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第六十三話

 話は少し前まで遡る。


 ダンジョンの防衛機能によってアイリーンやリリア達とはぐれてしまったアルハレム達は、霊亀が囚われているエルフ族の廃墟を目指してダンジョンの奥へと進んでいた。


「……はい。ええ、そうです。……えっ!? 本当ですか?」


 兵士達の先頭を進むアルハレムは歩きながら虚空を見つめて一人呟いていた。その顔色は悪く、何かを心配するような表情を浮かべている。


「……そうですね。俺もそう思います。……俺達はダンジョンの奥へと進んでいます。……ええ、お願いします」


「アストライア殿からの連絡でござるか?」


「……はい」


 先程のアルハレムの呟きは、固有特性で連絡を取ってきたアストライアと会話をしていたもので、ツクモに答えたアルハレムは暗い顔となってうつむく。


「アル? どうしたでござるか?」


「それが……母さんからの話だと、姉さん達と連絡が取れないそうなんです」


「アイリーン達と?」


「はい。あの移動する大樹に弾き飛ばされて気絶しただけならいいんですけど、もしかしたら連絡が取りたくても取れない状況にいるのかも……うわっ!?」


 ぺろっ☆


 暗い顔のまま最悪の状況を口にしようとするアルハレムの頬をツクモが少し舐める。


「つ、ツクモさん!? 一体何をするんですか!?」


「落ち着くでござるよ、アル。あのアイリーン達がそう簡単にやられるはずがないでござろう? それにこの程度のことで何赤くなっているでござるか? アルはリリア達と毎晩これ以上に凄いことしているでござらんか?」


「そ、それはその……っ!?」


「くたばれぇ!」


 顔を赤くしてツクモに何かを言おうとしたアルハレムだったが、殺気を感じて後ろに飛び退くと先程まで自分がいた場所に何かが勢いよく降り下ろされた。


「危なっ!? 一体何が……って!? 何をするんだよ、ライブ!?」


 アルハレムに向けて降り下ろされたのは、ライブの剣だった。流石に剣は鞘に収まっていたが、先程感じた殺気は間違いなく本物だった。


「……ちっ。すまなかったな、アル。ツクモさんにキスをされたのがあまりにも妬ましくてつい攻撃してしまったよ」


 さわやか笑顔を浮かべてアルハレムに謝るライブ。だがその額には青筋を浮かんでおり、聞き間違いでなければ謝る前に舌打ちをしたような気もする。


「つい、じゃないだろ! つい、じゃ! 当たったどうするんだよ!?」


「ちなみにアルを妬んでいるのは俺だけじゃないぞ」


「……え?」


『…………………………』


 ライブの言葉にアルハレムが周りを見ると、後について来ていた兵士達が人を殺せそうな嫉妬の視線をこちらに向けていた。


「にゃはは♪ アルってば人気者でござるな♪」


「いや……こんな人気はいりませんよ。……って、あれは?」


「どうやら森を抜けたようでござるな」


 アルハレムがツクモと話している間に森を抜けたようで、アルハレム達の一行はエルフ族の廃墟へと辿り着いた。そこは朽ちた木造の家屋がいくつも並んでいて、人間の村の景色によく似ていた。


「エルフ族の廃墟……。こうしてみると結構普通ですね」


「元々がエルフ族の村でござるからな。……ほら、あそこが目的地でござる」


 周囲を見回しながら言うアルハレムにツクモが向こうを指差す。指差した先には石造りの神殿らしき建物が見えた。


「あそこが?」


「そうでござる。あの神殿に霊亀が囚われて、このダンジョンの核にされているでござる。だが前にも言ったでござるが、あの神殿の扉を開けるには特別な手順がいるみたいで、ツクモさん達ではお手上げなのでござるよ」


「そしてその特別な手順を知るためにはルルの協力が必要と……。だったら俺達だけが着いてもあまり意味がありませんね」


「そうなのでござるよ。だからここはアイリーン達がやって来るのを待つしかないで……にゃ?」


 そこまで言ったところでツクモは頭の猫耳を動かして近くにあるエルフ族の家屋を見る。すると家屋のいくつかが内部から破壊されて、中から巨大な石の巨人が出現した。


 巨人な石の巨人の一体がツクモに向けて腕を振るうが、猫又の魔女は慌てることなく石の巨人を見る。


「そんな遅い動きでツクモさんを捉えるなんて百年早……にゃ!?」


「ツクモさん! 危ない!」


 石の巨人の攻撃を避けて反撃に移ろうと予定していたツクモだったが、突然誰かに突き飛ばされてしまう。


 ツクモを突き飛ばしたのはアルハレムだった。アルハレムはツクモの代わりに石の巨人の一撃を受けてしまい、吹き飛ばされてしまう。


「ぐわっ!」


「あ、アル!?」


 ツクモは地面に落ちたアルハレムの元に駆けつけると彼を助け起こす。


「アル!? 無事でござるか? 何であんなことをしたでござるか!?」


「い、いや……。ツクモさんが攻撃されそうになっているのを見たら、つい……」


「ばっ!? 馬鹿でござるか、アルは!? ツクモさんがあんな遅い攻撃に当たるはずがないでござろう! アルは全くの庇い損でござる! すぐに手当てを……はっ!?」


 傷が痛むのか弱々しく笑いながら言うアルハレムに、ツクモは顔を赤くして手当てをしようとするが突然後ろから凄まじい殺気を感じた。背後からの殺気に猫又の魔女が振り返ると、そこにはアイリーンとリリア達、はぐれた六人が能面みたいな無表情で地面に倒れるアルハレムを見ていた。


(アイリーン達!? な、なんというタイミングで合流するでござるか!?)


『………………………………』


 アイリーンとリリア達六人の表情からは何の感情も見られなかったが、その代わりに瞳からは激しい怒りが感じられ、まるで嵐の前の静けさのようだった。


 そしてそんな彼女達の顔を見て、その場にいた全員が同時に心の中でこう呟いた。


 オワタ、と。

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