9 使い魔
さて護衛編が続きます。
「20匹め~!!」
「くっそ、18匹だ。」
最後のバルーンラビットを倒したアッシュが大剣を頭上に振り上げて喜びの声をあげると、悔しそうにラシュが肩を落とした。
「おや、19匹ですね。アッシュに負けるとは思いませんでしたねぇ。」
「おい、サイカ。俺には余裕で勝てるって思ってたろっ!!」
「実際、そうでしょう?」
「1匹しか違わないじゃないかっ!!」
サイカとラシュが言い争いをしていると、木々の枝をぴょんぴょんと跳んで帰って来たシグが降りたってVサインをする。
「うちの勝ちやー!!25匹やでっ!!」
「えー?!すげーな、シグ!!」
素直に感心するアッシュの隣で口げんかを止めたラシュが、シグの肩を見てつぶやいた。
「エーが一緒にしてんだろーが。」
「エーはうちの使い魔やで!うちの戦力に決まってるやろ!!」
シグはにこにこしながら、魔術陣で呼び出した使い魔のエーの頭をなでる。シグの肩の上にいるのは猫のような体の背中に羽をつけた魔物である。
「エーは意外と強いですよねぇ。こんなに小さいのに。」
「ちがうぞ、サイカ。エーは巨大化するぞ。しかも3mぐらい。でかいぞ。」
サイカが感心して呟くと、ラシュがエーの戦闘バージョンを思い出して顔をしかめながら訂正する。
「そうでしたか。私はあまりエーの闘うところを見ていませんからねぇ。」
「シグの兄ちゃん探してたときは結構闘ってたけどな。最近は出さないな。」
サイカはふむふむと頷いて聞く。ラシュが首をひねると、そういえばとアッシュがシグに尋ねる。
「シグ、どうしてエーと闘わないんだ?」
「やって、前はジオ兄が魔力の補給をしてたんやけど、今はうちが魔力を補給してるから、あんまり長時間連れていけないんよ。もうちょっと修行が必要ってとこや。」
「ああ、そうだな。使い魔を出そうとするなら、かなり魔力がいるはずだ。」
ラシュはシグの使い魔用の魔術陣を見ながら、頷く。
「へえ、じゃあ、シグの兄貴ってすごいんだな。」
「へへん。ジオ兄はすごいやろ!!」
嬉しそうに兄を誇るシグに、アッシュはにかっと笑う。
「しかし、あのジオって人、すごい魔力だったけど、召喚師を生業にするなんてよっぽどだ思うけど。」
「それ、どういう意味?」
「召喚師なんて依頼でしか動かなそうだろ。一度の依頼がすごく良さそうだけどな。」
「で?」
「よく成ったなと思って。」
「まあ、ジオ兄が何考えてるかなんてわからんし。好きなことしてるんやからええんやって。」
ラシュとシグが話していると、くすくすと笑い声が聞こえる。
「ふふ、では今日のデザートはシグですねぇ。」
「あー、せっかく勝てたと思ったのにな-。」
「ないんだから我慢しろよ。」
サイカがふと最初の勝負を思い出すと、アッシュががっくりと肩を落とす。ラシュたちはてくてくと馬車へと戻る。バルーンラビットは空気が肺の中にたくさん入っており、肉は今ひとつらしい。
「もう倒したのですか?」
御者を務めているジャクソンがラシュたちに尋ねた。
「ああ。もう大丈夫だ。出発してくれ。」
ラシュの言葉を聞いて馬車が動き出す。
「それにしても、君たちの魔物の殲滅する時間はとても早いな。」
依頼主であるザックが感心しながら言う。
「そうですか?俺たちだと普通でも、周りのパーティからしたら、違和感があるらしいですから。」
「いや、モノケロースが出てくる時点で普通じゃないからね。」
「バルーンラビット約70匹を5分程度で倒せるなんてすごいです!!」
ミーシャも早業に思わず喜びのあまり、シグに飛びつくように肩を掴んだ。
シグの肩に乗ったままのエーを見て、ミーシャはとても驚いている。
「この子は?」
「エー。うちの使い魔や。」
「かわいいですね。」
「そうやろー。」
シグとミーシャがかわいらしい生き物について話をしていると、ぐうと音が鳴る。
「お腹へった・・・。」
その横でアッシュが壁にすがりついている。
「ふふ。アッシュさんのお腹の時計もなったようですし、そろそろお昼にしましょう。」
ザックの一声で、草原の中の小さな広場に馬車を止めた。
「さて、昼ご飯ですが・・・」
「俺に任せろ。」
ラシュはかばんから一通りの器具を出し始めた。どうも、モノケロースの肉を使った焼き肉になりそうである。
アッシュはさっさと林の中に入って、薪を持ってきている。サイカは水筒から水を出し、鍋に入れている。
「お、サンキュー。」
設定
ジオ=アクィナス 召喚師。シグの上義兄。『シグ』『ジオ兄』と呼び合う。
シグの連れている魔物は猫に翼が生えた「エー。」
弟のカディオが連れている魔物は「ビー」。
そして、本人の使い魔は「シー」である。
カディオ=アクィナス シグのすぐ上の兄。『兄貴』『シグ』
たまたま村で悪いことしているやつをたたきのめすと、
義賊と呼ばれるようになった。