第四十九話
「攻略?」
「お母様。私達はあの森の魔物を討伐するのではないのですか? 攻略とはどういうことなのでしょうか?」
「それについてはツクモさんから説明するでござるよ」
アストライアの「攻略」という言葉にアリスンとアルテアが疑問の声をあげるが、それに答えたのは今まで黙って話を聞いていたツクモだった。
「アストライア殿が森を攻略すると言った理由……それはあの森が自然のものではなく、百年以上前にエルフ族が造ったダンジョンだからでござる」
「ダンジョン!? ツクモさん、それはほんとうですか?」
「まことにござる」
初めて聞く事実にアルハレムが驚いて聞くとツクモは頷いて肯定し、アイリーンが冷静な目で彼女を見ながら訊ねる。
「……ツクモ。どういうことなのか聞かせてもらえるか?」
「元よりそのつもりでござる。ただ、説明するにはツクモさん達猫又の一族のことから話さねばならぬので、少し長くなるでござるが」
「獣娘……じゃない、猫又の一族の話!?」
ツクモ達猫又の話と聞いてライブが目を輝かせるが全員が無視して、ツクモも話を始めた。
「ツクモさん達猫又の一族は、外輪大陸の辺境で暮らしていて、大昔から近隣の人間の国に傭兵やら密偵となって腕を売っていたでござる」
魔女は強力な魔物である上、猫又は魔女の中でも特に隠密活動に長けた種族である。それが傭兵もしくは密偵として雇えるというのであれば、確かに人間の権力者は大金を払ってでも猫又を雇うだろう。
「しかし猫又は所詮は魔女……人間にとっての敵である魔物の一種族であるござるからな。いつの日か猫又を滅ぼすか、捕虜にして自分達の便利な駒にしようと考える人間が出てくることは目に見えていたでござる。……そこで猫又の一族はある魔女の一族と契約をしたのでござる」
「魔女、ですか?」
反応を示したリリアにツクモは「左様でござる」と頷いてから話を続ける。
「その魔女の一族は『自分が認めた者以外、決して入れぬ場所』を創りだす変わった力をもっており、猫又の一族はその魔女の一族の世話をする代わりに猫又の一族の隠れ里を造ってもらったのでござる」
魔女の一族との契約によって安全な住処を手に入れた猫又の一族は、仕事の時以外で人前に姿を現すことはなくなり、近隣の人間の国は猫又の一族を「神出鬼没な傭兵一族」と畏怖しているらしい。
「その魔女の一族と猫又の一族は互いにそれなりに平和に暮らしていたでござるが百年以上昔のある日、エルフ族が魔女の一族から生まれたばかりの子供を一人、拐っていったのでござる。エルフ族は拐ってきた魔女の子供を『核』としてダンジョンを造り、自分達はダンジョンの奥地に暮らそうと考えたでござるよ。そしてそのダンジョンこそが……」
「魔物を生み出す森、か……」
「いくら魔女とはいえ、子供を人柱に使うだなんて……不愉快ですね」
「………」
「確か、に、そんな、の、許され、ない」
ツクモの言葉をアイリーンが引き継ぎ、リリアとレイアにルルが不快そうに表情を歪める。
「猫又の一族は拐われた魔女の子供を捜し、このマスタノート領まで辿り着いたでござる。そして当時、この地を治めていた初代マスタノート辺境伯とこう契約をしたのでござるよ。『猫又の一族はマスタノート家の目と耳、そして爪となってこの地の繁栄のために尽力する。その代わり魔物を生み出す森から魔女の子供を救いだす方法を一緒に探し、方法が見つかれば救いだすのに協力してほしい』と」
「そうか、それで……」
ツクモの話を聞いて、この部屋にいるアストライアを除いた人間達が納得の表情となる。
ツクモの言う通り、猫又の一族は代々のマスタノート家の当主を影から支えて力を尽くしてくれた。
自国のだけでなく他国の情報も集め、魔物との戦いとなれば常にマスタノート家当主の隣に立って戦ってくれた。その他にも猫又達はマスタノート家の為に尽力してくれて、マスタノート家の発展は猫又の一族の協力がなければあり得なかっただろう。
しかし何故猫又達はここまでマスタノート家に尽くしてくれるのかと疑問だったのだが、今日のツクモの話を聞いて全て理解できた。
「お前達には黙っていてすまなかったな。だがこれは代々マスタノート家の当主のみが知る秘密だったからな」
「あれ? でもそんな話をしたってことは、魔女の子供を助ける方法が見つかったってこと?」
アストライアが我が子達に謝ると、アリスンがこの話をされた意味に気づく。
「左様でござる。そしてその救いだす方法とは……」
ツクモはそこで言葉を切ると、まずアルハレムを見て次にリリア達三人の魔女を見た。
「え? 俺達?」
アルハレムが自分を指差して訊ねるとツクモが頷き、彼女はアルハレム……ではなくルルを指差した。
「アル。猫又の一族の悲願、あの森から魔女の子供を救いだすにはアルの力、正しくはアルが仲間にしたそこのルルの力が必要なのでござる」




