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第七十七話

「それじゃあアルは王都に行くのか?」


「ああ、そうみたいだ」


 書斎でのアストライアとの会話を終えたアルハレムは今、自室でライブと話していた。話している内容は、ついさっきまで母親達としていた勇者への推薦の話である。


「そうみたいだって……。アルが勇者になるなんて実感がわかないな……あっ、すみません」


 ライブは染々と言うとメイド服を着用したツクモの部下である猫又の魔女、タマから紅茶をいれたカップを受け取って彼女に礼を言った。ちなみに彼の両隣には、タマだけでなく同じくメイド服を着用した猫又の魔女のミケが控えている。


 ライブがこの城に滞在する時は、必ずこの猫又の魔女二人が彼の世話をしている。当然それは自他ともに認める獣娘を愛する若き伯爵様の強い要望からなのだが、今日に限って言えばアルハレムからの要望でもあった。


 何せライブは獣娘である猫又のタマとミケが側にいれば常に機嫌が良く、今朝のようにツクモと関係を持った件で発狂してアルハレムに切りかかってこないからだ。二人の猫又もその事を理解しているため、いつも以上にライブに愛想を振り撒いていた。


「俺だって自分が勇者ってガラじゃないと思っているよ。……でもこれは母さん、マスタノート辺境伯直々の命令だし、これのこともあるからな」


 そこまで言うとアルハレムは机に置いてあったクエストブックを手に取って開き、そこに記されている文章に目を通す。


【クエストそのはち。

 くにのおうさまとあって、おはなししてください。

 くにでいちばんえらいおうさまとおはなしすると、おともだちにじまんできますよー。

 それじゃー、あとはちじゅうななにちのあいだにガンバってくださいね♪】


「このクエストを達成するには勇者の推薦の話を受けるしかないからな。……それにしても何で俺の行き先や行動を先回りしたクエストばかり出すんだろうな?」


 クエストブックに記されたクエストの文章を読んでからアルハレムは以前からの疑問を口にする。


 一度や二度だけなら単なる偶然だと思ったが、こう何度も自分の未来を見通したようなクエストが記されたら偶然とは思えなかった。


「これは聞いた話でござるが、クエストブックは所有者の願いや資質、それに所有者がおかれた状況に応じてクエストを記すらしいでござるよ」


 アルハレムの疑問に彼の後ろに立っていたツクモが答える。


「所有者の願いや資質……それにおかれている状況?」


「そうでござる。そして国が冒険者を勇者として擁したい理由もこの辺りにあるようでござるよ? 国家公認となればその冒険者と国との関係も強くなり、クエストブックのクエストも国に関係するものが出やすくなるらしいでござるからな」


 アルハレムとライブはツクモの言葉を何となくだが理解した。


クエストブックは所有者の願いや資質、それに所有者がおかれた状況に応じてクエストを記す。


 このツクモの言葉が正しいのであれば、今までアルハレムのその時の状況に相応しい内容のクエストが記されていたのも納得できるし、もしアルハレムが勇者になれば国が抱える問題を解決するクエストが記されることもありえるだろう。


 冒険者が勇者になることで得られる国の利益が思ったよりも大きいことにライブはため息をついた。


「なるほど……。まさに国を救う勇者ってわけか。それだったらアルは間違いなく勇者にされるだろうな。……それで? いつ王都に出発するんだ?」


「三日後に出発の予定だ」


「三日後か……。俺は明日に自分の領地に返るつもりだ。ここを離れるのは正直辛いけど、いつまでも領地を留守にするわけにはいかないからな。……王都から帰ってくる時は、また皆で俺の屋敷に寄ってくれよな。歓迎するぜ」


「ああ、勿論寄らせてもらうよ」


 そう言うとアルハレムとライブは互いに右手を差し出して握手を交わすのだった。

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