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第九十一話

 大広間に集まった王族と貴族達はヨハン王の宣言に拍手と歓声をもって返した。


 アルハレムはヨハン王が言った通り、この夜会の中でも指折りの名門マスタノート家の出身で「神速の名将」の二つ名で国内だけでなく隣国にも知られているアストライアの息子。それに加えて戦乙女にも匹敵する上位の魔物、魔女をすでに五人も従えている。


 個人の思惑は別として、実力主義を国是としているギルシュの王族と貴族達がアルハレムを勇者と認めない理由は何一つなかった。


「アルハレム・マスタノートよ。貴公はギルシュに忠誠を誓う冒険者、勇者となってこれからもクエストブックに記される女神イアスよりの試練に挑んで貰えぬだろうか。ギルシュの更なる発展と、貴公自身の栄光を掴み取るために」


「……はい。このアルハレム・マスタノート、仲間の魔女達の力を借りねば何もできない未熟者ですが、国王陛下が許してくださるならギルシュの勇者という栄誉、ありがたく受けとります」


 本心では勇者という肩書きには全く興味がなく、むしろ逃げ出したい気持ちで胸が一杯であったアルハレムだが、国王直々にこうして頼まれたら(やんわりとした言葉の強制命令を言われたら)一貴族の子息にすぎない彼には断ることなどできるはずもない。その為、クエストブックに選ばれて魔物使いの冒険者となった貴族の青年は、臣下の礼をとってギルシュの勇者となることを承諾するのだった。


「おおっ! よくぞ決心してくれたぞアルハレム・マスタノート……いや、勇者アルハレムよ。それでは早速なのだが、貴公には余が選んだ審査員と共にクエストブックの試練に挑戦してもらう。貴公が試練を達成したのを審査員が確認した時、我がギルシュは貴公を真に勇者であると認めよう」


「はい。分かりました」


 実際は今さっきアルハレムが承諾した時点で勇者であると認められているのだが、これはギルシュにおける勇者公認の通過儀礼であり、アルハレムも頷いてみせる。


「アルハレム・マスタノート。貴公は現在、挑戦している試練はあるのか?」


「いえ、自分が挑戦していたクエストは国王陛下と話をするという内容で、それはもう達成されています。新しいクエストはまた後日にクエストブックに記されるはずです」


「そうか。ではアルハレム・マスタノートのクエストブックに新たな試練が記されるまでに余も審査員の人選を……」


 そこまでヨハン王が言ったところで、今まで黙って国王と新たな勇者の会話を聞いていた夜会の参加者達の中から一人の男が進み出た。


「父上。その審査員の役目、どうかこのローレンに任せてくれませんか」


 アルハレムとヨハン王の前に進み出てきたのはギルシュの皇子であり、もう一人の勇者である青年、ローレン・ペルシド・ギルシュであった。


「ローレン? お前が審査員をするだと?」


「ええ、後輩になったアルハレム君とその仲間達の活躍をこの目で見たいですし、それにこれは僕の『クエスト』でもありますからね。……『ブック』」


 ヨハン王に答えてからローレンが小さく呟くと、空中に一冊の本……彼のクエストブックが現れ、ローレンは空中に現れた自分のクエストブックを手に取って開くとそこに記された文章を見せた。



【クエストそのにじゅうなな。

 ぼうけんしゃのおともだちとたびをしましょう。

 せっかくぼうけんしゃのおともだちができたのだから、いっしょにたびをしてもっとなかよくなりましょう。

 それじゃー、あとにじゅうごにちのあいだにガンバってください♪】



「この文章から僕のクエストブックはアルハレム君達がやって来るのを待っていたみたいなんですよね♪」


 クエストブックに記されたクエストの文章を見せながらローレンはとても嬉しそうな笑顔で話すのだった。

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