27-03 【不器用な休日】 Ⅲ
ゆるやかにゆるやかにお話は進んでいきます。お気楽な感じで御覧ください。
―仲良くお風呂と男の友情
「ふぃ~、やっぱ風呂はいいよなぁ」
「まったくだ、これぞ心の洗濯って奴だよなぁ」
「確かに、気持ちいいですね」
周りには冒険者一般人問わず沢山の人が温泉で寛いでいる。流石にこんなに人が居る中でお風呂に入るのは緊張したが、今はすっかり落ち着いていた。異世界だとお風呂なんて言う物がない世界も良く見たが、この世界は普通にお風呂やサウナがメインだ。ちゃんと水風呂まであるというこの至れり尽せり感。実はここ日本だろって言われそうな位だ。
内装は石造りの中世とかにありそうな場所なのに、雰囲気は日本の下町辺りにありそうなほのぼのとした感じだ。小さな男の子達が笑いながら走っている姿もちらほら見える。
「それにしてもヤスオって結構がっしりしてるんだな? 見た目は着てる服もあってふくよかな感じなのに」
「そうかな? 多少は痩せたと思うし、鍛錬や実戦のお陰かもね」
この世界に来た当時はメタボそのものだったけど、何だかんだと結構筋肉ついたなぁ…今じゃ腹筋が6つに割れてるほどだ。町内一周しても息切れしなくなったし、腕立ても後先考えなければ500回は行けるようになった。うん次の日ぷるぷるして使い物にならなかったんだけどね…人間やり過ぎはよくありません。
「ヤスオは戦闘中あんだけの速度で動いて剣を振ってんだ、寧ろ当たり前だろ」
「あはは…速剣使いの足が遅かったら笑い事ですからね、団長さんは見た目通りがっしりしてますね。スマートな筋肉っていうか」
あれだ、イケメンスポーツ選手みたいな体つきだ。絞る所は絞ってる女性に好かれそうな体型って感じだよな。フィル君も団長さんとおんなじ感じ。
「はっ! 毎日の鍛錬は欠かしてねぇしな! ってか、ヤスオよ? こういう時まで団長なんざつけなくて良いんだぜ? フィルはまぁ一応つけてるが」
「は、はぁ…」
「そうだな、こっちから依頼で頼む時以外は名前で呼びな、ファッツで良いぜ?」
「い、良いんですか?」
「んなもん気にする間柄じゃねぇって。俺等とお前はダチなんだからな」
そう言って豪快に笑う団長…いや、ファッツさん。
「はは…了解ですファッツさん」
「よし! その調子だぜ! 日が浅いからって遠慮するこたぁねぇ!」
「あー…そういや、ヤスオってまだこの町に来て半年過ぎてないんだよな。なんて言うか親しみ易いしすでに何年も一緒に居る感じだぜ」
「そういえば、もう数ヶ月過ぎたんだなぁ…あっという間だよね。毎日楽しいから日が過ぎるのも早いよ」
日々を無為に過ごしているつもりはないが、何時の間にかそれだけの時間が過ぎていたのかと改めて思う。森で過ごして居た日も合わせてもう半年以上はこの世界にいるのだ。ホームシックになったことは何度もあるが、今は皆のお陰で普通に生活できている。夜、森で一人で暮らしていた時を夢で見て泣き叫びながら起きる時もあったが、今はそれも滅多に無い。
「いつかは…この町とお別れする時も来るんだな…」
ついポツリとつぶやいてしまう。
「お前は冒険者だからないつかはこの町を出る時もあらぁ。お前なら大丈夫だろうが、その時までに後悔だけはしないようにな。出来ればお前の成長を見てみたいが俺達は自警団だからな、この町を守る義務と誇りがある」
「ファッツさん…」
「だが、この町にいる限りは絶対に手を貸してやる。俺等が驚くような冒険者になれよ? 期待してるぜヤスオよ。とりあえずは余暇を楽しむことを覚えるぞ。そうすりゃお前はどんどん伸びる」
「はいっ!!」
ほんとこの町に住む人は皆良い人だな、単純に人が良いんじゃない、個人個人が自らを律して正しく生きてるからこそ、立派で尊敬できる人が多いんだ。そんな人達に見放されないように僕も頑張らないといけない。昔の僕だったら呆れ果てられる事うけあいだからね……
「んじゃ、堅苦しいことはここまでだ! こっからは男の時間だぜ! という訳でヤスオ、お前好きな女はもういるのか?」
「…………はい?」
「ははっ、俺も気になるな。どうだよヤスオ、気になる子は居るのか? カノンとかアリアとかセレナとか結構いるしな身の回りに」
「うーん……確かに皆可愛いし、素敵な女性ばかりだけどそういうのは考えたこと無いなぁ…」
ミキは除外、あれは悪友みたいなものだから。
「はっ! 隠すな隠すな! 気になる奴は居るだろ? カノンもミキもアリアだって普通にストライクな容姿だろうが。セレナは流石に子供すぎるし、マリーは会ったばかりだし除外するとしてもな。ナナは除外でいいわ」
ファッツさん、何故其処でナナさんだけスルーしたんでしょうか…
「うーん…どうかなぁ…」
今の現状をよく思い出してみれば、良くあるハーレム物のテンプレそのままだ。別に自分が鈍感系主人公を気取っているわけではない。それ以前に全くそんなこと考えてなかっただけだ。強くなってアルスさん達とパーティを組む、その目標を達成するのが自分の今のやりたい事だから。
元の世界ではそれこそ【三次元なんてゴミだ】とか【二次元のおにゃの娘こそ至高】とかネットによく書き込んだものだが、実際に女性をどう思うかと言われると、これがまったくと言っていいほど何も思いつかない。【モテるモテない】【モテたいモテる】とかそういう次元にすら到達してないのだ自分は。
「確かに皆可愛いですし、そういうのは僕も興味ありますが…でも、正直まったく考えてなかったというか、恋愛とか女性とかあんまり気にしたことなかったので」
と言うか僕がモテるのかが疑問です、アルスさんを初め、ファッツさんやフィル君、ハウルさん。最近知り合いになったカトル君と皆ガールズゲームに登場出来そうなほどのイケメンが立ち並んでる中、元メタボ、現微妙な膨らみ顔の僕がモテるのはちょっと無いだろう…ゲテモノ好きとか日本ならあれか? 江戸時代とかの美的感覚がずれてた頃ならモテたかもしれぬ…
すさまじいブサイク、とまではいかないんだけど、イケメンの中に混ざるとこれほど残念な奴も他に居なかろう。ちなみに思い込みじゃないです鏡見たり一般の声を聞いた結果です。
「お…お前まさか女より男のほうが…俺はエルがいるからっ!?」
「お願いやめてっ! 僕はノーマル! ノーマルだからっ! 女性のほうが好きだからっ!!」
「なーんて、冗談だよ冗談。休みの日にやること思いつかなくて寝ようとかしてるやつだもんな。単純に思いつかないだけだろ」
ふぅ、フィル君も人が悪い。
「まったく、お前らしいというかなんというか。これで一応気は抜いてるんだから面白いやつだぜ」
「もう少しであらぬ疑いをかけられる所だったよ。これは晩御飯はフィル君に奢ってもらうしか無いかな」
「ちぇ、やっちまったか。しゃーねぇ任せておけよ。団長も次は俺が奢るよ。風呂上がって少し休んだらいつもの店で騒ごうぜ」
「あぁ! これからが本番だぜ! ヤスオ、フィル遅れるんじゃねぇぞっ!!」
「おぉ~!」
決して何かをやった訳ではない、自分達が今日やってたのは会話しながら買い食いして全員でお風呂に入って、笑える話題などで普通に笑って、最後はお店で食べて喋ってただけだ。それなのにゲームやパソコンなど問題にならない位に楽しかった。ひきこもりの固定観念で【遊ぶ】を【何か面白い行動をする】としか思えなかった自分には全てが新鮮で、そんなダメな自分が今こうして皆と一緒に遊んでいるのが不思議で…そして凄く嬉しかった。
―27話終了…28話に続く。




