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第三話

「ここが教会の跡地か……」


 街を出てから数時間後。アルハレムは街の南にある教会の跡地に辿り着いた。


 教会の跡地といってもそこにあるのは、石畳の床とずっと昔に崩れた柱と壁の残骸だけで、前もって教会の跡地と教えられていなければただの廃墟にしか見えないだろう。しかし石畳の床の敷居はかなり広く、昔はここに立派な教会が建っていたのが予想される。


 街で聞いた話によると数日前からここで獣のようなうなり声が聞こえて魔物が出現するかもしれないという話らしい。


「……随分と静かだな」


 辺りを見回してアルハレムが呟く。


 街を出てここに来るまで道では無数の鳥や獣達の気配を感じていたのに、ここに来てから気配を感じなくなった。


 まるで、この教会の跡地にいる「何か」の気配に怯え、野生の獣達が寄り付かないように。


「ここで魔物が現れるって話は本当かもしれないな」


 そこまで言うとアルハレムは腰に差しているロッドを引き抜いてその場で素振りを始める。二度三度とロッドを剣のように勢いよく振って風を切る音を聞くと、彼は素振りを止めてロッドを見ながら呟く。


「ロッド……こういう武器を使うのは初めてだけど、最初は剣のように使えばいいかな?」


 アルハレムが一番得意としている武器は剣である。それなのに何故剣ではなくてロッドを新しい武器として購入したかというと、その理由はクエストブックから得た知識にある。


 クエストブックは最初に開かれた時、所有者に「戦士」や「魔術師」といった冒険者となるのに最低限な力と知識を与える。そしてアルハレムがクエストブックから与えられたのは「魔物使い」の力と知識で、その知識によると魔物使いに最も相応しい武器は鞭であるらしく、彼はこの情報を参考にして鞭に分類される武器であるロッドを購入したのだった。


 素振りを止めた後もアルハレムはロッドを持つ手を何度も持ち直して感触を確かめる。そうしていると彼の脳裏に「ピロロン♪」と軽快な音が聞こえてきた。


「ん? この音って……ステータス」


 脳裏に聞こえてきた音に反応してアルハレムはステータスを呼び出すとそこに記された情報に目を向ける。



【名前】 アルハレム・マスタノート

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【才能】 3/20

【生命】 1230/1230

【輝力】 0/0

【筋力】 26

【耐久】 25

【敏捷】 30

【器用】 30

【精神】 27

【特性】 冒険者の資質、超人的体力

【技能】 ★中級剣術、★中級弓術、★中級馬術、★初級泳術、★契約の儀式、★初級鞭術

【称号】 家族に愛された貴族、冒険者(魔物使い)



「よし。新しく技能に鞭術がついている」


 アルハレムはステータスの技能の欄に昨日にはなかった「初級鞭術」の文字が追加されているのを見て口元に笑みを浮かべる。


 ステータスの技能はその人が技術を習得した証であると同時に、戦闘時に攻撃力や身体能力にわずかだが影響を与える要素でもある。これから魔物と戦うかもしれない時に新たな技能を得られたのは予想外の幸運とも言えた。


「これだったらもし魔物が出てきても……!?」


『……………ヨオォォ!』


 ステータスを見てアルハレムが満足げにうなずいていると何処からか叫び声のような声が聞こえてきた。突然聞こえてきた声に彼は即座に臨戦態勢をとると周囲を見回した。


(何だ今の声は? ここに出るという魔物か? 一体どこにいる?)


 集中力を限界まで高めてどんな小さな異変も見逃さないとばかりに見回すが、魔物はおろか獣の影すら見当たらない。そうしている間にも謎の声は風にのって聞こえてくる。


『………………ノオォ!』『…………………エェ!』


「この声……あそこから聞こえてくる?」


 耳をすまして聞けば謎の声はなんとなくだが女性の声のように聞こえ、やがてアルハレムは声の発信源が石畳の下であることに気付く。


 すでに日は沈みかけており周囲も暗くなっているから分かりづらかったが、一枚の特に損傷が激しい石畳に大きな亀裂ができていて、アルハレムが亀裂の中を覗きこむと奥に大きな空洞があるのが見えた。


「空洞……いや、地下室か? ……とにかく、謎の声の主がこの下にいるのは確かなようだな」


 興味を覚えたアルハレムは羽織っていた毛皮のマントを脱ぐと、石畳をどかす作業にはいる。


 まず石畳の脆そうな箇所をロッドで叩いて砕き欠片を脇に避ける。そしてまた脆そうな箇所をロッドで砕き欠片を脇に避ける。


「これは……少ししんどいな」


 石畳をどかそうとしてから一時間ほど経っただろうか。地道で力がいる作業を何度も繰り返しようやく石畳をどかすと、そこには地下に続く階段が現れた。


「やっと通れる……。それじゃあ、行ってみるか」


 アルハレムは毛皮のマントを羽織り直し荷物からランタンを取り出すと、階段を降りて地下へと入っていった。


 石畳の下はかなり深くまで掘られているようだった。アルハレムが右手にロッド、左手にランタンを持ちながら慎重に階段を降りていくとやがて最下層までつき、そこで彼はあるものを見つけた。


 最初に目に入ったのは地面に刻まれた青白い光を放つ魔方陣。


 次に見えたのは魔方陣の内部にある鳥籠を巨大化したような鋼鉄の檻。


 そして最後に目に映ったのは巨大な鳥籠の中に囚われている一人の少女。


 外見から見た少女の年齢は十六、七歳くらいだろうか。桃色の髪を頭の後ろで縛っていて、魔方陣の光に照らされた肌は健康的な桜色に輝いていた。


 それに何よりも一番特徴的なのは少女の胸だろう。少女の胸には彼女の頭部と同じくらいの大きさの肉の果実が二つ、たわわに実っていた。


「お、女の子? どうしてこんなところに……って、裸ぁ!?」


 アルハレムは鳥籠の中の少女が服らしい服を着ていないことに思わず声を出し、鳥籠の中の少女はそんな彼の言葉にわずかに不機嫌そうな表情を浮かべて反論する。


「ちょっと待ってください。誰が裸ですって? 私の着ている服が見えないのですか?」


「……え?」


 自分の体を指差す鳥籠の中の少女は、何かの動物の皮で作られた帯を首から股間にかけており、乳首等の最低限の箇所を隠していた。……もしかしなくても、この極細の帯が彼女の言う「服」なのだろう。


「……いやいや。それ、裸と変わらないから。むしろ裸より恥ずかし……い……?」


 鳥籠の中の少女に至極まっとうなツッコミをいれようとしたアルハレムだったが、言葉の途中で彼女の身体にある異変に気付く。先程は彼女の胸と肌に目を奪われて気づかなかったが、よく見れば頭の左右には角が一本ずつ生えており、背中には蝙蝠のような翼があった。


「なっ……!?」


「ふふん? 今頃気付いたのですか?」


 自分の角と翼を見て驚くアルハレムにいたずらっ子のような笑みを浮かべる鳥籠の中の少女。


「君は……一体何者なんだ?」


 アルハレムの言葉に鳥籠の中の少女は笑みを深めると、その豊かな胸を揺らしながら優雅なお辞儀をして自己紹介をする。


「初めまして。私の名前はリリア。

 偉大なる『サキュバス』の母マリアスと大神官の父との間に生まれた一人娘。

 ……貴方達が『魔女』と呼ぶ存在です」


「…………………………!?」


 サキュバス、そして魔女。


 鳥籠の中の少女、リリアの口から出た二つ言葉に、アルハレムは驚きのあまり言葉を失った。

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