4 魔石トラップ 中編
だいぶん、時間があきましたが、続きです。
『青い閃光』『笑う太陽』一行はてくてくと街を出て、少し離れた林の中を歩いていた。
「なー、シンシア~。サイカの代わりにうちに来て~や。」
「それは楽しそうだけど、遠慮しとく。」
『笑う太陽』の盗賊、シグが、『青い閃光』の神官、シンシアに勧誘の声をかけていた。
が、シンシアは笑顔で断っていた。
「なんでや~。ご飯は基本、田中屋食堂かラシュのおいしい手作り料理やで。」
「え?ラシュが作ってんのか?」
シグの言葉に、前を歩いていた弓術士のイレイズが振り返って尋ねた。
「そうや。ラシュ、器用やからうちの小道具とかよく作ってるんよ。料理もおいしゅーて、ええよ?」
「おまえらが、晩飯つくろうとしないからだろうが。」
シグの言葉にラシュが前から振り返りながらつっこむ。
「やって、ラシュがした方がうまいやんか。」
「それは女の子としてどうなんだ?シグ。」
イレイズがにやにやと尋ねるも、シグはけろっとした顔で答える。
「別にええやん。おいしいもん食べれたほうがええやろ?」
「そうねえ。いつもセイフォードがざっくりした料理をつくったり、ウォントルのどう考えても男向けな量とか、レオニールのよくわらかないものより、おいしいってわかってるラシュがいるならお願いしたいわね。」
魔法使いのリンダが少し考えながら、隣を歩くシグに答える。
「アッシュは料理できんし、サイカやと何食べさせられるかわからんやん。やったら、ラシュやろ?」
あっけらかんと言い放つシグを振り返って見て、セイフォードはラシュを見た。
「お前、とことん器用貧乏だな。」
「うるせぇ。アッシュと冒険者するって決めたときから、そうなるだろうとはうすうす感じていたさ。
あいつ、家事全般できないからな。せいぜいが料理を運ぶくらいだ。」
「できなさすぎだろ。」
「ああ、片付けという名の、破壊活動は得意だな。」
「それはだめだろ。」
「俺も言ってだめだと思った。」
「ラシュの料理、うまいのか?食べてみたいな。」
レオニールと先頭を歩いていたウォントルが、後ろを向いて歩きながら、ラシュに話しかけてきた。
「そんなにたいそうなものじゃないぞ。」
ラシュが謙遜していると、シグはラシュの背中にとびつきながら宣伝する。
「一番おいしいのは、ホーンラビットのソテーや!」
「そうか?おれは、ビアベアの丸焼きだな。」
「それは料理って言わねぇ。」
シグの言葉を聞いて、アッシュが首をひねりながら答えるが、ラシュにつっこまれる。
そんなまったりとした一行だったが、とつぜん先頭のレオニールが足を止めた。
レオニールの目の前には、青い炎が浮いている。
「魔物がいるよ。おそらく5体。」
青い炎を操っていたのは魔法使いのリンダだ。魔力の探知をすることで、一定の範囲の魔力保持生物を確認することができる。
「あー、空に3体だな。」
ラシュが上を向いてリンダに付け加える。その声に一行が上を見上げると高いところからこちらへ向かってくる黒い生き物がいた。
「イレイズは上、ウォントル、レオニール、行くぞ。」
即座にセイフォードが叫ぶと同時に、イレイズは間髪いれず弓を放つ。
3体のうち、右の一体がイレイズの弓に当たり、落ちてくる。
さらに連続して放つが、素早い動きになかなか当たらない。
セイフォード、ウォントル、レオニールは林の中から現れたビアベア3体と渡り合っている。
「アイシクルッ!」
セイフォードたちの攻撃の合間に、リンダが氷の魔法で援護する。するどくとがった氷がビアベアに突き刺さる。
「行くでっ!」
林から駆けだして現れたグレイウルフ2体に、シグが前に出てナイフを投げつけた。それを追うようにアッシュが斬りかかる。
ラシュはその様子を見て、イレイズの援護に入った。
「ワールウインド。ライザー。」
ラシュの起こしたつむじ風に、向かってきていた2体がよろけたところへ、続けて電撃を放つ。
その勢いが止まった瞬間、イレイズが弓を連続して放ち、上空の魔物を全て撃ち落とした。
セイフォードが剣でビアベアの腕をかいくぐり胸ぐらを十字に切り裂く。
ウォントルが拳でビアベアの腹を殴り、あごを下から蹴り上げる。
レオニールが槍でビアベアと距離を取りながら、ぐさぐさと突き刺していく。
リンダの氷もビアベアの体力を徐々に減らしていく。
そのころには、アッシュはグレイウルフ2体をざっくりと一刀両断してしまっていた。
「ちょー、アッシュ。うちのナイフ、意味ないやんかー。」
「そうか?悪い。よーし、次・・・」
「おい、アッシュ、あっちは任せておけよ。」
まだビアベアとの戦闘が続いていたが、シグはのんびりとアッシュに話しかけ、グレイウルフに投げたナイフを回収していた。アッシュはビアベアの戦闘にも加わろうとしていたが、ラシュに止められる。
ビアベア3体を倒すと、ビアベアとグレイウルフ、アンゲストホークを解体し始める。
「半々でいいか?」
獲物の取り分をセイフォードがラシュに尋ねると、きょとんとしてラシュが答える。
「いや、そっちのほうが人数多いだろ。こっちはグレイウルフ2体で。」
「いいのか?」
「だって、今回はシグのトラップの片付けが終わってなかったせいだからな。」
「むー、しつこいなぁ、ラシュは。もらえるものはもらっておこうや。」
引き合いに出されたシグがふくれっつらをしてラシュに抗議する。
「倒したのは、グレイウルフだけなんだから当たり前だろ。」
「ラシュがアンゲストホークを倒せんかったからや~。」
「はいはい、なんとでも言え。シグの言ったことは気にしなくていいからな。」
「・・・おう。」
獲物の片付けをすると再び歩き出した。
設定4 アッシュたちよりセイフォードたちの方が年齢は上だが、同じ冒険者なので対等。むしろ、よくトラブルを起こしているアッシュたちを見守ってくれている。直接かばってはくれないが、見逃してくれる程度に仲良し。冒険者は基本的におもしろいことの中心には『笑う太陽』の誰かがいると思っているくらいよくトラブっている。おかげで(笑)の通称が一人歩きしている。