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36 薬の依頼

楽しんでいただけると幸いです。

「ヴィル、今手ぇ開いてるか?」


ラシュがふらりとドアを開けて入ったのは、町の小さな薬屋だ。看板には薬と入れ物の絵だけ描かれている。家の周りは蔦が囲んでおり、町の人々は緑の薬屋と呼んでいる。


「いらっしゃい。何がご入り用ですか?」


店の奥のカウンターに座っていた人が穏やかに答える。耳が長く、とがり、子どもくらいの背の高さしかなく、顔も童顔である。まるで子どもが店を開いているようにしか見えないが、店主は正真正銘、成人しているのである。


「いい話を持ってきたんだ。」


ラシュはヴィルの姿を見つけると、薬の入った袋を持ち上げて見せた。


「ああ、ラシュさん。久しぶりですね。それは何ですか?」


ラシュはカウンターへ袋の中身を出す。カウンターの上に様々な薬剤が並ぶ。


「これは、この間俺が作ったアシピレヒドの毒への薬だ。こっちはその材料。ヴィル、これを作って、冒険者ギルドへ卸してくれないか?」


「アシピレヒドの毒への薬はロイエで作るものだろう?これは、いったいどこから?」


ヴィルはラシュの言葉を聞いて、目を丸くした。


「冒険者ギルドだ。情報はあっても、制作者への依頼が難しくてできなかったらしい。」


「どうやってつくるんだ?」


新しい薬剤の製法と聞いて、ヴィルはカウンターに身を乗り出した。ラシュは傍に置いてあった椅子に座って話し出す。


「元々、魔術師が魔術陣を使って作るものだから、制作時間が長いんだ。はっきり言って、制作者が倒れる。」


「魔術陣って、まさか、王宮魔術師たちがこの薬を作ったのか?」


ヴィルはさらに驚く、魔術師が研究しているのは秘匿されており、基本的に在野には知らされない。魔術陣もほとんど出回っていないのだ。ましてや、薬を作っているなんて思ってもみなかったのだ。


「ああ。ロイエの流通が低いんで、研究したらしい。それを冒険者ギルドに委託したものの、魔術師がいないから作れなくて、困ってたらしい。」


「で、ラシュさんがこれを作ったんですよね?どうして俺に?」


「俺は冒険者だからずっとこれを作ってるわけにはいかないから、やっぱり本職に作ってもらうのがいいと思ってさ。俺が魔術陣をつけた道具を渡せば、ヴィルなら作れるだろう?いつもヴィルには世話になりっぱなしで悪いんだが、ヴィルしか思いつかなくてな。」


「頼ってもらえるのは嬉しいよ。ラシュが作った道具なら安心だ。ただし、どれくらい卸せるかは、俺の通常の業務もあるから、多くは作れないぞ。」


「最初はそれでいいと思う。必要なものがあれば、また俺も作るよ。」


「わかった。とにかく、作り方を教えてくれ。こっちだ。」


「ああ。」


ヴィルはカウンターの椅子から降りて、奥の工房へとラシュを誘う。ラシュとヴィルは熱心に薬剤作りを始めた。




「おや?めずらしいですね、アッシュ一人なんて。」


田中屋食堂の2階からお昼ご飯を食べようと降りてきたサイカは、カウンターにぽつりと座っているアッシュを見つけた。


「こんにちは、サイカさん。ラシュさんは緑の薬屋に行っていますよ。」


階段から下りてきたサイカに、カウンターから料理を出していた田中が答える。


「こんにちは、田中さん。ありがとうございます。今日も繁盛していますね。」


サイカが教えてくれたことに礼を言い、周りの様子を見た。今日も田中屋食堂にはたくさんの客が入っている。冒険者もいれば、町の人もいる。そんななか、どんよりとした空気のアッシュは一人、目立っており、その周りには誰も座っていない。


「ええ、ありがたいことです。サイカさんは何か食べますか?」


「ええ、今日は何がおすすめですか?」


「今日はトオル君がいい魚を持ってきてくれましてね、魚料理ですよ。」


「では、それをいただきましょう。」


「はーい。」


サイカと田中はどんよりしているアッシュには目もくれず、楽しそうに話し終える。サイカはアッシュの隣に座れど、まったくアッシュに関わらず、静かにカウンターの中を見ている。


「たっだいま~、田中さ~ん!今日はまだレディースセットある?」


田中屋食堂の扉を開けながら大きな声で入って来たのはシグだ。嬉しそうに紙袋をたくさん持っている。その後ろには同じように紙袋をたくさんもったリーザがいる。


「ああ、お帰りなさい、シグさん。ええ、まだありますよ。すぐ食べられますか?」


「うん、ちょお荷物置いたらすぐ来るわ。サイカ、隣あいてんやろ?あけといてやー!」


シグはさっさと注文をして部屋へと上がっていく。その後ろをリーゼがついていくのを、サイカが声をかけた。


「リーザ、あなたも注文しておきますか?」


「あ、はい。シグさんと同じものでお願いします。」


「だ、そうですよ、田中さん。」


「ええ、わかりました!」


田中が返事をしていると、部屋の方からシグの声が聞こえてくる。


「リーザ、早う!」


「はーい!」


楽しそうにリーザは返事をして二階へと上がっていった。


「田中さん、すみませんねぇ。まったく、騒がしいですねぇ。」


「ふふふ。シグさんたちが静かでなかったら、逆に何かあったのかと心配になりますよ。アッシュさんが静かな理由は今朝ラシュさんから聞きましたけどね。」


サイカに謝られ、田中は気にしないでと首を横に振ると、料理を続けた。


設定36 

トオル 釣人 町の少年。釣りをして収入を得ている。

       町のいろんな店に魚を売っている。

       田中屋食堂にはよく売りに来るし、食べにも来る。

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