが、パーティとなればダンジョンに潜ったりダンジョン近くで熊…ブラウンベアーを倒したりヴァイパーやパライズモスを相手にする。
今回僕達が向かっているのは町から数キロ離れた場所、ダンジョンの近くだ。この辺は木が疎らに立っていて見晴らしもあまり良くないのが難点だが、パライズモスが少ない上に、熊が多い…この辺で中級間近や中級レベルの人達はメインの狩場として利用しているらしい。 僕が此処に来るのはまだ片手で数えるほどしか無いが。
「そう言えばウォルクさん達はウィザードナイトを目指してるんでしたっけ?」
「まぁね、これが中々険しくてね。物理は中途半端、ウィザードナイトになれないと魔法は使えない。メイジからの上位転職じゃないから大変さ」
ウィザードナイトはエスタさんと同じ上級クラスだ。前衛としての戦闘力と上級・下位までのメイジ魔法を使いこなせる万能クラスだ。ただし戦闘能力は中級クラスに毛の生えた戦力しかもたず、魔法は上級・上位に遠く及ばないとそれぞれ単品では他のクラスにまったく勝てないが、このクラスには【魔法剣】という凄まじいクラス依存スキルが存在する。
名前の通り【技】と【魔法】を掛けあわせて放つ攻撃の事で、その威力は他の上位クラスに勝るとも劣らない強大な一撃を放つらしい。これを使いこなすことが出来ればかなり強力なアタッカーになれると言う事でこのクラスを目指す人はかなり多いのだが、大体はメイジからこのクラスになることが多い。
理由は簡単でファイターだとウィザードナイトになるまで一切魔法が使えないのだ。特にファイターは【知】や【魔】が上がっても戦闘力が上がるわけでもないので、中級時代が一番辛いらしい。ウィザードナイトにクラスチェンジするまではずっと修行期間なのだからどれだけ苦行かわかる筈だ…魔法も使えないのにステータスが横並びっていうのは前衛戦士として頼りないと言われるのはなんとなくわかる。メイジはメイジで力などが上がるから魔法威力が弱くなるし、下級や中級の頃はハブられる事も多いそうだ。
所でこのステータスの上昇の仕方が良くわからないんだよなぁ…ファイターなら【力】や【体】が上がりやすくて魔法ステは上がりにくいと聞いたのに、どうしてウィザードナイトを目指すとステータスが平均的に上がるんだろうか……この辺は本人達もよくわかってないし、色々研究されているらしい。わからないならどうしようもないよな……
「ヤスオ君は魔法戦士だったね。はじめから魔法も物理も問題なく使えると言うのは羨ましいよ」
「あはは……いつのまにかこう…」
クラスもレベルも無いとは言えないよなぁ……
「僕と兄さんは運良く魔法に似たアクティブスキルを覚えられたからね、僕はそっちの方が得意で、兄さんは物理が得意なんだ」
「あぁ、ノーヴァ君が言っていた奴ですね」
「うむ私の方は弟に比べると弱いがね。戦闘になったら見せてあげよう」
「…………ぉー……」
アリアちゃんが興味津々の様です。
「アリアちゃん、今日は来てくれてありがとう。助かったよ」
「………ヤス……オ……友達…だか…ら……」
「うん、嬉しいよ」
「……んー……」
アリアちゃんは年齢に似合わず子供っぽい、きっと何かあったんだろうと思うが、それを追求してはいけないよな。でも困っていたら助けて上げたくなる子だ…だって友達だからね。
「それにしても、今日は少し様子が変ね」
「カノンも分かったかい? ………モンスターに今の所1体も出会っていない。最低でもハウンド位襲ってくると思ったんだが、その気配もない」
「…あ、確かに」
ここまで数キロ歩いている間遠くにモンスターの姿は見えたが戦闘にはなってないし、此処に来るまで一度も戦わないなんて事は今まで無かった。運が良かったのかそれとも何かあったのか……嫌なことが起きる前触れじゃなければいいんだが…
「ふむ…シーフが居ない分我々で警戒をし続けるしかないな。ウォレス、お前は後ろを頼む。ヤスオ君すまないが私と前方を警戒してくれ」
「わかりました」
こういう時こそ奇襲が怖い、直ぐに意識を切り替えて歩き出した。




