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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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CP-12 【中級のダンジョンアタック】 Ⅱ

胃薬の食べ比べは身体に悪影響を及ぼします、どうか無理はされませんように。

―休憩中 


 アリーの張る結界魔法のお陰でこの辺りに居るようなレベルのモンスターは近くづく事も出来なくなる。強力な防御魔法でありちょっとやそっとでは破壊できない結界ではあるが、魔法を唱えるためには少しの間の待機時間を必要とし、更に本人は結界の維持の為に激しい行動が取れなくなるデメリットがあるため、戦闘時にとっさに張るという手段は取れない難点がある。この為この魔法は主に、野営、休憩をする時などに使われる自衛手段の魔法となっている。


「ふぅ、これでよし…と」


「辺りにモンスターは居ないみたいだよ、ここで2~3ターンは休めそうだわ」


「成る程、さっきから連戦続きだったしこれで漸く休めそうだな。それにしてもほんとシーフが居るってのは安定さが段違いだ。二人も雇えたのはほんとありがたい。俺等じゃそっち方面全然だめだしさ」


 中級クラスともなればダンジョン探索時にシーフの存在は欠かせなくなる。下級の頃は邪魔だの火力が弱いだの言われるクラスではあるが、敵が強くなり、トラップの脅威が増していく度、シーフの有り難みがわかるのだ。ただ問題としてシーフ自身に最低限の火力がなければならないという大前提があるが…


 ターンという縛りで探索する限界があるダンジョンでは戦う度に加速度的に消耗するターンすら惜しくなる。その時に如何にシーフとは言えダメージソースになれない場合は切られる事が多いのだ。ほんの少しでも先に、ほんの少しでも前に。その為にはシーフも最低限の戦力が求められる。


「あー、確かにその辺かなりおざなりっすわ。その分攻撃、防御に特化してるしファイターとしてはかなり優秀な方だと思うよ? こんな安定してるパーティ組むの久しぶりだし」


 基本下級~中級にかけては攻撃力メインのパーティが数多い。モンスターをただの障害としてすり潰し長い間探索するのが目的になる為、防御や補助などをメインとする冒険者はハブられやすい。だからこそ事故も多いが、それでも一攫千金を夢見る冒険者は多少の危険より、強大な火力を求める。


「正直な所、これからもずっとパーティ組ませてもらいたい人達だわ。最初さ、中級になりたてって聞いたから少し心配だったけど全くの杞憂でした。あのね、その強さってすでに上級に片足突っ込みかけてるから。俺何度か上級と組んだけど今のあんたらそれに近いっす」


 タバコ型胃薬を吸いながら疲れたように言うイクス。


「うーん…その辺私達ってイマイチよくわからないんだよね。私達が住んでた村じゃ正直、三人共半人前扱いだったし、戦闘とか教えてくれた人は今でも絶対敵う自信ないから」


「まぁ…俺等もそこそこ場数踏んできたしレベルも上がってるからそれで強くなってるんだと思うが、俺も正直まだまだだと思ってる」


「何にせよ、このパーティは当たりだったということでいいだろ。俺も出来れば次も誘ってもらいたいからな。このメンバーなら安定して稼げる」


 シーフのオウルが簡潔に纏める。相手の詳細な情報や語りなどを求めて居る訳ではないので、さっさと切り上げさせた。


「そうだね。何にせよ俺達としてもあんた達みたいな優秀なシーフが固定で居てくれると助かる。出来れば次の時も頼む。固定メンバーにシーフが居ないからさ、その所為で日によってはダンジョンに行けない事も多いんだ」


「んじゃ俺立候補するわ。とまぁ、それはともかくあんた達の腕ならシーフなんてかなり集まるでしょうに? なんで固定のシーフがいないん?」


「私達とは考えが合わない人が多いのもあるけど…一番は、目に見えて下心のあるシーフしかいないんだよね…」


 げんなりした顔で呟くアリー、その横でむすっとした顔をしながらティルが続ける。


「少し前に組んだシーフなんて最悪だったお。胸や尻ばっかみてるし、あわよくば触ってこようとするし、他には終わった後しきりに誘ってきたりとかね。女の冒険者だからって、ほいほい乗ると思うなおっ!」


「一事が万事そんな人ばかりでね…女性のシーフとかも探してみたけど他のパーティとか臨時メインが多くてさ、今はこんな感じで頑張ってるんだ」


「確かに二人共可愛いしね。そういう男も寄ってくるか。何にせよその御蔭で臨時でパーティ組めるんだから俺としては美味しいけどね。最近色々パーティ変えるの辛くなってきたし出来れば混ぜてもらいたい所」


 イクスにとっては渡りに船の条件なのでどんどん話を進めていく。


「女性に関しては大丈夫俺結婚してるから。彼女は一般人だから戦えないけど移動するときにはどこまでも付いてきてくれる俺にはもったいない人です」


「おおぅ、結婚してたのかお。通りで目つきがふつ……なんかめっちゃ疲れたってかダルそうな顔してるおね…」


「ふぅ……ま、俺みたいな戦えないシーフは色々と苦労がね」


 哀愁を感じる後ろ姿に何もしてないのに悪いことをした気分になるティル。


「あんたは仕事も出来るし色々真面目だしな、俺は歓迎するよ。二人はどうだ?」


 即断即決と言わんばかりにアルスはOKを出し、二人に返答を求める。

 

「そろそろシーフは欲しかったし彼ならこっちをいやらしい目で見なかったからボクとしては問題ないお。てか、お嫁さんについて詳しく」


「私も大丈夫だよ。それじゃこれから宜しくねイクスさん」


「ついでに俺も、と言いたい所だが流石に仲間がいるからな。よかったじゃないかイクス、最近嫌に疲れてるっぽかったしいい奴らに拾われたな」


 オウルはこの付近を拠点に活動しているギルドの一員である。イクスとは同じシーフと言う事でそこそこ親交があり。イクスの利点や弱点もほとんど理解している彼の理解者の一人だった。今回の臨時パーティも二人で居た所にアルスが臨時パーティに誘ってきたので受けたのだ。攻撃出来る能力が無いイクスに変わり、戦闘系シーフである自身が混ざる事で、イクスの利点を見出させようと言う考えも少しあったりする。


「ほんとね肩身狭いのよ純探索シーフって。戦闘中攻撃できない、下級より戦闘力低い、何故かタゲられやすいで断られる事が多々。たまに雇われても「せめてナイフでも使えよ」「【速】は高いんだから囮になれよ」ってね。死ぬから、俺死んじゃうから。HP50もないですから」


 カードによるHP上昇の恩恵などは受けられるが、彼が生まれた時から持っている【デメリットスキル】が他の全てを台無しにしてしまっていた。


「【戦闘技能皆無】とか凄いピンポイントだよね」


「うわぁ……」


 【戦闘技能皆無】戦闘時に必要になる最低限のスキルすら習得が出来なくなり、攻撃の命中率をマイナスにさせ力量が足りていても次元がネジ曲がったかのように当たらなくさせてしまうというデメリットしか無いスキル。


 これのおかげでイクスはレベル16という中級の中でも中堅以上の実力者なのに【HP上昇】すら覚えておらず、ハウンドにすら勝てないという状態になっている。回避や他の戦闘には関係無いスキルまでには効果を及ぼさないため、必然的にシーフ技能だけが凄まじく高くなっていた。


「その点このパーティは最高ですわ。上級並に硬い人が守ってくれるし、役目をこなすことに専念できるし。なによりね、このパーティぐう聖しか居ないのがね。最近胃が痛かったんだよ」


 多種多様に胃薬を持ち運び、食べ比べしてみたりするほどには胃が痛いらしい。


「た、大変だったんだな。せめてこれからはシーフの仕事をメインで頑張ってくれ。戦闘は俺等の仕事だから」


「その言葉が何よりも嬉しいわ」


「んじゃ、もう少し探索してからもどろっか。ふふふ、新しい仲間が増えたよ~ってヤスオに教えてやらんとね。夢の固定6人パーティに近づいてきたお」


「そりゃ、驚くかもしれんな。喜んでくれるといいが」


 こうしてアルス達は新しい仲間を獲得したのだった―




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