6 薬草がほしいので、討伐依頼と護衛依頼を受ける。
どこか目的がおかしな『笑う太陽』の面々。
ラシュの苦労が忍ばれる。
「ラシュ、この依頼、受けませんか?」
冒険者ギルドの依頼掲示板の前に、『笑う太陽』がいた。
「ん?サイカが依頼を受けようとするなんて、何を企んでいるんだ?」
サイカに差し出された依頼書を読みながら、ラシュはサイカに問いかける。
「企むも何も、その依頼の近くに、上級薬をつくる材料の群生地があるんですよ。せっかくだから寄ってもらえないかと。」
「ああ、上級薬か。お前のだからすごくひどい副作用があるんだろうなぁ。」
依頼自体は普通の魔物の討伐依頼だったので、ラシュは顔をサイカに向けて尋ねる。
「ええ、火傷程度なら一瞬で治りますが、2時間程度かゆみがひどいです。」
「嫌だな、それは。」
「うち、絶対それ使わんわ。」
「サイカの薬は使いたくない。」
話を聞いていたシグとアッシュも頷く。
「まあ、私が作るのはかまわないでしょう?さあ、討伐依頼を受けましょう。」
「まあ、いいけどな。」
ラシュはアッシュを伴って依頼カウンターへと向かう。
「サイカ、あの討伐依頼、あんたが出したんやないの?」
「まさか。わざわざあなたたちに報酬を出すわけがないではありませんか。」
「・・・うちの考えすぎやんな。」
シグはラシュたちのところへは行かず、とっととギルドを出ようと歩き出す。
「まあ、考えないでもありませんでしたが。」
「考えたんかいっ!」
サイカのぽつりとつぶやいた言葉に、シグは思わずつっこんだ。
「いや、よく聞こえましたね、地獄耳。」
「悪口言わんといてや~。サイカの薬の群生地、焼いてしまうで。」
「そんなことをしたら、薬剤師たちに殺されますよ。」
「・・・それもそうやな。まあええわ。次に勝手なこと言うたら針の刑やで。」
「はい。いつだって、シグは苛烈ですねぇ。」
「・・・まあええわ。」
「何の言い合いしてんだ?ほら、行こうぜ。」
サイカとシグの応酬を止めたのは、依頼を受理してきたラシュだ。
きっとまた言い合いをしていたんだろうなぁと思いながら、
ラシュはさっさとシグを連れていく。
動き出せばサイカが付いてくるのはわかっているので、サイカは放置だ。
『笑う太陽』の中で、紅一点のシグをなだめるのも、ラシュだ。
「で、この依頼先はバーデン高原だ。少し遠いから、途中の街のレイフェンに行く護衛依頼を教えてもらったから、それに乗っていくぞ。」
「ほんまに?!馬車に乗れるん、うれしいわ~。」
長距離を歩く覚悟をしないといけないかと沈んでいたシグは、とたんに喜び、明るくラシュの肩を叩く。
「ま、問題はアッシュが物を壊さないかってところだな。」
「アッシュは後ろから走ってついてくればええんよ。」
「・・・それもありか・・・」
毎度、護衛依頼で何かしら壊して弁償をしているラシュは、シグの言葉に思わず考えた。
「うえっ?!なんで?!」
仲間はずれにされそうな様子に、アッシュが慌ててラシュの肩を掴む。
「お前、馬みたいに足が速くなりたいって言ってたよな?」
ラシュは動揺しているアッシュに、ゆっくりと話しかける。
「え?うん。」
「馬車と同じ速さで走ればできると思わないか?」
「そうだな。」
「そう、これは特訓だ!!お前の足を鍛えるための特訓なんだ。」
「そうか、特訓か!!なんだか特訓なんて久しぶりだな。スー爺以来だ。」
「そうか、わかってくれたか!」
「おう、おれ、特訓するぜ!」
アッシュがラシュの話術?に乗せられて馬車の隣を走ることになったのを見て、
シグとサイカは毎度のことながら、呆れていた。
「ええ?護衛を受けるのは『笑う太陽』なのかっ?!」
すでに商人にびびられている自分たちに、ラシュはフードを取って、ゆっくりと挨拶をした。
「冒険者ギルドから依頼を受けました。『笑う太陽』の副リーダーのラシュです。こちらはリーダーのアッシュ。そして仲間のシグとサイカです。あなたが、依頼主のザックさんですね。よろしくお願いします。」
フードを取ってにっこりと微笑むと、意外と整った顔立ちのラシュは好青年に見えるのだ。
「ああ、よろしく。私はザック=ユンだ。そして店員のミーシャとジャクソンだ。」
にっこりと微笑んだままのラシュとザックが握手をする。
「では、護衛は私たちが行います。もし襲われたら馬車の中に隠れて下さいね。外は基本的にアッシュが走って守りますから。」
「は?」
「まあ、気にしないで下さい。」
耳から正気を疑う言葉が聞こえたが、ラシュにさらりと流されて、ザックは目をぱちくりとした。
「まあ、よくわかりませんが、よろしくお願いします。」
そして、討伐依頼を受けるための、護衛依頼が始まった。
「おい、アッシュ、遅れてんぞー。」
「っ、はあ、はあ。負けん~!!」
馬車の荷台の後ろに座りながら、ラシュは馬車の後ろを走っているアッシュに声をかける。
「本当にやるなんて、アイツどこまで筋肉馬鹿なの?」
「あの、あの人、大丈夫なんですか?」
呆れてつぶやいたシグに、同じように座っていたミーシャが声をかけた。
「大丈夫やで。あの筋肉馬鹿は。」
「でも、あの人、馬と同じ距離を同じ速度で走り続けてますよね、かれこれ2時間。」
「でも、この馬車もそこまで速くないやろ。あのアホのちょうどいい鍛錬になってるからええんよ。まあ、倒れたらサイカの薬で一発で治る。」
「え?サイカさん、薬剤師さんなのですか?」
驚いて、ミーシャがサイカに視線を動かす。
「いいえ、私は僧侶ですよ。ですが、薬剤師の面もありますから。」
「僧侶様だったのですか。でしたら、薬剤の力もお持ちでしょうね。」
ジャクソンがサイカの言葉に、なるほどと頷く。
「ラシュ、あとどれくらいだ?」
「まだ半分も来てないぞ。がんばれ。」
「おっしゃー!」
アッシュが結構しんどそうなのに、ラシュは気にせず淡々と応援する。
あまりの親友の無防備さに、どうしたらいいものかと途方にくれつつ、辺りへの警戒をし続ける。
「シグ、10時の方向に1頭。」
「OK!」
魔物が襲いかかってきた。
設定6
基本的に冒険者は歩きである。
馬車を買うと馬小屋や餌やりなどに困るからである。
遠くの討伐依頼を受けようとすると、途中までの護衛依頼を受けていくのが一般的。そうでもしないと、時間がかかりすぎるのと、商人たちもその方が安全なのである。冒険者ギルドを通すと、普通より護衛代が安くすむという噂。




