第九十六話
「う、く……!」
「おっと。アルハレム君、大丈夫かい?」
体が地面に叩きつけられた痛みに耐えながら立ち上がろうとするアルハレムに、流石にやりすぎたと思ったローレンが話しかけながら近づく。すると……、
「……え?」
ローレンの前にリリア達アルハレムに従う五人の魔女が立ちふさがった。
「ローレン皇子、お見事です。その鮮やかなお手並み、このリリア感服いたしました。それでお疲れのところ大変恐縮なのですが、次はこのリリア達とお手合わせ願えないでしょうか?」
「………」
「ルル、達、我が夫、の、僕」
「アルハレム殿は『魔物使い』の冒険者でござるから、ツクモさん達の力は主であるアルハレム殿の力なのでござる。故にアルハレム殿の力を知って頂くには、ツクモさん達とも戦ってもらう必要があるでござるよ」
「旦那様の為に負けません……!」
五人の魔女達はリリア、レイア、ルル、ツクモ、ヒスイの順番で目の笑っていない笑顔、あるいは据わった目をして棒読みの口調でローレンに話しかける。どう見てもアルハレムを傷つけられたことに腹を立てて、その報復をしようという顔つきである。
仮にも王族であるローレンにそのような真似をすれば、リリア達だけでなく主人のアルハレムもただではすまないのだが、魔女の彼女達はそんなことを気にするはずがない。兄の介抱をしているアリスンも止める気配がなく「いいからさっさとやっちゃいなさいよ」と言う始末だった。
「い、いやいや! いくらなんでもリリアさん達の相手はちょっと……!」
このままだと怒り狂う五人の魔女達を一度に相手にすることになりそうなローレンは、慌てて両手を上げて戦わない意思を示して、アルハレムもリリア達に落ち着くように声をかける。
「皆、馬鹿なことはするな。俺は大丈夫だから落ち着け。……ローレン皇子、申し訳ありません。リリア達が失礼な真似を……」
「いやいや。今回は調子に乗った僕も悪かったよ。主人であるアルハレム君が傷つけられたら、リリアさん達が怒るのは当たり前さ」
アルハレムの言葉によりリリア達五人の魔女の怒りが霧散したのを感じて、ローレンは明らかにホッとした様子で答える。
「それよりアルハレム君、もう大丈夫かい?」
「はい、なんとか……。それにして流石は二十回クラスの冒険者……俺の完敗です。ですけど最後の一撃、あれは一体なんですか?」
「ああ、これのこと?」
ローレンはそう言うと、最後の攻撃を放つ際に使用した左腕に巻き付いた黒い帯を見せた。ダートを放つ時は自ら動いて形を変えて弓の形になっていたが黒い帯は、今はただの帯に戻っていた。
「この帯は『射手の玄絃』という不思議な力を秘めた所謂『マジックアイテム』と呼ばれるもので、クエストを達成した時に得た僕専用の武器なのさ」




