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第八十六話

 ローレン・ペルシド・ギルシュと名乗った男性を見て思った最初の印象は「物語の王子様」であった。


 年齢はアルハレムと同じぐらいだろう。髪は輝くような銀色で瞳は宝石のような紫色。上等な仕立ての服を身にまとって優雅に椅子に座り、爽やかな笑顔を浮かべているその姿は、まさに物語に登場する王子そのものである。


 しかしよく見ると顔や手には無数の小さな傷が見え、身に付けている服や装飾品も上等なものではあるが動きを阻害しない実用的なものばかりだ。これだけで彼が旅なれた人物だと分かり、ただの王族ではないのは明らかであった。


「あ、貴方がローレン皇子……? あっ!? 失礼しました。マスタノート辺境伯の長男、アルハレム・マスタノートといいます」


「その妹のアリスン・マスタノートです」


「アルハレム様に従うサキュバスの魔女、リリアと申します。そしてこちらの無口なラミアが同じくアルハレム様に従う魔女、レイアです」


「………」


「ルル、言う。種族、グール。アル、ハレム、我が夫」


「ツクモにござる。ローレン皇子とは以前にも何度かアストライア殿と一緒に顔を会わせたでござるが、今のツクモさんはここにいるアルハレム殿の僕なので、改めて自己紹介をさせてもらうでござる」


「ヒスイです。つい最近に旦那様……アルハレム様の僕となりました」


 アルハレムがまだ名乗っていないこと気づいて慌てて自己紹介をすると、仲間達も彼に続いて自己紹介をする。


「うん、知っている。マスタノート辺境伯から君の勇者の推薦文と一緒に報告書が送られてきたからね。まあ、立ち話もなんだし、座りなよ。そちらの皆もね」


 部屋には人数分の椅子が用意されていて、アルハレム達が椅子に座るとローレンが口を開いた。


「何だか騙し討ちみたいな形になってすまなかったね。父上がマスタノート辺境伯と話があるらしいと聞いて、それだったら僕も一足先に君達と話をしてみたいと思ったんだ。メアリもご苦労様」


「いえ」


 ローレンはアルハレム達に謝罪をすると、次にアルハレム達をこの部屋に案内した女騎士に労い、女騎士は小さく頭を下げて答える。


「彼女は?」


「メアリはこの城の騎士ではなく僕の仲間だよ。そしてそれはここにいる彼女達全員もそうだよ」


 アルハレムはローレンの言葉を聞いて、彼には戦乙女が何人も付き従っている話を思い出す。つまりここにいる女性達は全員戦乙女ということだ。


「君だって僕の噂は知っているだろ?」


「え? ええ……それは、まあ……」


 面白そうに訊ねるローレンにアルハレムは言葉を濁して答える。すると……、


「ローレン皇子の噂ですか? ええ、アルハレム様から聞いてますよ」


「………」


「変わり、者、の、皇子、聞いた」


「何人もの戦乙女を引き連れたハーレム勇者と言っていたでござるな」


「え? 好色皇子とも言ってませんでした?」


 リリア、レイア、ルル、ツクモ、ヒスイが以前アルハレムが言っていたローレンの噂を言う。


「ちょっ!? お前ら!?」


「……!?」


 リリア達の言葉にアルハレムが顔を青ざめて叫ぶ。アリスンにいたっては驚きで何も言えないといった表情で五人の魔女を見ていた。


 それはそうだろう。いくらリリア達が人間の階級なんか関係ない魔女といえど、一国の王子に今のようなことを言えば不敬罪にされても文句はおかしくはない。


 部屋にいる戦乙女達はある者は苦笑し、ある者は不快げにアルハレム達を見る。そして言われた当人であるローレンはというと……、


「はははっ! うん、そうだよ。僕がハーレム勇者で好色皇子のローレンです。よろしく」


 と、大声で笑ってからリリア達五人の魔女にふざけた挨拶をした。そんなローレンの態度にアルハレムとアリスンの兄妹は呆然とする。


『………』


「ふふっ。二人とも何を驚いているんだい? 僕がその二つの名前で呼ばれているのは知っているから今更怒ったりしないよ。それに……」


 そこまで言ってローレンはリリア達五人の魔女を意味ありげに見てからアルハレムに視線を向ける。


「君も勇者になったら絶対に僕と同じ『ハーレム勇者』と呼ばれるようになると思うよ。なんたってそんな美人の魔女達を仲間にしているんだからね」


「はは……。そうですね」


 ローレンの言葉には自分もそうなりそうな予感がして、アルハレムは苦笑いを浮かべて頷く。


「それよりもアルハレム君? 僕、自分と同年代の冒険者と会うのは君が初めてなんだ。よかったらどうして冒険者になって、今までどんな旅をしてきたか聞かせてもらえないかな」


「ええ、いいですよ」


 どうやらローレンはかなり好奇心が強いようで、アルハレムは今まで自分がどのような旅をしてきたのかを、同じ冒険者で勇者の先輩になるかもしれない皇子に語って聞かせるのだった。

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