CP-12 【中級のダンジョンアタック】 Ⅰ
キャラパートにて新キャラ登場です。いつ頃出会うことになるでしょうか。
―ダンジョン【忌まわしき螺旋の迷宮世界】
空間内が歪みありとあらゆる所に階段と部屋が存在し、その上空は天井が見えないほどの高さを誇る高難度ダンジョン。下級では足を踏み入れた瞬間に殺される、罠で殺されると恐ろしいほどのモンスター、及びトラップがある場所としても有名な場所だ。既に100年以上の歴史を誇り、このダンジョンのボスに会った人間も居ないほど深く探索が難しいと言われている。
だからこそ―中堅以上の冒険者の鍛錬の、夢の狩場でもある―
―フレアワイバーンの攻撃!! 【豪炎のブレス】発動!!
全長6mは軽く超えそうな翼竜が全てを焼きつくすブレスを吐き出す―!
だが、そんな間近に有る死を前に、彼等は全く意に返さず他のモンスター達を見つめていた。そう…その程度の火炎のブレスなど彼の前には全く意味が無い。
「甘いっ! その程度の炎じゃ俺の盾を焦がすことだって出来ん!」
―【自動ガード】!! アルスは全てを守っている!!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!!
―【大火傷】無効!
アルスが左手の盾を突き出すと盾を中心に巨大なドーム状のバリアが展開された、火炎はバリアによってほぼ無効化されてしまう。どれだけ力を込めてもバリアを崩すこともアルスを僅かに動かすことも出来ない。
【盾衛術】の奥義の一つ【城塞防御】の範囲効果は仲間全員を覆って余るほどの防御力と距離を誇る。自らと盾を大幅に強化し、範囲攻撃を含む全ての攻撃から仲間の身を護るタンクが目指す目的地の一つだ。
この技は【上級】以下の技が存在しない為、この技を覚えるまでが苦行だが、覚えてしまえば自身の運が高い限り味方を守り続けることが出来る。弱点は自身の力の全てを防御に回してしまうため攻撃が一切行えなくなるのと【3ターン】しか持たない所、運が低すぎると展開できるバリアが全てを覆うことが出来ないことだろうか。
「空飛ぶトカゲごときに抜ける盾だと思うなよ…! さぁどんどんこい!」
モンスターはフレアワイバーンの他にまだまだいた。遠くの方から猛スピードで突っ込んでくる鎧のモンスターが底冷えする様な声で力のある言葉を紡ぐ―!
「オオオオオオオオ!! 【蓮華】!!」
―リビングヘルアーマーAの攻撃!! 【蓮華】発動!!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!!
―連鎖発動!!
―【三散華】絶対命中! クリティカルヒット!!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!!
―連鎖発動!!
―【四奏蓮華】発動! 絶対命中! クリティカルヒット!!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!! 麻痺無効!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!!
―アルスは盾で身を守っている!! アルスに微小ダメージ!! 捕縛無効!!
―HP残り9割
目にも留まらぬ連続攻撃をたやすく受けきりその次に襲いかかってきた巨大なワームの一撃すら余裕で防ぐその姿はまさに守護神だった。
「あれでレベル15とか嘘でしょ、レベル18~19でもあんなんいないよ」
「アホなこと言ってないでさっさと解除進めろ。このままじゃ攻撃できん」
今回の探索の為にアルスが雇ったシーフ二人が現状を脱却すべく動いていた。今の状態を見る限り余裕すら感じられるほどだが、この階層にセットされているトラップの為に攻撃の要であるティルが動けなくなっていた。
「りょーかい。ったく、面倒な罠張ってるなぁ。此方側が攻撃した時、問答無用でHP1にされる罠とかいじめ過ぎだろ? …うーし、解除できたぞ」
―イクスの【トラップ解除】!!
―トラップ【呪われし断罪の刃】を解除した!!
―イクスの【リンクトラップ】!!
―MPを10点消費する事でMPが尽きるか失敗するまで【トラップ解除】を行う!
―トラップ【メイジキラー】を解除した!!
―トラップ【アコライトキラー】を解除した!!
―トラップ【アラーム】を解除した!!
タバコの様な形状の煙を吸うタイプの胃薬を燻らせながら両手を高速で動かす、持っているシーフツールが目視出来なくなるほどの速さで手を動かしそのわずか数秒で周囲に合った全てのトラップを解除してしまった。
「よし、これでいけるね。ティルちゃんどうぞ」
シーフツールの鍵をクルンと回して待機していたティルに伝える。
今の今まで耐えてきた鬱憤を晴らすが如く全身の魔力を練り上げ高らかに叫ぶ―!
「うっし! 頼りになるおっ! んじゃあ全員ぶっ飛ばす! 【マジックフォージ】【ダブルマジック】! 【黒淵魔弾】!! 【極大爆裂】!!」
瞬間、周りにした全てのモンスターが爆発した―
そしてその爆炎の中に向かって巨大な黒い魔砲弾が何十何百と叩きこまれ、その度に鈍い音や弾けた音が響き渡る、ログを見るとモンスターにダメージを与えたという羅列が絶え間なく流れ、爆炎が消える頃には【モンスター達を倒した】という文字が全員のログに流れた―
「うわぁ……あの一瞬で全滅とか半端ないね」
「流石に火力特化のメイジって所だな、シーフの俺の火力では到底追いつかんか」
「ふぃー、これですっきりしたお」
爽やかな笑顔で額の汗を拭うポーズを取るティル。余程攻撃できないフラストレーションが溜まっていたらしい。
「【大治癒】! お疲れ様アルス」
「あぁ、サンキュ。それにしても助かったよ。流石にトラップ専門職は違うな」
「その代わり隣の彼みたいに剣も何も使えないんだけどね」
タバコ型胃薬を吸うその姿は哀愁が漂っている。彼、イクスはトラップや探索の腕は上級に勝るとも劣らないと彼と組んだ事の有る良識ある冒険者はそれぞれ口にするのだが、その代わりに全くと言っていいほど戦闘力を持たない、いや持てないというデメリットスキルを所持している。
このスキルのお陰で攻撃はほぼ当たらない、稀に当たりそうになると攻撃が機動を変えて当たらない、攻撃技も汎用技も覚えないしHP上昇などの戦闘に必要な必須スキルすら覚えられないというとんでもない状態だった。少ないHPはカードなどで補強しているが、それでも彼はハウンドと戦っても負けることは無いが勝てもしない千日手を延々と続けてしまう程に戦闘が出来ないのだ。
お陰で他の冒険者と組めば、寄生扱いされ唯一の利点である探索及びトラップ関係は甘く見られてしまうという生活を送っていた。
「しかし臨時パーティを組んだは良いが俺の出番があまりないな、これでもシーフにしては火力が有る方なんだが」
弓と双剣を得意とするもう一人のレベル16シーフ、オウル。
此方はイクスとは反対に遠距離攻撃も接近攻撃もこなせるオールラウンダーなタイプだった。その分罠や探索に関してはイクスに数段劣っている。モンスターからの奇襲を無効化出来るスキルを持つ彼のお陰で何度も助かっているので出番が無いという事はないのだが。戦闘ではアルスやティルが、トラップや探索ではイクスが独壇場なので、微妙に宙ぶらりん状態なのも確かだ。
「俺は楽できていいけどね。護ってもらえて助かってるし」
「イクスは攻撃出来ないんだから仕方ないよ、その分他で助かってるしお相子だね」
休憩の準備をしているアリーが笑顔で言う。
ダンジョンでの休憩は手慣れたもので、あっという間に簡易休憩所が完成した。
「結構潜ったし少し休んでから、どうするか決めようか」
「アルス君に賛成、うし。新しい胃薬をっと…」
持ってきた鞄の中には多種多様な胃薬が入っていた……余程苦労しているのだろうと、そっとアルス達が涙しているのをオウルは見ないふりをしてあげるのだった―




