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第六十四話

「………」


『………』


 アイリーンが無言で石の巨人を指を指すと、それだけで意思が伝わったようで他の五人が頷き、次の瞬間にはアイリーンとリリア達六人全員が輝力で身体能力を強化して駆け出した。


『…………………………ッッッ!』


 まずは数体いる石の巨人の一体。アルハレムを殴り飛ばした巨人にアイリーン、リリア、レイア、ルル、アリスンの五人が一斉に攻撃を仕掛ける。


 アイリーンの双剣の連撃が石の巨人の右足を細切れにする。


 レイアの下半身である蛇の胴体が巨人の左足に絡み付いて絞め砕く。


 リリアの翼が断頭台の刃のように巨大に、鋭くなって両足を失った巨人の胴体を、地面に激突する前に二つに斬り分けた。


 ルルが刀身に風を纏わせた大剣、轟風剣を二つに斬り分けられて地面に倒れた巨人の胴体の左半分に降り下ろし粉砕する。


 アリスンは輝力で自分のハルバードを巨大化させてから勢いよく振るい、残った巨人の胴体の右半分を跡形もなく打ち砕く。


 ここまでにかかった時間はわずか数秒。


 今までこのダンジョンで見た中で特に強そうな魔物を十秒もかからずに倒したというのに、アイリーンとリリア達はその事に何の興味も抱かず、無表情のままで静かな怒りに燃える瞳で他の石の巨人を見回した。


「うわっちゃ~。アイリーン達、マジギレしているでござるな……。兵士達全員怯えているでござるよ。……そう言うツクモさんも実は結構怖かったり」


 石の巨人に向けて怒りと憎悪を乗せた刃を振るうアイリーンとリリア達の姿に、兵士達は全員恐怖で体を震わせており、ツクモも冷や汗を流していると彼女の元に一人攻撃に参加していなかったアルテアが近づいてきた。


「アルテアでござるか?」


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


 見ている者を安心させるような笑みを浮かべるアルテア。アイリーンとリリア達が怒り狂っている中で一人だけ冷静でいる彼女にツクモは心から安堵するのだが、


「頼むでござる。ツクモさんは今から皆の援護に……」


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


「え? ああ、分かったでござ……」


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


「いや、だから……分かったと言ったで……?」


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


「ええっと……」


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


「……」


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


 先程から同じ言葉ばかりを繰り返すアルテアにツクモは言い知れぬ不安を覚える。アルテアの顔を見てみると、彼女はさっきと同じ見ている者を安心させるような笑みを浮かべているが、その目は全く笑っておらずアルハレムしか映していなかった。


 ……どうやら冷静に見えたのは表面だけで、実際は全く冷静ではなかったようだ。


 アルテアの笑顔は「慈悲の聖女」の称号に違わぬ美しくて優しいものであった。しかしそれ故に何の感情もない目でそんな笑顔を浮かべる彼女が恐ろしく見えた。


「アルハレムを渡して。私が治療するわ」


「……」


 実力なら圧倒的に上のはずの猫又もアルテアの笑顔に思わず背筋が寒くなり、驚きと恐怖で硬直したアルハレムを彼の姉にそっと渡した。


「……! ……!?」


 バッ!


 一瞬アルハレムが抵抗したような気がしたが、確かめる間もなくアルテアの両腕が弟の体に絡み付いて、ツクモから奪い取るように引き寄せる。


 そのままアルテアが自分の固有特性でアルハレムの治療を始めたのを確認すると、ツクモはアイリーンとリリア達の援護に向かうべく駆け出した。


(ツクモさんの今できる仕事はただ一つ。アイリーン達の援護をして、あの石の巨人を一体でも多く倒すことでござる。だからこれは逃げじゃないでござる! 決してアルテアが怖かったわけじゃないでござるからな、アル!)

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