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ナイスなボートで異世界の海へ  作者: まごーじ
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もう一人の存在

 エミリアの意味深な発言から数日後の事だった。冒険者ギルドから呼び出しのかかったエミリアが俺に同伴してほしいと願い出てきた。特に断る理由もなかったのでついていくことにした。


「エミリアはギルドに加盟してるの?」

「一応ね。ランクは低いけど興味はあったから」

「今日の呼び出しってもしかして海王の件に関係あったりするのかな」

「そそそ、そんなことな、ないんじゃないかな!」


 エミリアは嘘をつけない娘のようだ。近海で暴れまわっていたという事は懸賞金が懸かっていてもおかしくない。下手すると国から褒美が出たっておかしくないレベルだろう。ここはこれ以上言及しないでおこう。


「エミリア。あの建物はなに?」

「あれは武器や防具を売ってるお店ね」


 俺の目を惹きつけたのは武具店だった。巨大な剣や槍。鎧なども売っている。男の子なら誰もが憧れるような品物が配列されていた。


「トシさんは武器関係扱えるんですか?」

「いや全く。でもああゆうのって憧れるじゃん」

「うーん。私にはよくわかりません……」


 昔プレイしていたロールプレイングゲームの主人公などが装備していそうな大剣をみて本当に扱えたらと思ってしまう自分は別におかしくないと思う。などと思っているとギルドの建物についたようだ。


「ここが冒険者ギルドのフィッシャー支部です。綺麗な建物でしょう」


 なぜかエミリアが自慢げに説明する。だが実際綺麗な建物だ。壁面が特殊コーティングされていて空が反射して映りこんでおり大都会の高層ビルにありそうな感じの建物だった。もしかしてハリケーン家が出資してるんじゃないだろうな。


 中に入るとまるで映画館にはいってすぐの広場のような感じだった。そこから係員が俺とエミリアを奥の応接間へ案内した。数分まっていると老齢の男性が入ってきた。


「お待たせ致しました。冒険者ギルドフィッシャー支部長のボージャックです。以後お見知りおきを」

「お久しぶりですボージャンクさん。こちらは例の話のウラガトシさんです」

「浦賀俊です。よろしくおねがいします」


 爽やかな笑顔で挨拶をするボージャックという男性の外見は燕尾服のようなものを身に着けていた。身長は高くガタイもいいので若干似合ってはいないように感じる。甲冑のほうが似合いそうだ。


「あなたがエミリア殿の婿殿ですか。海王を単騎で倒すほどの傑物とお伺いしております。ハリケーン家にとっても大変喜ばしいことでしょう」

「え? 婿殿って何ですか?」

「はて? 聞いた話では呼び捨てで名前を呼びハンカチで涙を拭ってあげたとか。もう結婚されているものかと……」


 カルチャーショックってこうゆう事を言うのね。つまりあれか。男が女に優しくする系がそう捉えられるのか。逆に言えば苦しい立場にある異性に構ってやらなかったら脈なしとかなのか……。てことは俺……めっちゃプレイボーイに見られてしまうんじゃないだろうか……。


「いや。あのエミリアも何か言ってくださいよ」

「……私は一向に構いません」


 だめだこりゃ。


「さて、今日は海王討伐の報酬受け渡しでお呼びさせていただきました。こちらになります」


 やっぱりか。木箱が運ばれてくると中身の確認をと蓋を開いてくれた。


「金貨10000枚になります。お納めください」

「はい。確かに受け取りました」


 金貨10000枚。これってどのくらいの価値があるのだろうか。不思議そうな顔をしているとエミリアが教えてくれた。


「えっと。そうですね。紅茶一杯が銅貨1枚で紅茶十杯が銀貨1枚で紅茶百杯が金貨1枚です。わかりにくいかな」


 ということは……紅茶一杯を100円と考えてみよう。すると銅貨1枚100円。銀貨1枚1000円。金貨1枚10000円……てことは。


「い、いちおくえん!?」

「イチオクエン?」


 おっといけない。とりあえず大金だという事はわかった。それにしても山のような金貨である。どうやって持って帰るんだよ。


 そう思っていると袋を取り出し金貨をつめはじめた。するとどうだろうか。袋にいくら金貨を突っ込んでも大きさが変わらない。もしかしてこれって青いロボットのポケットみたいなものなんだろうか。


「トシさん帰りましょう」

「あ、はい」

「あ! トシ様お尋ねしたい事がございます」

「なんでしょう」


 ボージャックが帰ろうとする俺を呼び止めるとポスターのようなものを指差し尋ねてきた。


「もしやあの第五位の親族の方でしょうか?」

「第五位?」


 ポスターを確認してみるとなんちゃら序列と記載されていた。その第五位にはこう書かれていた。


(第五位 『灼熱』 ウラガ)


「……いえ心当たりありませんね」

「そ、そうでしたか。これは失礼しました。呼び止めてしまい申し訳ありません」


 こうして巨額を得た俺はエミリアの館へと帰ってきた。とはいえ学校の入学案内も半年以上先らしい。今は基礎的な魔法の習得に励むとしよう。そう思っていたのだがあの序列第五位のウラガという人物が気になっていた俺はいろいろ聞いてみることにした。


「アリアさん。序列って知ってますか?」

「ええ、存じております」


 アリアは紅茶を淹れなおして席についた。どうやら長い話になるようだ。


「序列というのはこの世界の統治神が抜擢した強者ランキングのようなものです。力、権力などもろもろ含めた序列なので一概に強さだけで選ばれてはいないようですね。食物連鎖の最上位十人といったところでしょうか」

「ははぁ。そんなランキングが」

「トシ様がお聞きになりたいのは第五位の事では?」

「やっぱりわかります?」

「はい。私もトシ様の名を伺った時はもしやと思いました。海王を一人で倒す実力者ですので」

「でも今はそうじゃないってわかりますよね?」

「もちろんです。序列に名を連ねる方の中でも第五位の逸話は有名ですので」


 俺と同じウラガの名をもつ人が有名だと今後めんどくさそうである。ボージャックのように第五位なのではと勘繰られる可能性が高い。今後はトシとだけ名乗っていこう。さて、そのウラガさんの逸話を聞いてみようじゃないか。


「序列のウラガが第五位になったのは五十年も前です。ウラガを裏切り破滅へと追いやったとある国の国王に対して行った行為なのですが……一瞬にして国を消滅させました」

「へ?」

「逸話によるとウラガは手のひらをただ握る。その行為だけでフィッシャーの数十倍は大きい都市を一瞬で消したそうです。他にも大爆発を起こしてその光は海を渡った大陸の国からも確認できたとか。その際に当時の第五位も巻き込まれて死亡しウラガが新たな第五位になったと聞き及んでおります」

「…………へぇ」


 なんとも気のない返事である。大量虐殺者が俺と同じ名前だなんて正直ショックである。


「さらに問題となったのはその後、まるで国があったのが嘘のような平地に調査へ向かった団体がいました。しかし、調査団は次々に倒れむごい死に方をしていったそうです。結構最近まではその国の跡地に立ち入ることはできませんでした。その事から第五位は灼熱、悪魔、死神などいろいろな二つ名がつけられ恐れられています」


 これはどこかで似たような話を聞いたことがある。俺の故郷……長崎。全てを焼き尽くす爆発力と放射能による被爆。この異世界においても似たような事が起きている事に先ほどとは比べ物にならないくらいショックを受けた。


「そんな力を個人がもっているんですか?」

「はい。ゆえに第五位なんでしょう」

「てかそれだけの力があってまだ上に四人いるんですか……」

「第五位以外の方についてはあまり詳しくなくて……というより第五位が有名すぎるんです」

「そうですか」

「ですがそれから五十年はウラガは全く表に出てきていません。序列に変動がないので生きてはいるのですが、今はどこに潜んでいるのか」


 核の力を扱えるのか。あるいは元素そのものに干渉できるのか。どちらにせよとんでもない能力だ。これは無の属性になるのだろう。こんなのと比べたら俺の船の能力なんてかわいいものだ。


「…………」

「どうかされました?」

「いえ、なんでもありません」


 ふと祖父の話を思い出していた。祖父が幼い頃、歳の離れた一番上の兄が海軍に所属していた。戦艦『山城』に乗艦していたといつも自慢気に話していた。ちなみに俺の部屋にあるプラモデルも祖父からのプレゼントだ。その兄は長崎にて行方不明。原爆が原因で死亡と断定されていた。爆発地点からかなり近い場所で活動していた記録があったらしく何年も姿を現さなかったことから家族も諦めたらしい。彼の名は浦賀総一郎。仮に今も生きていたら百歳くらいだ。


 そんな家族や多くの命を奪った力を個人が有している。その事実を知り俺は初めてこの世界を怖いと感じた。


 俺は知らなければならない。この世界について詳しく。魔法の訓練をしつつ歴史や常識についても学んでいかなければならない。今のままでは夢を叶えるなんて到底無理だろう。


「アリアさんお願いがあります」

「なんでしょう」

「この世界について色々教えてください」

「もちろんです。では午前中は私とこの世界についていろいろと。午後はお嬢様と魔法の訓練ということでよろしいでしょうか」

「ありがとうございます」


 こうして勉学と訓練の日々を送ることになった。


 異世界に来て数日。あまりに色んな事が起きすぎて大変だったがこれで少し落ち着いて物事を考えることができる。と思ったのだがある日大事件が起きた。


「のわああああ!! だれだああああ!!」

「どうされましたトシ様!?」

「どうしたのトシさん!?」


 思えば俺はこっちの世界に来て初めて自分の姿を確認した。そう。鏡を見たのである。


 若い。俺の年齢は二十八歳のはずだ。だが今はどうしてこうなった。高校生くらいの外見に戻っている。いやまてよ。若返ったという事でいいのだろうか。だとしたらすごく特をした事になる。これもあの時この世界で必要なものうんぬんかんぬんに含まれているのだろうか。てかあいつが統治神かもしれん。


「大声だしてすみません。寝ぼけてました」

「そ、それにしても恐ろしいほどの叫び声でしたが……」

「アリア。落ち着く効果のある紅茶を準備してあげて……」

「かしこまりました」

「はは……なんか本当にすみません」


 新しい発見の毎日に発狂しそうなトシであった。



 

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