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第三十八話

 轟風剣。


 ルルは自分が持つ刀身が渦巻く風に包まれた大剣をそう呼んだ。


 グールの種族特性で会得した大剣に宿る知識、疾風斬を編み出した前の持ち主であった戦乙女の技術を元にルルが完成させた、彼女のもう一つの風の剣技。


「この、技、完成、したの、最近。使う、輝力、多い、けど、その分、強力」


 そう言ってルルが風を纏わせた大剣の刃を地面に近づけると、地面は耳障りな音をたてて渦巻く風に削られていく。もしあれで攻撃されたらと考えるとアルハレムの背筋が冷たくなる。


(ど、どうする? ただでさえ武器のリーチでこちらが不利なのに、向こうは疾風斬、轟風剣と輝力を使った剣技で攻めてくる。早目に決着をつけないと俺に勝ち目はないんだが、どうにかして隙を作らないと攻めることすら……うぐっ!?)


 必死でルルに隙を作る方法を考えていたアルハレムの目の奥が再び熱くなるが、今度のは先程の比ではなく目が焼けてしまいそうな熱さだった。


「な、何だ!? こ、こんな、時に……!」


「よく、分から、ないが、隙あり! 覚、悟……!?」


 突然生じた目の熱にアルハレムは、目の前のルルから視線を逸らすことはなかったが、体をふらつかせて構えを解いてしまう。そしてその隙をつこうとしたグールの少女だったが、彼女もまた突然体をふらつかせた。


「な、何? 視界、揺れ、る? 何故、貴方、何人、も、いるの?」


「何を言っているのですか、彼女は? ……もしかしてレイア、貴女の仕業ですか?」


「………♪」


 困惑したルルの言葉に魔法陣の外にいるリリアが首をかしげるが、自分の隣で満足げに笑っているラミアを見てサキュバスの従者は、魔法陣の中で戦っている魔物使いの主とグールの少女に何が起こったのかを理解する。


 魔眼貸与。


 レイアだけが使える固有特性。その効果は文字通り、彼女が使える魔眼系の技能を一定時間だけ他者に貸し与えることである。


(そう言えばレイアは、私が口移しでアルハレム様に輝力を送った直後にアルハレム様とキスをしていましたね。あの時は単に私に対抗していただけと思ってましたが、もしやあれが……?)


 リリアが予想した通り、レイアは戦う直前にアルハレムとキスをした時に自分の持つ魔眼系の技能を彼に貸し与えたのだ。


 レイアが使える魔眼系の技能は全部で三つ。自分と目を合わせた相手を眠らせる「魔眼(眠り)」、体を痺れさせる「魔眼(麻痺)」、幻覚を見せる「魔眼(幻覚)」だ。


 レイアはアルハレムに自分が使える三つの魔眼系の技能を全て貸し与えており、今回彼の目に発現したのは自分と目を合わせた相手に幻覚を見せる「魔眼(幻覚)」だった。


 知らないうちに魔眼を発現させたアルハレムの目を直視したルルは完全に幻覚にとらわれ、今彼女の目にはさっきまで一人だったはずのアルハレムが十人いるように見えているだろう。


「なるほど。これはレイアの仕業……いや、お陰と言うべきか?」


 魔法陣の外にいるリリアの言葉を聞いていたアルハレムは事情を理解すると不敵な笑みを浮かべてルルを見る。


「なあ、ルル?」


「……?」


「お前、さっき俺のことを仲間の力に頼りきった男って言っていたよな? ……まったくその通りだ。俺は仲間の力に頼らないと目の前のグール一人倒せないらしい。

 でもそれでもいい。俺は魔物使いだからな。仲間の力が俺の力だ。

 ……ルル、俺は今からリリアとレイアから分け与えてもらったこの力でお前を倒す」


「……! くっ!」


 自分を倒すと宣言したアルハレムに轟風剣を振るおうとするルルだったが、目を幻覚にとらわれたグールの少女の大剣は魔物使いから左に大きく離れた空間を切るだけに終わる。


「今だ! はぁ!」


「……がっ!? ……ぐ!」


 轟風剣を空振りした時にルルに生じた隙をアルハレムは見逃すことなく、彼女のがら空きの腹部に渾身の力を込めたロッドを叩き込む。いくら輝力で身体能力を強化していても基本は華奢なグールの少女の体は、同じく輝力で身体能力を強化した魔物使いの攻撃が直撃すると、風に吹かれた木の葉のように魔法陣の壁まで飛ばされた。


 魔法陣の壁は外部からの攻撃を完全に防ぐ防壁であると同時に、内部の対戦者の逃走を阻む檻でもある。


 アルハレムの攻撃で吹き飛ばされたルルは魔法陣の壁に強く体を打ちつけると、そのまま地面に倒れてしまう。地面に力なく倒れるグールの少女は誰から見ても戦う力は残っていなかった。


「……俺は、もっと強くなりたい。今のままではまだ弱い。だからルル。我ながら情けない話だけど俺の仲間になってくれ。俺の力になってくれ」


 自分に近づきながらそう言ってくるアルハレムの言葉にルルは、


「る、ルル……負け、た……。敗、者……その……全て、勝者、もの……。よろ、しく、……我が夫」


 それだけを言って、グールの少女は契約の儀式により自分の魂が主となった魔物使いの男と繋がったのを感じてから意識を手放した。

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