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第二十七話

 応接間に入ってきたのは、長く伸ばした赤毛の髪が特徴的の小柄な少女だった。


 外見の年齢は十五歳くらいで、服装は白い革鎧の上に白いマントを羽織っており、革鎧とマントには丸の中に十文字を描いた女神イアスの聖印が印されていた。


「お、お前は……!?」


「ミレイナ? どうしてここに?」


 赤毛の少女の顔を見てアルハレムが表情を引きつらせ、ライブが先程まで話していた神官戦士の戦乙女の名前を呼んだ。


「ライブ様、突然お邪魔して申し訳ありません。しかし、何やら怪しい人物がこの屋敷に来たと聞いたので、こうして領主であるライブ様をお守りに来ました」


「ま、守る? ミレイナが俺を? というか怪しい人物って?」


 赤毛の少女、ミレイナの言葉にライブは嫌な予感を覚えながらも聞き返す。


「はい。何でもその怪しい人物は男と女の二人組で、男の方は毛皮のマントを羽織った見るからにみすぼらしい姿で、女の方はほとんど裸の帯みたいな衣装を着た卑猥な姿だったそうです」


「男と女の二人組……」


「み、みすぼらしい……」


「卑猥……」


「………」


 ミレイナの話す怪しい人物の目撃情報にライブ、アルハレム、リリア、レイアの順に反応する。


 まず間違いなくミレイナの言う怪しい男女の二人組というのは、アルハレムと人間の姿に変身してリリアの衣装を借りたレイアのことだろう。


 街を歩いている時、確かにアルハレム達は注目の的となっていた。そしてその騒ぎがミレイナの耳に入って今のような事態を招いたことに、アルハレムは頭痛を禁じ得なかった。


「そんな怪しい二人組、ただの旅人のはずがありません。そしてライブ様のお屋敷に訪れたということは、きっとライブ様のお命が狙いのはず。そうに決まっています! ですから女神イアス様に代わってこの地を守護する神官戦士の私がここにやって来ました……て、ああー!?」


 暴走気味に話すミレイナの言葉がいよいよ熱を帯びようとした時、ようやく彼女は応接間にいるアルハレム達に気づいて大声を上げる。


「あ、貴方達!? いつの間に!?」


「いや、いつの間にって最初からいたからな? というかミレイナ、俺のことを覚えていないのか? 俺だよ。マスタノート家のアルハレム。以前にも何回か会ったことがあるだろ?」


 アルハレムが話しかけるがミレイナは全く聞いておらずリリアとレイアを指差す。


「それによく見ればそこにいるのはサキュバスとラミア!? 何で魔女が二人もこんなところに!?」


「ああ、この二人はアルの仲間だ。だから人に危害を与えたりはしな……」


「……そうか! 分かりました!」


 ライブが説明しようとするがやっぱりミレイナは全く聞いておらずリリアとレイア、そしてアルハレムに鋭い視線を向ける。


「服装から見て街で聞いた怪しい人物とは恐らく貴方達のこと……。貴方達! そのサキュバスとラミアの美しい姿を利用してライブ様を誘惑し、この街を乗っ取ろうと考えていますね! そうに決まっています!」


「勝手に決めつけるな!」


「何で私がアルハレム様以外の方に体を許さないといけないんですか!?」


「………!」


「ふざけるな!? リリアさんとレイアさんは獣娘じゃないだろ!? 二人が獣娘みたいな魔女だったらこちらから土下座して頼むけど、そうじゃない限り絶対誘惑なんかされないからな!」


 ミレイナの勝手な決めつけにアルハレム、リリア、レイア、ライブの順に怒りを現すが当然のごとくミレイナは全く聞いておらず、輝力で身体能力を強化して体から青白い光を放つ。


「なんと卑怯! なんと卑劣! なんと卑猥! 貴方達みたいな方はここで『浄火』します!」


 ミレイナが宣言するのと同時に、彼女の両手にそれぞれ一つずつ深紅に燃える火の玉が現れる。


「えっ、いきなりかよ!? ミレイナ、ちょっと落ち着けって!」


「輝力で作った炎!? アルハレム様! お下がりを!」


「………!」


「一ヶ所に固まってくれたのは好都合! さあ! 三人まとめて浄火です!」


 ミレイナの両手に火の玉が現れたのを見てリリアとレイアが庇うようにアルハレムの前に出て、神官戦士の少女はそんな魔物使いと魔女達の三人を一度に焼き尽くそうと火の玉を放つ。


 神官戦士の少女が放った火の玉はアルハレム達に向かって高速で飛んでこのままでは激突するかに思われたが、火の玉はミレイナとアルハレム達との中間の空間で消滅した。


「なっ!? 私の炎が!」


「一体何が……って! ライブ?」


 アルハレム達とミレイナの間にはいつの間にかライブの姿があり、よく見ると彼の右手は手刀の形になって白い湯気みたいなものを発していた。


「ま、まさか戦乙女が輝力で作った炎を手刀の風圧だけで掻き消すだなんて……!」


「………!?」


 火の玉が消える瞬間が見えていたらしいリリアとレイアが驚愕の表情を浮かべるが、魔女ですら驚く芸当をしたライブは全く気にした様子もなくミレイナに人を今から殺す暗殺者のような目を向けていた。


「ら、ライブ様?」


「ミレイナ。お前、今何をしようとした?」


 暗殺者のような目に流石に気圧されたミレイナに、ライブは氷のように冷たい声で話しかける。


「な、何をって……。この三人を浄火しようと炎を放って……」


「そう、お前は今炎を放った。そのせいで危うく俺のお気に入りである絵画『頭上に輝ける猫耳を生やした少女』が焼けそうになり、ついでにアル達も焼け死にそうになった」


 アルハレム達が後ろを見れば、そこにはライブの言った通り頭に猫耳を生やした少女が描かれた絵が壁に飾られていた。


(俺達って、この絵より価値がないのかよ?)


 絵画「頭上に輝ける猫耳を生やした少女」を見ながらそう思ったアルハレムだったが、全身から尋常ではない怒りのオーラを放つライブが怖かったため言わないことにした。


「で、ですが、それは正義のためには仕方がない……」


「ミレイナ」


「ひゃい!?」


 正義のためには仕方がないこと、と言おうとしたミレイナだったが、更に迫力をましたライブの一言により怯えたような声を出して黙りこむ。


「今後一切アルハレムとリリアさん、レイアさんに危害を与えることを禁じる。……いいな?」


「そ、そんな! そんなことは正義に反す… 」


「いいな? そして帰れ」


「は、はいぃ!?」


 ライブの命令に反論しようとするミレイナだが、領主の爆発寸前の怒りがこもった言葉に神官戦士の少女は情けない返事をしながら応接間から逃げ出した。その光景を見てリリアは額に冷や汗を流しながらアルハレムに小声で質問する。


「アルハレム様? あのお方、ライブ様は一体何者なのですか?」


「俺の古くからの友人だ。……多分」


 リリアからの質問にアルハレムはそう答えることしかできなかった。

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