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第七十話

 霊亀の魔女、ヒスイを解放した後の森はツクモの言ったとおり、ダンジョンとしての機能を失ってただの森になっていた。


 新しくヒスイを仲間に加えたアルハレム達は、森を抜けて外で皆を待っていたアストライアと合流をすると、城塞都市マスタロードへと帰還した。そしてマスタロードに帰還するとアストライアは、魔物を生み出す森の秘密を住民達に打ち明けると同時に、もう森から魔物が生み出されることはないことを説明するのだった。


 領主アストライアから魔物を生み出す森についての説明があったその日。城塞都市マスタロードでは大きな宴が開かれた。


 もうこれからは魔物を生み出す森から魔物が現れることはなく、魔物による被害も完全ではないが大きく減るだろう。


 隣国エルージョとの交易も以前よりずっと安全に行われて、この土地は更に発展するだろう。


 これらの予感にマスタロードの住民達、そしてそこに立ち寄った商人は大いに喜んで宴は街中で夜遅くまで行われたのだった。


 ☆★☆★


「……ふぅ、流石に疲れたな」


 夜遅くに自室に戻ったアルハレムはベッドに腰掛けるとため息をついた。つい先程までリリア達と一緒に宴に参加していたのだが、疲れを感じたために一人抜け出して帰ってきたのだった。


「リリア達、楽しんでるだろうな」


 アルハレムが窓の外を見ると、街の方からはまだ灯りの光があって宴を楽しむ住民達の声が聞こえてくるようだった。


 リリア達は魔物を生み出す森で戦いに協力したことから兵士達から受け入れられ、その話を聞いた住民達からも受け入れられるようになっていた。今頃は宴の席で兵士と住民達に混じって酒でも飲んでいるだろう。


 それでいいとアルハレムは思う。


 魔女は魔物の中でも特に強力な存在であるため人間から警戒されているが、この自分が生まれ育った地にいる時ぐらいは、リリア達にそんな不快な思いはしてほしくないというのが正直な気持ちだった。


 アルハレムがそんなことを考えていると、部屋のドアを軽くノックする音が聞こえてきた。


「はい。どうぞ」


「失礼するでござるよ。アルハレム殿」


「だ、旦那様。し、失礼します」


 部屋に入ってきたのはツクモとヒスイだった。


 ツクモは森にいた時と同じ敬称でアルハレムの名前を呼び、ヒスイはどこか緊張した様子で挨拶をする。


 ヒスイはともかく、十年前に初めて会った時からツクモに「アル」と愛称で呼ばれてきたアルハレムは、猫又の魔女の言葉に違和感を感じずにはいられなかった。


「……あの、ツクモさん、その呼び方何とかなりません? 何だか調子が狂うんですけど」


 アルハレムが頬をかきながら困ったように言うが、ツクモはそれに小さく笑って首を横に振った。


「それは無理な相談でござる。猫又一族の悲願達成の恩人を愛称で呼び捨てるだなんてできんでござるからな。まあ、こればかりは馴れてもらうしかないでござるな」


「そうですか……。それで? 一体何の用ですか?」


「うむ。実はでござるな……」


「え? ……なっ!?」


 ツクモが突然自分の服を脱ぎ始め、アルハレムが止める間もなく服は床に落ちる。


 窓から入ってくる街の明かりが、まさに猫のようなしなやかと女性の柔らかさが同居したツクモの裸体を照らした。


「つ、ツクモさん!? 何でいきなり脱ぐんですか……!?」


「アルハレム殿。こちらを見てほしいでござる」


 服を脱いだツクモにアルハレムはとっさに顔をそらすが、声をかけられてゆっくりと彼女の方を見ると、猫又の魔女は裸のまま手と頭を床につけた土下座の体勢になっていた。


「ツク……!? え、はい? な、何を……?」


「恩人である貴方に重ねてお願いするのは心苦しいでござるが、それでもお願いがあるでござる。……アルハレム殿、どうかこのツクモも貴方の僕の末席に加えてはもらえぬでござろうか」


「…………………………………どういうこと?」


 あまりにも突然すぎる展開の連続。全く状況を理解できないアルハレムはそう言うことしかできなかった。

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