CP-14 【はじめてのプレゼントとふぃーば~】 Ⅳ
―雑貨屋【スーパーエキセントリック・焼き芋フィーバー】
リアルで【ゴゴゴゴゴゴ】と効果音がなりそうな雑貨屋の中で店主であるナッツは今年の隠し芸用に用意していたびっくり芸をやらかしそうになる位に居た堪れない気持ちでその場に立っていた。ものすごく逃げ出したいが店主としての矜持が彼に逃亡を許さなかったのだ、そう…彼はもう逃げられなかった。
目の前でお互いに一つの商品を手に入れようとする為に牽制している二人……カノンとミキが譲らないとばかりに目から火花を散らしている、実際に散らしている訳ではなくそんな一触即発の雰囲気なだけなのだが……近くにいた一般人のお客さんはナッツに見事な敬礼をして出て行った、涙目で助けてと訴えたが爽やかな笑顔で逃げられている、ナッツに逃げ場はもう無い。
「これ私が目をつけてたんだけど? つか、前にも狙ったの持ってったわよね」
軽くジャブで牽制するミキ。
「あら? 貴女がその魔法書を持つ意味があるのかしら? それには生活魔法は載っていないわよ?」
それを軽くスウェーで避けるカノン……の様に見えるが―
【―のーないかのん― ちょっとぉぉぉぉっ!? 何がどうしてこうなった!? こうなったの!? なんでシーフが同じの欲しがってるんですかぁぁぁ!?】
実際はクリティカルヒットしてわたわたと慌てているカノンがそこに居た。雑貨屋まで来たのは良かった、その場でお互いに離れて目的の物を物色し始めたのだ。カノンもミキも実は同じものを求めていたことに気づいたのはその魔法書を見つけ同時に手を伸ばしたその時であり、そこから今の様な膠着状態に陥っている。
「あ、あのさぁ…店内でにらみ合いされると困るんだけど…じゃんけんとかでいいんじゃないの?」
出来るだけ平和的な解決をとナッツが引きつった笑顔で妥協案を出すが、カノンは威圧と思案顔を崩すことは無い―
【―のーないかのん― だめよっ! ここであれを取られたらヤスオさんにあげるプレゼントが! そして魔法を教えてあげて更に仲間の絆を深めるフラグが消えてしまうわっ! というかなんでシーフが魔法書欲しがるのよっ! 嫌がらせ!? 嫌がらせなのっ!?】
既にカノンの頭の中ではプレゼントを渡す→魔法について一緒に勉強する→お互いに近くなる→仲の良い仲間になれるという計算式が出来上がっていたのでこれを譲るという考えは頭になかった。
ちなみにミキはミキで、別にこれじゃなくても違うの探せばいいと思っているのだが、一度カノンに欲しいものを持って行かれた手前2度も取られるのは癪に障るという理由の為譲る気配はない、いつもなら怖がっているカノンの威圧にも問題なく耐え切っている所から絶対に譲る気は此方にもなかった。
だがこのままではらちが明かないという事でミキはしぶしぶじゃんけん勝負を許諾する事にする。
「店員もああ言ってるしどうするの? 私はそれでいいわよ?」
「埒が明かないしそれでいいわ。負けても文句は言わないで頂戴ね」
「ふんっ、こう見えても賭け事の勝負運は強いのよ私は。絶対勝つ!!」
「あら、ならその自信打ち砕いてあげるわ」
【―のーないかのん― 燃え上がれ私の勝負運!!】
再びゴゴゴゴゴと音がしそうな威圧を込めてお互い美しいのに出来れば近寄りたくないジャンケン勝負が始まった。
(女の子は怖いなぁ……)
ナッツはそんな二人を見て冷や汗を流し勝負の行方を見守る事しか出来なかった―
「ぐぬぬぬぬぬ…ま、まさか15回もあいこになるなんて…!!」
「ふぅ…さて、続けましょうか?」
何度も何度もあいこを続けるその様はもうじゃんけんというか遊戯を借りた争いにも見える……が、やはりただのじゃんけんである。終わった後二人で何やってたんだろうと落ち込みそうなほどのめり込んでいた―
そして勝者は25回目のあいこの後に……―
…………
―宿屋【おまんら誰も寝かしまへんで!!】亭 カノン自室
テーブルの上に一冊の分厚い本が置いてあった。その本の題名はこう書かれている。
―【聖魔法の書】
「流石に夜に行くのはあれよね…近い内に渡すことにしましょうか」
椅子に座りながらカノンはぽつりと呟いた。
この魔道書はナッツの所で手に入れたもので、ミキとの勝負の結果手に入れたものである…引き分けという勝負の末にだが。
実はあまりにもあいこが続き過ぎるので一度冷静になってお互いに何が目的でこの本を求めているのか話す事になった。そこで二人共ヤスオに渡す為に求めていた事を知りミキが妥協案を出してきたのだ。
【はぁ!? ヤスオにお返し!? あによ…私と同じかよぉ。はぁ、じゃあ面倒だし半々にしましょ。私もあいつにやるつもりだったし金が半分で済むならそれでいいわよ。てか、あんたが渡してよね。半分払うんだから。いい? ちゃんとミキ様も払ったって言っておいてよね!!】
とまぁ、お互いに半々を出しあい二人で買ったプレゼントという事になったのだ。断る事も出来たがそこまで意地悪くする理由もないので二人で妥協し魔導書を購入することになった。ナッツが心底ホッとした表情をしていたのを見て暑くなりすぎた事を反省し、お詫びとばかりに色々買っていって水に流してもらっている。
「あの子がお返しね…それなら納得だわ。彼女、ヤスオさんだけには心開いてるようだし…気を許せる相手が居ないのかしらね」
ミキが貰ったプレゼントにお返しをするなど考えた事が無かった。あの誰に対しても高圧的に話し、人が近づくことを良しとしない彼女だがヤスオと話す時だけは無意識かもしれないが自分やフィル達と会話する時とは違い気安いし冗談を言ったりもする、おそらく助けてもらったからこそ多少は気を許しているのだろうとカノンは思う。
買い物が終わって別れる時に何か歌を歌っていた所からして、ヤスオにプレゼントを渡す事に悪い気はしていないのだろう。
「ふふ、可愛い所あるじゃない、少しだけ見直したわ。どうせならそれを他の人も見せればいいのに………なんて私も人のことは言えないか」
素直じゃないのはお互いそうなのだ、カノンも友達が欲しいしもっと沢山話して楽しみを分かち合いたい…が、今までが今までなのでもうあの話し方を変えられそうにない。小さな頃からたった一人で戦ってきたからこそ身についてしまった防衛術なのだから、もう変えられる事は出来ないのだろう。
「そうね…魔法習得の際には彼女も呼びましょうか。パーティがギスギスしてたら戦闘中に事故が発生する可能性がある。少しはお互い分かり合わないと、ね」
【―のーないかのん― そして! あの子とも仲良くなってパーティの絆を深めるのよっ! 目指せ友達10人! 今はえーと、ヤスオさん、ファッツさん、フィル君、ハウルさん、アリアちゃん、セイルさん、マリーちゃん………凄い! もうすぐ10人超えるわっ! やるわよカノン! ふぁいとー!!】
彼女の友達沢山大作戦は実るのだろうか…それはまだ誰にもわからない。
―31話に続く




