第七十四話
「……うう、つ、疲れた。体がガタガタだ……」
城塞都市マスタノート全体で宴が行われた次の日の朝。目を覚ましたばかりのアルハレムの口から出たのは、疲れをにじませたため息だった。
普通、眠りから覚めた直後ならもう少し顔に活力があるはずなのに、アルハレムは精も根も尽き果てたといった顔をしていて、気を抜けばもう一度眠りについてしまいそうに見えた。
「……はぁ、昨日は本当に酷い目にあった」
アルハレムはもう一度ため息をつくと周囲に視線を向け、自分が朝からここまで疲れることになった「原因」達を見た。彼のベッドの上には彼の他にリリア、レイア、ルル、ツクモ、ヒスイの五人の魔女達が全員裸で横になっていて幸せそうな寝顔を浮かべていた。
昨晩、ツクモの頼みを聞いて彼女を仲間にしたアルハレムはそのまま彼女、それと一緒に部屋に来ていたヒスイを加えた三人で肌を重ねることになった。それが宴から帰ってきたリリア、レイア、ルルにばれてしまい、彼の部屋は魔物すらも逃げ出す修羅場と化してしまったのだ。
除け者にされたリリア達三人の魔女は「抜け駆けは許さない」と自分達もアルハレムに襲いかかり、結局その夜は魔女五人を交えた大乱行となって彼女達が満足して眠りについたのは、日が昇るのと同時刻だった。
「………む? おはようでござる、アルハレム殿。昨日あれだけしたのに一番早く起きるとは元気でござるな」
もう一度寝ようかとアルハレムが本気で考えていると、目を覚ましたツクモが挨拶してきたので苦笑を浮かべて答えた。
「おはようございます、ツクモさん。……でも元気じゃないですよ。今にも倒れそう。すみませんけど、煙管を取ってくれませんか?」
「ういうい」
ツクモはベッドのすぐそばの机にある煙管を取るとそれに火をつけてからアルハレムに渡した。
今ツクモが渡した煙管には猫又一族秘伝の薬草が仕込まれていて、少し時間がかかるが生命力を回復させる効果がある。
魔女と肌を重ねるという行為には大量の生命力を吸い取られるという危険があり、いくら固有特性で常人の数倍の生命力を持つアルハレムでもリリア達数人の魔女と何度も肌を重ねるのは不可能で、薬草の煙管はもはや彼にとってなくてはならない存在となっていた。
「ふふ……。少しずつ煙管を吸う姿が似合ってきたでござるな」
煙管の煙を吸って生命力を回復させているアルハレムを眺めながらツクモが微笑みながら言う。
「それはまあ、一日に何度も吸っていればね……。この煙管には本当に助かっています」
「うむうむ。そこまでその煙管を気に入ってくれたのなら、ツクモも嬉しいでござるよ♪ ……では、その煙管を譲った『お礼』を頂戴しても構わないでござるね」
「………え?」
ツクモの言葉に嫌な予感を覚えてアルハレムが彼女を見ると、猫又の魔女は妖艶な笑みを浮かべて四つん這いで、乳房を揺らしながら近づいてくる。
「つ、ツクモさん?」
「にゃふふ♪ もうそろそろ一回くらいなら交われるくらい回復したでござろう? 安心するでござるよ、アルハレム殿。猫又一族に伝わる秘技で、皆が起きる前に終わらせるでござるから……」
「待ちなさい」
猫又の魔女の言葉を氷のように冷たい言葉が遮った。
「り、リリア……」
「あちゃー、もう起きたでござるか。間が悪いでござるな」
言葉の主はリリアだった。サキュバスは視線だけで人を殺せそうな目をツクモに向けながら口を開く。
「眠っている仲間の隣で朝から主と肌を重ねる……そんなピンク色の展開はサキュバスである私がやることです! 何、私の役割を奪おうとしているのですか!」
ベッドの上で立ち上がると全裸のままで仁王立ちになって叫ぶリリア。そんな彼女の怒声によって他の魔女達も目を覚ましだし、アルハレムは朝から修羅場が展開されそうな予感に、煙と共にため息を吐くのだった。




