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第五十一話

 その後の話し合いは結局、全員が霊亀の子供を救出することを賛成して、全員の意志を確認したアストライアが一ヶ月の期間で兵や装備等の準備を整えてから魔物を生み出す森を攻略することを決定したのだった。


「……それにしてもあの森にあんな秘密があったなんてな」


 話し合いが終わって自分の部屋に戻ったアルハレムは椅子に座ると一人呟いた。ちなみにリリア、レイア、ルルの三人は城内を見て回っていて、部屋にいるのは彼一人だけであった。


 アルハレムはツクモの話を思い出す。


 今までに何度も魔物を生み出す森に不自然を感じたことがあったし、何故猫又達はマスタノート家に尽力してくれるのか疑問に思ったことがあった。しかし、あのような理由があったとは予想もしなかった。


「魔物を生み出す森が大昔にエルフ族が造ったダンジョンとは……」


 そこまで言うとアルハレムはクエストブックを開いてそこに記された文章に目を通す。


【クエストそのなな。

 おともだちといっしょにダンジョンをこうりゃくしてください。

 ダンジョンのこうりゃくは、ぼうけんしゃのだいごみですからねー。

 それじゃー、あとはちじゅうろくにちのあいだにガンバってくださいね♪】


「ダンジョンなんてどこにあるんだと思っていたけど、まさか自分の家のすぐ近くにあったなんて思わなかったよ」


「ほうほう……。あの森の攻略はアルのクエストブックにも記されてあったのでござるな」


 アルハレムがクエストブックを見ていると、いつの間にか部屋に入ってきていたツクモが彼の背後からクエストブックの文章を覗き込んでいた。


「うわっ!? ツクモさん、いつからここに?」


 驚くアルハレムに答えずにツクモはため息をついた。


「ふむん……。これではツクモさんがここに来た意味はあまりないようでござるな」


「ここに来た意味? ツクモさんは何のために俺の部屋に来たんですか?」


「それは当然、アルに媚を売りに来たのでござる。……こんな風に♪」


 そう言ってツクモはアルハレムの前に回ると、突然床に伏せて彼の右足に両腕を絡ませ、舌を出した顔を近づける。


「ちょっ!? 何をふざけているんですか!」


「ツクモさんは別にふざけていないでござるよ」


 アルハレムは自分の足を舐めようとするツクモに驚いて足を動かそうとするが、猫又の魔女は彼の足を力強く掴んで離そうとせず、真剣な表情となって見上げる。


「………え?」


「アルも充分理解していると思うでござるが、霊亀の子供を救出するにはルルの力が必要不可欠なのでござる。いくらアストライア殿がマスタノート家の力を貸すと約束してくれても、肝心のルルが協力してくれなければ話にならないでござるよ。故にルルに唯一言うことを聞かせられるアルに、例えこの身体を売ってでも協力を約束してもらうのは当然のことでござろう?」


 ルルに協力させることを約束してくれるなら今ここで抱かれてもよいと言うツクモに、アルハレムは赤くなった顔を横に振る。


「そ、そんなことをしなくても俺は絶対に協力しますって。あの森の攻略は母さん、マスタノート家当主の命令と同時にクエストブックに記されたクエストなんだから。それに、俺がツクモさんの頼みを断るはずがないでしょう?」


「……………そうでござったな」


 アルハレムの言葉にツクモは立ち上がると、彼に笑みを向けた。


「驚かせてすまんでござる、アル。その言葉を聞けただけで安心できたでござるよ。……しかし少し残念でござった」


「ざ、残念? 残念ってどういう……なっ!?」


 ツクモはアルハレムの股間に手を当てると、彼の顔に妖艶な笑みを近づけた。


「可愛い弟分のアルがどれだけ立派な『雄』となったか、ツクモさんの身体で確かめられると思ったでござるが……それはまた今度の楽しみにとっておくでござる♪」


 ツクモはアルハレムの耳元でそう囁くとすぐに体を離し、そのまま窓へと歩いていくと振り返ってイタズラが成功した子供のような笑みを見せた。


「それじゃー、アル? 皆への説明、よろしく頼んだでござる♪」


「………え? はっ!?」


 アルハレムはツクモの言葉に首をかしげるが、すぐに鋭い複数の視線を感じて、そちらに顔を向けた。するとそこには……、


「アルハレム様……!」


「………!」


「我が夫……!」


「アル……!」


「お兄様……!」


 リリア、レイア、ルル、ライブ、アリスンの五人が憤怒の表情を浮かべてアルハレムを睨んでいた。


「アル、頑張るでござるよー♪」


「ま、待ってツクモさん!? この状況で置いていかないで!」


『どういうことか説明してもらおうか!』


 ツクモが窓から退散するのと同時に、嫉妬に狂った五人の魔女と人間がアルハレムに迫り、城内に一人の男の悲鳴が響き渡った。

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