第九十七話
「マジックアイテム? ……魔法の道具、ですか?」
「そう。さっきも言ったように文字通り魔法のような不思議な力を秘めた道具だよ。これを使えばどんな人でも輝力や神術のような奇跡の力を使うことができるんだよ」
聞き覚えがない単語にアルハレムが首を傾げるとローレンが一つ頷いて説明をする。
「アルハレム君も聞いたことはない? 刀身が燃える剣を振るって大勢の盗賊を一人で倒した剣士の話とか、投げると手元に帰ってくる投げ槍を使って魔物を退治した騎士の話とか。そんな話の登場人物達が使う武器もマジックアイテムだね」
「いえ、確かにその手の話は昔からよく聞きますけど……全部作り話ですよね?」
英雄と呼ばれる人物が不思議な力を持つ武具や道具を使って凶悪な敵を倒したり、厄介な事件を解決するという物語は昔から各地に伝わっているが、それは作り話か過去の話が誇張されたものだというのがアルハレムの意見だった。しかしローレンは首を横に振ってその意見を否定した。
「違うよ。アルハレム君の言う通り、この手の話には作り話が多いけど、その中には本当の実話もあるんだ。そしてその実話のマジックアイテムは、クエストブックのクエストを十回達成するごとに与えられる冒険者への『特別報酬』なんだよ」
「特別報酬?」
「クエストブックのクエストを達成すると神力石が手に入るけど、十回ごとのクエストを達成した時だけ神力石以外の報酬が与えられる。それが特別報酬」
「じゃあ、そのローレン皇子の左腕にある射手の、玄絃でしたっけ? それも特別報酬なんですか?」
「その通り。この射手の玄絃は十回目のクエストを達成した時の特別報酬として手に入れたマジックアイテムなんだ。僕の思った通りに形に長さ、弾力性 を自由に変えて弓やスリングショットとして使えるだけじゃなく、遠くの物を掴めたりもできる優れものだよ」
ローレンはそう言うと左腕を見せて、そこに巻き付いた射手の玄絃を動かしてみせた。
「クエスト達成の報酬にそんなマジックアイテムみたいなものがあるだなんて……初めて知りました」
「だろうね。……マジックアイテムは最初、与えられた冒険者にしか使えない代物なんだけど、その冒険者が死ねばそれ以降は誰でも使えるようになる。だから国と教会はこのマジックアイテムの情報を隠すことにしたのさ。もしこの事が知られたら、マジックアイテム欲しさに冒険者を狙う人間が少なからず出てくるだろうからね」
「なるほど……」
アルハレムは自分の呟きに対するローレンの返答に納得した。
「国が冒険者を勇者として応援する理由にはこのマジックアイテムのこともある。勇者となった冒険者は自分の死後、クエスト達成で手に入れたマジックアイテムの所有権を国に譲るという契約をしなければならないんだ」
「そうなんですか。……勇者っていうのも大変そうですね」
感心したように頷くアルハレムをローレンは呆れたような顔で見る。
「アルハレム君、君は何を他人事のような顔をしているんだい? 君だってもう勇者なんだし、次のクエストで十回目。達成すれば特別報酬が得られるんだよ」
「……あっ。そうか」
「アルハレム君の九回目のクエスト。冒険者……この場合は僕と模擬戦をするというクエストは、すでに達成されたはず。次のクエストはきっと何処かに旅をするものだと思うから、僕達はその旅に同行して君がクエストを達成するのを見届ける。それから父上に君が勇者として適格であると報告するつもりだ」
「はい。分かりました。よろしくお願いします、ローレン皇子」
元々ローレンがアルハレムの審査員に志願したのは、自分のクエストを達成するためでもある。それを知っているためアルハレムはローレンの意見に異論を持たず頷いたのだった。




