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37 熱き職人の友

楽しんでいただけると幸いです。

「今日はええ買い物したわ~。」


「いったい、何を買って来たんですか?」


荷物を置いて戻ってきたシグとリーザにレディースセットを渡しながら、田中が尋ねる。


「え?服とかやな。女同士で買い物やこう行かんから、楽しかったわ~。」


「シグさんといると楽しいです。」


にこにことシグとリーザが答えると、どんよりとしていたアッシュが顔をあげる。


「いいなあ、楽しそうで。」


「へまをしたのはあんたやろ、アッシュ。自業自得やで!」


「まったくです。あなたがラシュと敵対したとたんに、誰も相手してくれなくなりますよ。おそらく、この町の人全員がラシュの味方になるでしょうから。まあ、針のむしろになるのも当然ですよ。どれだけラシュがあなたの尻ぬぐいをしているか考えてみれば当然ですけどねぇ。まあ、それすらもわからない脳筋のあなたにはどうしようもないことかもしれませんねぇ。」


シグとサイカからの泣きっ面に蜂どころか、ゾウに踏みつぶされるか、落し穴に落とされるか、というか、四面楚歌な状態にアッシュはがっくりとカウンターにつっぷした。


「でも、ラシュさんのことですから、そのうち許してくれますよ。ねぇ。」


田中がフォローしてシグを見ると、シグは肩を落とす。


「そうやろなぁ。あれでラシュもアッシュのこと、大事な相棒って思うとるから。まあ、少しくらい叱られてしょんぼりしてるくらいが、アッシュにはちょうどええやろ!」


あははとシグに笑われ、さらにアッシュは落ち込んでいった。




「できた!」


「すごい、すごいな、ラシュ!!魔術陣でこんなに短縮されるなんて、夢みたいだ。この魔術陣が使えれば、どんな薬もものすごく短時間で作れるじゃないか!!」


完成した薬を持つラシュとヴィルの喜びの差が激しく異なる。ようやくできた達成感であふれているラシュと、魔術陣の有用性とその可能性に目を輝かせているヴィルは互いを冷静に見ることができていなかった。


「これで俺が作らなくても、ヴィル一人でできるよな!」


「ラシュ、この魔術陣、俺の道具に付与してくれないか?そうしてくれれば、どんな薬ももっと早く作ることができるよ!!」


二人は、互いの言葉の違いにはっと顔を合わせ、顔を背け、ため息をついた。先に声を出したのは、ラシュだった。


「悪い、ヴィルの道具に付与したいのはやまやまだが、・・・この道具だけで勘弁してくれ。」


「いや、こちらこそ悪かった。ラシュは魔術陣の依頼を断っているのに、無理を言ったよ。ごめん。」


ラシュとしては、ヴィルの道具に魔術陣を付与することはできるが、それによって他の薬剤師との兼ね合いが崩れることを懸念して手を出すことができないのだ。それがどれだけの人を救うことだとしても、それを、ラシュ一人で狂わすことはできない。

もしするならば、ラシュはひたすら薬剤師の道具に魔術陣を付与し続けなければならなくなるだろうし、おそらく、魔術陣の依頼を断ることはできなくなるだろう。今だって、魔術陣付与の依頼は受けないから魔術師としてのレベルは低いと見られているから断れているのだ。魔法使いの腕としては一流だが、魔術師としてはまだまだ、ラシュは魔術師としての姿をそう見せるようにしている。冒険者を続ける上での、ラシュの自分なりのけじめである。だからこそ、自分のパーティのものにしか、魔術陣を付与した道具は渡さないのだ。

宮廷魔術師が在野に魔術陣を使った道具を大量に出さないのも、実際、付与する技術が高度なことと、希少価値にすることで、世界の均衡を保っているとも言えるのだ。ラシュはスー爺という賢者レベルの師匠から教わっているため、すでに国でも上位を争う魔術師としての腕前があるが、そこまでの高みにいる魔術師は宮廷魔術師の中でも数少ない。


ヴィルとしては、役立つ魔術陣を使ってたくさん薬が作れるならよいことだと思っているが、ラシュの魔術師として世界と考え方があることも分かっているので、強く求めることはできないと考えている。互いに、職人とも呼べる専門家であるからこそ、立ち入れないのだ。


「ありがとうな、ヴィル。これでもう覚えたか?」


「ああ。これからは俺一人で作れるさ。こんなすごい仕事、俺のところに持ってきてくれて感謝してるよ。」


頷いて、笑みを浮かべるヴィルに、ラシュは微笑む。


「そういわれると、助かる。なんたって、全部仕事を押しつけてるんだからな。」


「これは、薬剤師としては画期的な出来事だぞ!嬉しいことはあれど、嫌なことではないさ。」


ヴィルが差し出した手を、ラシュが握る。


「俺がちゃんと引き受ける。任せとけよ!」


「ああ、頼んだ。」


男たちは熱い握手を交わして、別れた。




「で、お前はいつまでそうしてんだ?」


「うわ~ん、ラシュ!おかえり~!!」


田中屋食堂のドアを開けたラシュは、カウンターで泣きべそをかいていたアッシュをみつけ、嫌そうな顔をした。大きな男が鼻水を垂らしながら泣いて振り向いたのだ。気持ち悪いことこのうえない。そのうえ、アッシュが抱きついてくるものだから、ラシュは思わず、魔法で昏倒させた。


「気持ち悪い。」


設定37 薬剤師

基本的に薬草から薬を作る職人。

王都周辺では、薬剤師協会が存在し、その試験に合格すると薬剤師としての資格が発行される。薬剤師協会は国ともつながりがあり、戦時には融通する。平時でも、流行病などでは薬剤師協会と冒険者ギルド、商人ギルドが王命で協力することもある。

ちなみに、ヴィルは薬剤師協会の資格をもつ薬剤師。

薬剤師協会で集められた薬剤の製法は基本的に閲覧可能である。

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