第七十六話
「か、母さん? 俺を勇者に推薦するって、本気?」
「アストライア殿は本気にござるよ」
アルハレムの言葉にアストライアではなくツクモが答える。
「それにアルハレム殿はギルシュの名門貴族マスタノート家の人間。それが冒険者になればこのような展開になることは少しぐらいは予想していたでござろう?」
「いや、それは流石に……」
「あの、アルハレム様? 勇者というのは一体何ですか?」
ツクモと話すアルハレムに「勇者」がどんなものか知らないリリアが訊ねる。彼女だけでなくレイア、ルル、ヒスイも首をかしげており、魔物使いの青年は魔女達に勇者について説明をする。
「あ、ああ。勇者っていうのは簡単に言うと『国家公認の冒険者』のことだ。クエストブックに記されるクエストは、数を重ねるごとに内容が厳しくなって規模も大きくなる。国家公認の冒険者である勇者は、このクエストの攻略を国に支援してもらう代わりに、クエストを攻略した時に国の名前を宣伝するんだ」
「優秀な冒険者は戦乙女に勝るとも劣らない優秀な戦士でもあるでござるからな。勇者が活躍すればするほど、その勇者を擁する国は名声を得ると同時に他国に自国の戦力をアピールできるでござる。……まあ、要するに国の顔役みたいなものでござる」
アルハレムの説明をツクモが補足し、勇者の役割を知ったリリアは、瞳を輝かせて自分の主を見た。
「国の顔役である勇者……! 素晴らしいではないですか! まさにアルハレム様に相応しい肩書きではありませんか!」
「いや、あのな? 俺は別に勇者にはなりたくないんだけど……」
「……ふぅ。落ち着くでござるよ、リリア。国家公認の冒険者と言っても、いいことばかりじゃないでござるよ」
瞳を輝かせるリリアにアルハレムはあまり乗り気じゃなさそうに答え、ツクモがため息をついてから口を開いた。
「確かに勇者と国に認められた冒険者はその国から様々な支援を受けられるでござる。国から旅費も提供されるし、大きな戦闘があるときは自国の城や砦から兵士を借りることもできる。他にも例えば、勝手に他人の家に上がり込んでタンスや壺の中を漁って、そこに隠されていたお父さんお母さんのヘソクリをネコババしても勇者の支援要請という名目で許されるでござる」
「……最後、の、例え、何?」
ルルが半眼になってツクモの説明に突っ込みを入れるが、猫又の魔女はそれを無視して説明を続ける。
「だが、勇者になって悪い点もあるでござる。まず国家公認ということは国の兵士と同じ扱いなので、国同士の戦いが起こればこれに参加しなくてはならない点。これは勇者の仲間も例外ではなく、アルハレム殿が勇者になれば、その僕であるツクモさん達も戦いに参加しなくてはならんでござる。
他にも戦い以外でも国からの要請が来たらそれを受けないとならんでござるし、何より厄介なのが勇者になればまず間違いなく国の権力争いに巻き込まれる点でござるよ。
このギルシュ……というかほとんどの国では、勇者には次期国王を決める会議に参加できる資格が与えられるので、勇者になればそれだけで自国だけでなく他国からも権力争いの波が押し寄せてくるのでござる」
「何だか大変そうなんですね。勇者って」
ツクモの説明を聞いてヒスイが感想を漏らす。先程までアルハレムが勇者に推薦されたことを喜んでいたリリアも、勇者という肩書きについてくる厄介ごとに渋い顔をしていた。
「さようでござる。いくら利点はあると言っても、それだったらただの冒険者の方がよっぽど気楽でござるよ」
「そうだな。俺もリリア達を国の戦いになんて巻き込みたくはない。……でも、これはもう決まったことなんだよね? 母さん?」
猫又の魔女に魔物使いの青年が頷いてから自分の母親を見ると、母親は重々しく頷いてから答える。
「そうだ。これはマスタノート辺境伯としての命令だ。アルハレムを勇者に推薦する為、お前達には私と共に王都まで行ってもらう。これに変更はない」
これがアストライアがギルシュの名門貴族の当主として出した結論であり、彼女の息子であり部下であるアルハレムにはこの決定に異議を唱えることはできなかった。
作者は○ラクエⅨまでしかやっていませんが、ド○クエⅠからⅨの主人公達って皆、何らかの形で王族にコネがありますよね?
その事からこの「勇者」の設定を考えました。




