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第二話

「う……ん?」


 アルハレムが目を覚ますとそこは見知らぬ部屋の中だった。


 ベッドに小さい机と椅子。必要最低限の家具しかない小さい部屋。その部屋でアルハレムはロングコートを羽織った状態のまま、ベッドの上に横になっていた。


「ここは一体……痛っ!?」


 起き上がって周りを見ようとするとアルハレムの腹部に痛みが走り、そしてその痛みがきっかけになって彼はこの部屋に来る前に何があったのか、昨日の出来事を思い出した。


「いたた……。そうだ思い出した。俺は昨日、戦乙女と戦って負けたんだった……」


 昨夜。アニーと名乗る酔っぱらった戦乙女と戦うことになったアルハレムは、輝力を使用した彼女に一撃殴られただけで倒され、数秒間だけだが意識を失ってしまった。


 しかしその直後に街の自警団が現れ、アニーは自警団に所属する戦乙女達に捕まって戦いは終わり、九死に一生を得たアルハレムは痛む身体を引きずってこの宿屋に泊まったのだ。


「まさかあの酔っぱらいが戦乙女だったとは……」


 戦乙女と戦ったことは一度ではない。というよりアルハレムが実家で訓練の相手をしていた妹と腹違いの姉二人が戦乙女だったので、戦乙女の恐ろしさは骨身に染みて理解していた。


 何しろ妹と姉二人との訓練では、相手の動きが速すぎてこちらの剣がかすりもしないし、まぐれで当たっても相手の身体が固すぎて逆にこちらの手が痛くなる。そして相手の剣を一撃でも受ければ身体が木の葉のように吹き飛ばされる。その時のことを思い出すと今もアルハレムの背筋が寒くなる。


 だから戦乙女とはできるだけ揉め事を起こさないでおこうと気をつけていたつもりだったのだが、まさかあんな乱闘騒ぎで戦乙女と戦うはめになるとは思わなかったのだ。


「まあ、戦乙女と喧嘩して五体満足でいられただけでヨシとしよう。……あと、あのアニーって戦乙女とは顔を合わせないように気をつけよう」


 もう殴られたくないし、と小さく呟くとアルハレムは荷物をいれた袋から一冊の本、冒険者の証であるクエストブックを取り出す。


「せっかく冒険者になれたんだからクエストブックの試練に挑戦しないとな」


 開かれたクエストブックは一番上の一ページを除いて全て白紙だった。


 クエストブックは試練を終了させる度に次のクエストが別のページに記される仕組みで、アルハレムは自分の最初の試練が記されているページを見た。



【クエストそのいち。

 だれでもいいから、まもののおともだちをつくること。

 まものつかいなのに、まもののおともだちがだれもいないのはカッコわるいですからねー。

 それじゃー、あとにじゅうきゅうにちのあいだにガンバってください♪】



「……………いつ読んでも気の抜ける文章だな」


 クエストブックには子供が書いたような文字で試練の内容が書かれていて、アルハレムは思わずため息をもらした。


 しかしアルハレムはクエストブックを最初に開いて冒険者になった時に魔物を従える力を与えられた冒険者にして魔物使いであるため、このクエストブックに記された試練は至極もっともといえる。


「魔物を仲間にするのが俺の最初の試練……。早速挑戦したいところだけどその前にやることがあるんだよな」


 そこまで言ってアルハレムは羽織っていたロングコートを脱いで観察する。


 ロングコートは砂ぼこりで汚れている上にボロボロで、背中の箇所には大きな穴が開いている。続いて腰に差している剣を鞘から引き抜くと、剣の刀身の半ばにヒビが入っているのが見えた。


 ロングコートと剣がこのようになったのは、言うまでもなく昨夜のアニーとの戦いが原因である。


「やっぱりな……。試練に挑戦する前に新しい武器と防具をよういしないとな。……はぁ」


 幸いにして旅の資金として多目に持っているが、予想外の出費に二度目のため息を漏らすアルハレムだった。


 ☆★☆★


「よお、兄ちゃん! 昨日は助かったぜ」


「え?」


 街の店を回って新しい武器と防具、それと食糧等を買いそろえたアルハレムは、いざ試練に挑戦せんと街を出ようとしたところで後ろから投げかけられた声に止められる。


 ちなみに今のアルハレムの格好はロングコートの代わりに毛皮のマントを羽織っていて、腰には剣の代わりにロッド(硬鞭)と呼ばれる鉄でできた棒状の武器を差していた。


「貴方は……もしかして昨日の?」


 呼び止めたのは昨夜酔っぱらった戦乙女のアニーに切り殺されそうになり、そこをアルハレムに救われた四十代くらいの男だった。


「おうよ。ようやく見つかった。ずっと兄ちゃんを探していたんだぜ?」


「俺を探していた?」


「ああ。どうしても昨日助けてもらった礼が言いたくてな。それとこれも渡したかったんだ」


 男はアルハレムに礼を言うと、懐から小さな袋を出してそれを彼に渡した。


「礼だなんて別にいいのに……。それにこの袋は一体何です?」


「その袋にはなウチで作った特製の『エールボール』が十個ほど入ってる」


 エールボールとは酒を特殊な製法で小さな丸薬に変えたもので、水で満たした瓶に一粒エールボールを入れるだけで瓶一杯の水を酒に変えることができる。旅先でも気軽に酒が飲めるということで通常の酒よりも値がはるが酒好きの旅人や隊商に売れていたりする。


「ウチはここらじゃ少し名が通っている酒屋でな、味は保証するぜ。命を助けてもらった礼なんだがこれしか渡せるものがなかったんだ」


「いえ、そういうことでしたらありがたくいただきます。ありがとうございます。……そうだ。一つ聞きたいのですけど、この辺りで魔物がよく出る場所ってありますか?」


 アルハレムは男にエールボールの礼を言うと魔物が出現する場所を聞き、男は首をかしげながらも答える。


「魔物がよく出る場所? ……そういえばここから南の方に古い教会の跡地があるんだが、数日前からそこで獣のようなうなり声がするって聞いたな。旅をするならそこには近寄らないほうがいいぜ?」


「南にある教会の跡地ですか……。分かりました。気をつけます」


 男に礼を言うとアルハレムは街の入り口に向かって歩きだした。


 目的地は決まった。目指すのは南の教会跡地。

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