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第四十話

「アルも水くさいな。自分達だけでマスタノート領に行こうだなんて」


「すまなかったな」


 呆れたように言うライブにアルハレムが苦笑を浮かべて答える。二人がいるのはライブの実家、ビスト家が長期の旅に使用する馬車の中で、馬車の中には彼らの他にリリアとレイア、ルルも乗っている。


 ライブの屋敷を後にしてから三日後。彼らはアルハレムの実家であるマスタノート家が治める領地へと向かっていた。最初はアルハレム達四人で徒歩で向かっていたのだが、途中で旅の支度を整えたライブが馬車に乗って合流してきたのだ。


「昔から友好のあるマスタノート家の人間を徒歩で放り出すことなんかできるわけないだろ? ……いやぁ、それにしてもマスタノート家に行くのも久しぶりだな。……ああ、本当に楽しみだ」


「ライブが楽しみにしているのはツクモさんに会うことだろ? それしてもこれがルルのステータスか」


 アルハレムはにやけながら言うライブに答えると新しく仲間になったルルのステータスを確認して呟いた。



【名前】 ルル

【種族】 グール

【性別】 女

【才能】 0/51

【生命】 290/290

【輝力】 270/270

【筋力】 27

【耐久】 29

【敏捷】 29

【器用】 27

【精神】 23

【特性】 魔女の血統、知識の遺産、教授の才能

【技能】 ☆身体能力強化、☆疾風斬、☆轟風剣、★中級剣術

【称号】 律儀な墓荒らし、アルハレムの従魔



「……今更だけどステータス画面を呼び出せるってことは魔女、魔物も『ステータス強化』をできるってことだよな? 現にリリアは五回も強化をしているし」


「はい♪ その通りです、アルハレム様♪ リリアはこれからも強くなってアルハレム様のお力になりますね♪」


「………?」


「ステー、タス、強化?」


 仲間のステータス画面を見た魔物使いの言葉に、彼の上空に浮かぶサキュバスが笑みを浮かべて答え、左右に座っているラミアとグールが聞きなれぬ言葉に首をかしげる。


 ちなみにこの三人の魔女達の配置は、馬車に乗る前に長時間にわたって彼女達が話し合った末に決めたもので、途中で何度か魔女達の話し合いが熱くなりすぎて殴り合い……というより殺し合いに発展しそうになり、アルハレムとライブがその度に必死に止めたのはまた別の話である。


「ああ、レイアとルルは知らなかったか。ある程度経験と修練を積んだ者は高位の神官だけが使える神術『強化の儀式』を受けることで身体能力を底上げすることができるんだ。それを俺達はステータス強化って呼んでいる。ステータス強化をできる回数は人によって違っていて、何回強化できて強化したのかは、この才能の欄に記されている」


 アルハレムはルルのステータスの「【才能】 0/51」の箇所を指差す。


「右が強化できる回数で、左が強化をした回数。つまりルルは今まで一回もステータス強化をしていなくて、最大で五十一回ステータス強化ができるって意味だ」


 女神イアスが最初に発明した神術と言われている「強化の儀式」の手順は教会の人間が独占しており、大きな教会には強化の儀式を行うための専用の広間がある。修練を積んで更なる力を求める者は、教会に儀式の費用を払うことで強化の儀式を受けて己のステータスを強化するのだ。


「教会が世界中の国と対等であるのもこの強化の儀式によるところが大きいですね。国を守るためには強い兵が必要不可欠。そして強い兵を育てるには強化の儀式を行える教会の協力がいりますからね」


 アルハレムの言葉にライブが続き、教会だけが強化の儀式を行える事実が教会を世界中の国と対等にしていると説明する。すると、



「あら? 強化の儀式でしたら、私も使えますよ?」



 と、魔物使いの頭上からサキュバスが言葉の爆弾を投下した。


「「…………………………………………ハイ?」」


 アルハレムとライブは石のように硬直したあと二人揃ってリリアを見る。


「り、リリア? お前、今、なんて言った? 強化の儀式が……使える?」


「ええ。アルハレム様は以前、私のステータスを確認しましたよね? 確かそこに記されていたはずですけど?」


 そう言うとリリアは自分のステータス画面を呼び出してアルハレムとライブに見せ、二人は彼女のステータス画面の技能の欄に「★強化の儀式」という文字が記されているのを目を丸くして見た。


「ほ、本当だ。本当に強化の儀式って記されている……。アル、お前これを見ていたんじゃなかったのか?」


「いや……、前に見た時はきっと別の効果の技能だと思っていて……。そういえばリリアの父親は大神官を務めていたな」


 アルハレムは自分が仲間にしたサキュバスが、高名なサキュバスと二百年に滅んだ王国の大神官との間に生まれた魔女であったことを思い出す。


「リリア、これは父親から教わったのか?」


「ええ、その通りです♪ あと、さらに言えばこの強化の儀式って実は神術ではないんですよね」


「「…………………………………………ハイ?」」


 リリアはアルハレムに笑顔で答えた直後に二度目の言葉の爆弾を投下し、二人の貴族が再び固まってしまう。


「……神術じゃない? 強化の儀式が? じゃあ強化の儀式って何なんだ?」


 何を言っているのか分からないという表情を浮かべる魔物使いの顔を楽しそうに観察しながらサキュバスは質問に答える。


「はい♪ 強化の儀式の正体は特別な手順が必要なステータス画面の操作方法……いわゆる裏技見たいなものなんですよ♪ 教会は私が生まれる前からこの操作方法を自分達だけの秘密にして、他の人達には『強化の儀式』という神術だと嘘をついて、その結果としてステータス画面もこれを『強化の儀式』と認識してしまったのですよ。ちょっと貸してください」


 リリアは自分のステータス画面を手元に取り戻すと、指を画面に当てて動かす。


「……ええと確か、これをこうして……こうして……あ、でました」


 そう言ってリリアが再び見せた彼女のステータス画面には次のような文章が記されていた。



『リリアの【才能】を上昇させるには、まだ経験点が足りません。再度操作し直してください』



「あら? 一回くらいなら強化できると思ったのですが、まだ経験点が足りなかったみたいですね?」


 首をかしげながら呑気なことを言うサキュバスを余所に、アルハレムとライブはお互い青くなった顔を合わせた。


「あ、アル……? もしかして俺達……さらっと、とんでもないことを知ってしまったんじゃないか?」


「だ、黙っていような? というか言わないでくれよ? 頼むから」


「言えるわけがないだろ……!」


 リリアが今言ったのは外に漏らせば教会の権威を崩しかねない事実だ。もしこれを言おうすればアルハレム達は秘密を守ろうとする教会によって抹殺されるだろう。


 思わないところで教会が何百年と隠し通してきた秘密を知ったアルハレムとライブは、今の会話をここにいる者達だけの秘密にしようと決めた。

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