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ナイスなボートで異世界の海へ  作者: まごーじ
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初めての依頼

 この世界に来て三ヵ月が経過していた。魔法の訓練は順調で錬金と無以外の初級は完全にマスターしていた。


 火の初級魔法フレイム。炎を扱う。ボールをイメージすればファイヤーボールに、矢をイメージすればフレイムアローとして行使できるようになった。


 水の初級魔法アクア。水を扱う。シャワーをイメージするとシャワーになり、泡をイメージをするとバブルアタックになった。しかしあまり威力はなく戦闘ではまだ扱えるレベルではない。生活面では非常に助かる。


 風の初級魔法エア。風を操る。風を指定した場所に発生させることができる。カマイタチをイメージするとそれに近いものができたがまだ威力不足。体を浮かすことはまだできない。


 土の初級魔法アース。土を盛り上げ壁を作ったりすることができる。土に混ざってる石や岩を抽出してエアと組み合わせれば石つぶてとして攻撃可能。これもまだ威力不足。


 錬金術は水で氷が作れるレベル。初級の初級レベルだが冷たい飲み物が欲しいときに助かる。


 船の魔法は駆逐艦が限界だった。戦艦山城を再現しようとしたら一瞬で気を失って倒れてしまった。護衛艦や空母も無理だったが唯一潜水艦は大丈夫だった。潜行する機会があるのかわからないがいざという時に役に立つかもしれない。さらに屋形船等ならいつまでも変形したままにできた。


 そして勉学のほうも順調である。聞いたことのないはずの単語はなぜか理解できた。そういえば知識はもらってるんだったな。最初に驚いたのは世界地図である。広さは元いた世界と大差ないだろう。そして飛行機といった交通手段がない。車もなく馬車が一般的な交通の便である。


 この世界は巨大な王国が四つに分かれていた。北の王国ノス。東の王国イス。西の王国ウェス。南の王国サウス。それぞれが海を四分割に隔てての大陸だ。そして王国の中に都市や村などがいくつもある。歴史を見ても王国同士が戦争をしたことはいまのところ最初の一回だけでそれから数千年は争そってないようだ。平和な世界でよかったと思いきや王国内での内戦はかなり多いようだ。さらに序列第五位が消滅させたという東の王国イスは現在復興もされてなく魔物の巣窟になっているんだとか。


 問題の未到達の海域。これは世界の中心付近にある深い霧に覆われた海域だった。その海域に突入して帰還した者は皆無。噂では大量の怪物が潜んでいるとか大嵐が続いているとかなんとか。


 現在俺が滞在している港街フッシャーは北の王国ノスに属している。西の王国ウェスとの貿易が盛んで海沿いには必ずといっていいほど港町が点在している。


 そんな港町で俺は今冒険者ギルドへと向かっていた。初級魔法を扱えるようになり難易度の低い討伐依頼なら問題ないだろうという事で依頼を探しにいってみた。ちなみにギルドには加盟済みである。


 依頼の難易度はSS~Gランクまでの九段階に分けられておりSSに近いほど難易度があがっていく。今回はGランクで探してみることにした。係員の話では初級魔法が使えるならFランクでも問題ない事が多いらしい。


 オークを一体討伐せよ(Gランク)報酬銅貨五枚。

 オークを五体討伐せよ(Fランク)報酬銀貨三枚。


 なるほど。Fランクのほうが若干報酬も良さげだな。それにオークは力は強いが動きが遅く頭も悪い魔物でこの世界ではどこにでもいるような存在だった。しかし、一度掴まると大変なことになるらしい。特に女性の場合は。とりあえずこの依頼を受けてみようかと思うと別の依頼が目に入った。


 館の調査報告(Fランク)金貨十枚


 Fランクで金貨十枚は他に見当たらなかった。十枚どころか一枚ですら見つからない。係員に聞いてみると訳を話してくれた。依頼主が早急にということで多額の報酬を用意したようだ。その事から少し怪しいところもあるしおすすめはしないと教えてくれた。初めての依頼だ。ここは素直に言葉にしたがって最初の予定通りオークの討伐依頼を受けることにした。


 オークの住処は港町を出て数キロ歩いた岩山付近にあった。洞窟のような穴がいくつかありそこが住処なのだろう。まずはオークを見つけださなければならない。


「ん? 臭いな……」


 怪しいとかそんなものではなく本当に臭い。あれだ。家畜の近くでするあの臭いだ。この臭いを嗅ぐと田舎ののんびしとした風景が好きだった事を思い出した。すると獣道の先でオークを見つけた。


「よし。丸焼きにしてやろう。フレイムアロー!!」


 火の矢を放つとオークの背中に刺さった。すると体全体に火が燃え上がり骨だけになるまでそう時間はかからなかった。討伐依頼では魔物の特徴となる部分を必要数持って帰らなければならなかった。オークの場合角だ。


「これがオークの角か。骨とはまた違った感じだなぁ」


 初めての狩りにしては上出来だと思う。このまま残り四体を狩っていこう。


 調子よく四体目まで狩ることができた俺は好奇心で巣穴の傍まで近寄ってみた。戦ってみて気づいたがオークは弱かった。攻撃を受けてからでも避けることができる。船旅に備えて若い頃から毎日マラソンと筋トレをかかしていなかったことにこんな形でよかったと思える日が来るとは思わなかったが。


 慎重に洞窟へ侵入してみた。臭い。まじで臭い。口で息をしても気分が悪くなる。後方にも気を配りつつ指先に小さな火を灯して奥へと進んでみた。


 しばらくすると広い空間にでた。そこではオークが十体ほど眠っていた。寝首をしとめるのは卑怯だろうかと思っていると声らしき音が聞こえてきた。その声を辿っていくと部屋らしき空洞の入口に着いた。ゆっくりと中の様子を確認してみる。そこで目に入った光景は俺を驚愕させた。


 女性が襲われていた。あれは人間だ。両腕と両足から血を流している。動けないようだ。まだ犯されてはいない様子だ。助けよう。


「ファイヤーボール」


 とりあえず部屋の壁に向けて火球を放った。オーク達が一斉にその方向を見ると俺は反対側から全員火矢で狙い打った。オーク達が叫びながら絶命していくのを確認して女性に近づいてみた。ひどい状態だった。貞操は大丈夫のようだったが手足の健が切られていた。オークは頭の悪い魔物と聞いていたがこうゆう部分では賢いところもあるのか。


 収納袋。俺は心の中で四○元ポケットと呼んでいる。その中からポーションを取り出し女性に振りかけてやった。すると意識を取り戻した女性はひどく怯えていた。俺を見るとしだいに落ち着き話をしてくれた。果物をとりに近くの森を散策していたところ襲われてしまったとのことだ。


「よし。とりあえずここを脱出しよう。歩けるかい?」

「はい。大丈夫です」


 広場のオーク達はまだ寝ていた。その隙に入口を目指してゆっくりと進んでいた。気づかれないように慎重に。


 無事に入口に到達した俺達は外にオークがいないかどうか確認して外へ出た。すると女性が声を掛けてきた。


「私はシドニィ・ムゥマと申します。貴方様のお名前を教えて頂けませんでしょうか」

「トシと申します」

「トシ様……このご恩はいつか必ず……」

「まだオークの領域です。話は……ッ!?」


 突然体が痺れを感じ始めた。足が痙攣し地面に顔を打ち付けてしまった。一体何が? 攻撃されたのか? そう考えているとシドニィが妖しい笑みを浮かべながら俺を見下ろしていた。


「お馬鹿な冒険者さんね」

「な、なぜ?」

「まだわからないのかしら? だ・ま・さ・れ・たのよあなた」


 どういう事だ? 俺がだまされた? オークに? 違う。この女にだ。だが何をどうだまされた? 見た目は間違いなく人間。オークの仲間ではないはずだ。


「私はシドニィ・ムゥマ」


 ムゥマ。むうま。むま……夢魔か!! 


「やっと気づいたようね」

「サキュバスか……」

「そう。私はサキュバスのシドニィ。さぁ……あなたの精をありったけ頂くわ。死ぬまでね」


 彼女の白い肌は褐色へと変わり始め、黒目から赤目へと変貌していった。下半身に服は纏っていない。男なら喜ぶような場面だが死の宣告を受けている以上たまったもんじゃない。なんとか反撃をしなくては。


「まだ抵抗するの? 男なら快楽と同時に逝けるのに」

「まだ死にたくないだけだ」

「それはできませぇ~ん」


 煽るような言い方に少しむかついた。大人気ないが言い返してやる事にした。


「なぁ。非常に言いにくいんだが」

「なによ」

「お前のその貧相な体じゃ俺は興奮しない。他をあたれよ」


 あ。シドニィの額に青筋が浮かんでるのがわかった。いやだってしょうがないだろ。こいつの見た目はせいぜい中学生くらい。俺の守備範囲外だ。まったくもって興奮しない。


「そ、そんな事言っちゃってもわかってるんだからね。ここは正直のはず……」


 そう言って俺の股間を弄りはじめたシドニィは本当の事を言ってる事に納得した様子だ。


「ありえない……。ありえないわ! わかった! あんた不能でしょ!?」

「何を馬鹿な事を。現実を見なさい」

「きぃいいい!! ならあんたを殺す!!」

「結局そうなるのかよ!?」

「お前なんか死んじゃ……ガッ!?」


 俺の上に圧し掛かって拳を振り上げたシドニィが突然吹き飛ばされた。周りをみるといつのまにかオークの集団に囲まれていた。数は目に見える範囲だけでも百体以上はいそうだ。やばいな。状況がどんどん悪化していく。


「いったぁ……って何この数のオーク!」

「お前が呼んだんじゃないのか?」

「違うわよ!……あ、さっきあんたを痺れさせたフェロモンが原因かも」

「やっぱお前じゃないか!」

「うるさいわね! 待ってなさい!」


 そういうとシドニィはオークに攻撃を開始した。しかしすぐに数に飲み込まれてしまった。両腕を掴まれ地面に押さえつけられていた。


「ちょっ! 離しなさい!! オークの分際で……」

「ぐぉぉぉぉ」

「そ、そんなやめなさい! 嫌! オークに犯されるなんて!!」


 はぁ。あいつ、たぶん餓鬼だな。生まれてそう年月が経ってないサキュバスなんだろう。文献に書かれていたサキュバスの特徴とはだいぶかけ離れている。本物は獲物の好みの外見や性格に変えられるようだし。あいつはまだまだだ。


 俺はシドニィに騙されたとはいえ、無理やり犯されるところを見るのは忍びない。そういえば爺ちゃんが言ってたな。女の嘘は笑って許してやれと。それに加えあいつはこども。出来る限り助けてやろう。


「シャワーを広範囲に……」


 動かない体に鞭を打ちなんとか魔法を発動させた。これはシャワーというか雨だな。オーク達も一瞬気にとめたようだが雨だと思って無視したようだ。今に見てろ。


 水が氷へと変わるイメージ。冷凍庫のイメージ。そして錬金魔法発動。全力だ。オーク達を全員氷漬けにする。


 手のひらから黄金の光を放った。シャワーによって濡れた地面からオークの体を把握。俺とシドニィ以外の場所へ一気に魔力を開放。


 どうだ。いけるか?


「……さ、さむいわ」

「お、俺も……」


 アカン。ちょっとみすった。オークは全て氷漬けにすることに成功していたが俺とシドニィも少しだ魔力を浴びてしまったようでめっちゃ寒い。


「…………」

「……なんだよ?」


 シドニィが睨みつけるような視線を向けてきていた。


「なんで私ごとやらなかったのよ。そうしたら逃げられたのに」

「……そういえばそうだったなぁ」


 忘れていた。こいつ俺を死ぬまで犯すとか言ってたんだった。やべぇ。もう魔力もないしどうしよう。


「グホォォォ……グォォォォ」


 オークの声が聞こえてきた。まだ残っているのかよ。


「うそでしょ……こいつ親玉の……」

「親玉?」

「オークの元締めみたいなやつよ。そのへんのオークよりも遥かに強いわってこっちに来る!?」

「シドニィ!?」


 速い。他のオークとは動きが違った。こいつは格が違う。シドニィだってサキュバスだ。サキュバスは確かB級の魔物だったはず。未熟とはいえオークに遅れはとらないだろう。だがやつはシドニィが女だとわかるや凄まじい速さで補足。一瞬でシドニィは両腕を掴まれ叩き伏せられていた。相変わらず男は後回しなんだなこいつら。こいつらの本能は子孫を残すことが強めに設定されているのだろうか。弱いかわりに繁殖能力は高くいつまでたってもいなくならないのはこのあたりが理由なのだろう。


「ぐぅ……たすけて……」


 そんな事言われてもな。俺はさっきので魔力がもうないんだよ。


 どうすることもできないんだ。




――シドニィ視点――


 今日は厄日だわ。そうに違いない。


 今朝はおいしい果物を森で探していたら眠くなってつい寝てしまった。気づいたらオークの巣穴にお持ち帰りされていた。すると人間の気配を感じた。男だ。そこで私は妙案を思いついた。肌と目の色を変えるくらいならできる。きっと私を見つけた人間は助けてくれるだろう。


「きゃあ! やめて!」


 とりあえずこのくらい叫んでおけば気づいただろう。


「痛い! なにすんのやめて!!」


 手足を切られた。嘘でしょ。まじで痛いんだけど。すると壁が爆発した。何が起こったのかと思うとオークが全滅していた。よかった。なんとか助かりそう。あ、でも痛みで意識が。


 どうやら私を助けてくれた人間は回復魔法かポーションかで私を治してくれたみたい。馬鹿な人間。サキュバスを助けるなんて。そして忘れかけていたけど作戦を実行して男を麻痺させることに成功した。


「お前の貧相な体じゃ興奮しない。他をあたれよ」


 こいつは言ってしまった。私を怒らせた。意地でも犯してやる。だがこの男は不能だった。ここまでやってこれはあんまりだ。


 気づいたら私は殴られていた。いつのまにかオークの集団に囲まれていた。終わりだ。私はここでもう。この数は無理だ。諦めかけていると動けないはずの男は魔法を行使してオークを全員氷漬けにしていた。こら。私も少し凍ってるんだけど。


 いやおかしい。あいつが助かるには私ごと氷漬けにするべきだ。何故私を助けた。


「……そういえばそうだったなぁ」


 やっぱり馬鹿なのかしら。でも2回も助けてもらった。さすがに死ぬまではやめておこうかな。


 二度ある事は三度ある。不運とは連続して訪れるものだ。レア・オークが私に迫ってきた。この近くにいるなんて聞いたことがない。レア・オークはタイマンだとしても私では倒すことはできない。あの男。トシだっけ……。彼の様子を見てみると何とかしようとしてるみたいだけどもう魔力は空っぽなんだというのがわかった。さすがにこれは諦めがつく。


 思えば私は生まれた時から運がなかった。なぜか同年代のサキュバスと比較しても体の育ちが遅い。その事で何度も馬鹿にされていた。村を飛び出して人間に混じって生活して男を誘惑してもあまり引っかからない。あげくにオークに犯されて最後を迎える。馬鹿らしい。


 生まれ変わったら今度はナイスバディで魔力も豊富なサキュバスになりたいな。そして私を苛めてきたやつらを見返してやりたい。男だって何人でも虜にしてやるわ。そう思って村を出たんだっけなぁ。


 まだ死にたくない。


 そういえばあの男もまだ死にたくないと言って抵抗しようとしてたんだっけ。


 でも私はサキュバスだし無理やりしちゃうのも仕方ないよね。


「ぐぅ……たすけて……」


 つい言葉に出てしまった。動けるはずのない男に助けを求めてしまった。しかも動けなくしたのは私だ。さっきも助けてもらって魔力を枯渇させている男に無様にも助けを乞っていた。


 レア・オークの体が押し付けられた。しばらくは苗床として生かされるんだろう。生き地獄だ。サキュバスともあろうものが。せめて自害してやる。そう思っているとオークの後ろから叫び声が聞こえてきた。


「ウオオオオォォォォ!!!」


 彼が立ちあがり槍のようなものをレア・オークの背中に突き立てていた。あれは火の槍、フレイムランスだ。中級魔法まで使えたのね。でも枯渇していた魔力で使えるようなものではないはず。そう思っているとエーテルの空き瓶が転がっている事に気づいた。


 エーテル。魔力の回復効果がある薬。副作用が強くここぞという時にしか使用は許されていない高価な薬だ。そんなものを、私を助けるために?


「グォォォォ!!」


 レア・オークの胸からフレイムランスの先端が飛び出してきた。心臓を貫く一撃。オークの血が顔にこびりついた。そのままオークは横に倒れこみ絶命した。


「……なんとか、なったか」


 そういうと彼も倒れた。彼の両手は炎で焼け爛れていた。フレイムランスは本来宙に浮かした状態から遠方に投げつける飛び道具のような魔法だ。それを両手で握り攻撃したのだろう。


「馬鹿よ……あなた」


 三度助けられた。人間に。こんな無様なサキュバスがいるだろうか。こいつをどうする。このまま精だけもらって見捨てようか。


「そんな事できるわけないじゃない」


 この人間を助けよう。助けてから精をもらおう。死なない程度に。そうでもしないとサキュバスとしての沽券に関わる。


 とりあえず館に持ち帰って回復魔法をかけよう。そして目が覚めたら再度誘惑してやる。


「……次もしなかったら本当に殺すからね」


 

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