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第三十二話

「な、な、な……!」


 ルルによって自分が正義の味方ではなく、正義の味方のふりをしている自分の味方だと断言されたミレイナは、顔を真っ赤にして口をパクパクと動かすことしかできなかった。


「あらら、あのルルって娘、核心をついてしまいましたね。……中々やりますね」


「何を感心しているんだ、リリア? でも……」


 リリアの言う通り、ルルかミレイナに言ったことはアルハレム達も感じていることだった。


 ミレイナは正義のために行動しているのではなく、自分が正義の味方に見えるようにするために行動している。だから行動の指針もすぐに変わってしまうし、周りの人達の迷惑を考えない過激な行動もためらいなく行うことができる。


 もっと以前に周りの人達が注意すればミレイナだってここまでならなかったかもしれない。


 だが悪いことに……と言えばいいか分からないが、ミレイナは幼少の頃から輝力を使える優秀な戦乙女で神官戦士だった。そのため周りの人達は彼女の力を恐れて、領主であるライブは教会との関係が悪化することを避けるために彼女を放置し、その結果として今の「正義の神官戦士ミレイナ」が完成したのだ。


「ルルの言うことも一理ある。ミレイナがああなったのは俺達のせいかもしれないな」


「ああーーーーー!」


 突然、墓石の上に立つミレイナが大声で叫ぶと、涙をためた半泣きの表情でルルを睨む。


「何なのですか、貴女は!? 悪のくせに! 邪悪のくせに! 何で私にそんなことを言うのですか!? 私は正義なのです! ごっこなんかじゃないのです!」


 今まで一度も否定されたことがなかったミレイナは、よっぽどルルの言葉が受け入れられなかったのか、墓石の上で地団駄を踏んで叫ぶ。その姿は癇癪を起こして泣き叫ぶ子供そのものだった。


「……」


 もはや話すことなんてないとばかりにルルは無言で首を小さく横に振り、そんな彼女の態度はミレイナの怒りの炎に油を注ぐこととなる。


「なんとか言うのです! ……もういい! もう嫌なのです!」


 ミレイナの両手に今まで見たことがない大きさの火の玉が現れ、凶悪なまでに強い炎の光が共同墓地を照らす。


「貴女はここで浄火です! 邪悪な魔女である貴女を倒すことで私が正義であることを証明しま……え?」


 自棄になったように叫ぶミレイナの言葉を遮るように共同墓地に強い風が吹いたかと思うと、彼女の左右にある火の玉がそれぞれ二つに裂けていて、空中に消えていく。その光景を見て炎を作り出した神官戦士の少女は呆けたような声を漏らす。


「わ、私の炎が……?」


「その、炎、危険。あの人、達も、危ない。だから、切らせて、もらった」


 呆けた声で疑問を口にするミレイナに答えたのはルルだった。グールの少女はいつの間にか背負っていた大剣を振り下ろした格好で神官戦士の少女を見ていた。


「リリア? ルルは一体何をしたんだ?」


 ミレイナの火の玉が切り裂かれたのはルルの行動によるものだと分かったが、グールの少女が何をしたのか分からなかったアルハレムは横にいるリリアに訊ねる。


「あのルルという娘、輝力を込めた剣を振り下ろすことで風の刃を飛ばして火の玉を切り裂いたようです」


「そう」


 リリアの言葉が聞こえていたルルが頷く。


「ルル達、グール、持ち物の、記憶、自分、のに、できる。この、剣、強い、戦乙女、遺物。今の技、疾風斬。剣、持ち主、だった、戦乙女、得意技」


 グールの種族特性には「知識の遺産」という、手にした物に宿る知識を自分のものにできる、というものがある。


 どうやらルルが今持っている大剣は、元は強い戦乙女の持ち物だったようで、大剣から前の持ち物が使っていた「疾風斬」という斬撃を飛ばす技を習得し、その技でミレイナの火の玉を切り裂いたようだ。


「……ぐっ! よくも私の正義の炎を! いい加減にするのです! 悪は大人しく私に倒され……!」


「黙れ」


 ようやく自分の炎がルルに切り裂かれたと気づいたミレイナは怒声を飛ばそうとするが、その前にグールの少女は勢いよく大剣を振るって斬撃を飛ばす。


「え? きゃああっ!?」


 見えない風の刃はミレイナが立つ墓石にぶつかると、墓石を上に立つ神官戦士の少女ごと吹き飛ばして、完全に虚をつかれた神官戦士の少女は地面に叩きつけられて気を失ってしまった。


「私の、大剣の、元、持ち主、強く、立派な、戦乙女。彼女、だったら、言う。お前、斬る、価値、ない」


 気絶したミレイナにルルは、自分に技を教えてくれた大剣の言葉を代弁した。

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