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第八十七話

 ローレンはアルハレムの旅の話を楽しそうに聞いた。それに彼は魔女に対して警戒心を懐いておらず、時折リリア達五人の魔女が会話に加わっても、楽しそうな笑顔を崩すことなく彼女達の会話に耳を傾けた。


 そうしてアルハレムがあらかた旅の出来事を話すと、国王との会話を終えたアストライアが案内役のメイドと共に迎えに来て、一度ローレン達と別れたのだった。


「お兄様。ローレン皇子って楽しそうな方だったね」


「そうだな」


 王城シャイニングゴッデスの一室。この王都にいる間、生活することになる部屋に案内されるとアリスンが言い、アルハレムが妹の言葉に頷く。


「気取ったところのない気さくな方だし、仲間の戦乙女達の信頼もあるようだ。でもその分、王宮での敵は多いかもしれないな。権威とかを重視する王族や貴族達が王族らしくないって」


「確かにローレン皇子を白い目で見る王族や貴族は多いが、今更そんなのを気にするような方ではない。それに、王族らしくない王族なんて言葉、私達が言えたものではないだろう?」


 アルハレムの言葉に答えたのはアストライアで、母親が最後に付け加えた言葉に息子は「確かに」と言って苦笑した。なにしろアルハレム達マスタノート家も他の貴族達に「貴族らしくない貴族」と言われ、口が悪い貴族なんて「ギルシュの蛮族」と言うくらいなのだから。


「確かにローレン皇子は良い方に見えましたが……」


 マスタノート家の親子がローレン皇子について話しているとリリアが考えるような顔で会話に加わってきた。


「どうかしたか? リリア?」


「ローレン皇子は魔女の私達にも普通に接してくれましたが、その回りにいたあの戦乙女達はあの部屋にいる間ずっとこちらに敵意のある目を向けてきていました。それがちょっと気になって……」


「いや……、それはこう言ってはなんだけど、普通の対応なんじゃないか? 人間で魔女を警戒するのは多い……っていうかそれがほとんどだし、彼女達はローレン皇子の警護でもあるのだし」


 アルハレムの言葉は正論なのだが、リリアはまだ納得していないのか眉をひそめたままだった。


「いえ、私があの戦乙女達から感じた敵意はそんな分かりやすいものではなく……、もっとこう、色々な黒い感情がドロドロに溶け合った厄介な敵意というか……」


「ツクモさんもリリアの意見に賛成でござる」


 リリアがローレン達と同じ部屋にいた時に、彼に従う戦乙女達から感じた敵意を説明しようとしていると、ツクモも会話に加わってサキュバスの意見を支持した。


「ツクモさん? それってどういうことですか?」


「にゃ~、どういうことと聞かれても、ツクモさんもリリアと同じでうまく言葉にできんのでござるよ。……ただ、ローレン皇子とあの戦乙女達の間には時々変な空気を感じたのでござる。それが何なのかは分からんでござるが、きっとそれが関係しているとツクモさんは思うでござる」


「変な空気……? それって一体……ん?」


 アルハレムがツクモとリリアに詳しい話を聞こうとした時、誰かが部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。


「構わん。入れ」


「失礼します」


 アストライアが許可を出すと、部屋のドアを開いて数人のメイドが入ってきて、その中で古株と思われる一人のメイドが要件を口にした。


「皆様。国王陛下での謁見で着る礼服を選んで頂きたいので、これから衣裳室まで来ていただけないでしょうか」


『れ、礼服……?』


 こちらの意見を聞いているようで実際は異論を認めないメイドの言葉に、マスタノート家の三人は顔をひきつらせる。


「え? あの、どうかしたのですか?」


「礼服は苦手だ。動き辛くて、窮屈で、どうにも性に合わん」


「俺とアリスンに至っては礼服なんて生まれて一度も着たことがない」


「鎧だったら普段着のように着ているのだけどね」


 リリアが聞くとアストライア、アルハレム、アリスンが答え、そんなマスタノート家の親子の言葉に今度はサキュバスの魔女は顔をひきつらせる。


「……貴方達、本当に貴族ですか?」


「にゃはは♪ ギルシュの蛮族、マスタノート家の本領発揮でござるな♪」


 リリアの呻くような言葉にツクモが楽しそうに笑った。

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