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第二百六十三話

「これは、凄いな……」


 アルハレム達が成鍛寺を訪れた日から丁度一月が経ったある日、魔物使いの青年は山の中腹辺りに建てられた建物を見て呆然と呟く。


「本当に凄いですね……。まさかこんなに立派な建物だとは……」


「………」


「う、ん。これ、は、予想、外に、凄い、出来」


 アルハレムの言葉にリリアとレイア、ルルが頷く。


「にゃ~、何と言うか成鍛寺の本堂よりも立派ではござらんか?」


「と言うよりここって一ヶ月前は何も無い山の中じゃなかった?」


「はい……。私もそうだったと思います」


 感心していいやら呆れていいのか分からないといった表情で言うツクモの横で、アリスンが信じられないといった表情で呟き、それにヒスイが同意する。戦乙女の少女が言う通り、ここは一ヶ月前までは少し開けた何もない場所だったのだが、今では大きな屋敷と言ってもいい建物が建っている上に成鍛寺へと続く山道に繋がる道まで整備されており、それを見れば思わず呆然とするのも無理はないだろう。


「………いい仕事していますね。まるで本職の大工の仕事ですよ」


「ふーん。人間が作ったにしては中々よさそうな所じゃない」


「そうだね。成鍛寺の奴らも中々やるじゃないか」


 自身もダンジョンを作っているため建築に関して詳しいレムが建物の出来栄えを注意深く観察してから言うと、シレーナとウィンがこの建物を建てた者達を褒める。そしてワイバーンのドラゴンメイドの言う通り、この建物は今回の祭りで使用する為にコシュを初めとする成鍛寺の僧侶が建てた舞台であった。


「成鍛寺の僧侶を総動員したとはいえ、これ程の建築物を作るには通常であれば半年から一年以上に建築期間を必要とするはずです。それを一ヶ月で完成させるとは……。これは成鍛寺の僧侶達のデータを更新する必要がありそうですね」


 アルハレムの腰に差してある硬鞭型のインテリジェンスウェポンのアルミが言うと、件の成鍛寺をまとめている住職のコシュが現れた。


「はっはっはっ。そう言っていただけると光栄ですな」


 どうやらアルハレム達の会話を聞いていたらしく、コシュは誇らしげに笑う。しかしその顔にはとても濃い隈があり、やつれていて顔色も悪かった。


「……あ、あのコシュさん? 顔色が悪いようですけど大丈夫ですか? というかちゃんと寝ています?」


 コシュの顔を見たアルハレムが心配して声をかける。


 アルハレム達はこの一ヶ月の間、エルフや隠れ里の猫又と霊亀の一族に祭りの件を伝えた後、成鍛寺の僧侶達が作業に専念できるように山の周囲の魔物を狩っていた。思い返してみればその間中、山からは僧侶達を叱咤するコシュとそれに答える僧侶達の怒声のような声が絶え間無く聞こえてきていた気がする。


「はっはっはっ。御安心なされよアルハレム殿。他の者共は不甲斐なくも全員倒れてしまいましたがこのコシュ、たがだが一ヶ月の不眠不休程度では倒れはしませんぞ」


 笑顔で笑いながらこの一ヶ月、睡眠どころかまともな休憩を取っていないことを何でもないように言うコシュ。普通の人間ならば過労死は間違い無いのだが、生きている上にまだ元気があるように見えるのは、全てアルハレムのクエストを成功させて女神イアスをこの土地に降臨させたいというロリ……もとい、信仰心のなせる技であった。


「む、無理です……」


 アルハレム達がやつれた顔で笑うコシュに思わず一歩引いていると、それまで話さなかった今回の祭りの主役であるメイが震える声で呟いた。どうやら建物の出来栄えから成鍛寺の僧侶達の本気具合を知り、尻込みをしているのが見ただけで分かった。


「……わ、私は罪深い存在です。こんな立派な所で祝ってもらえる立場じゃありません。やっぱり祭りは……」


「メイ」


 コシュ達成鍛寺の僧侶が建てた建物を見ながら言うメイの言葉をアルハレムが彼女の名前を呼ぶことで止める。そして魔物使いの青年は恐る恐るこちらに顔を向ける従者の魔女の目を真剣な表情で見る。


「今更そんな事を言っては駄目だ。悪いと思っているなら尚更真剣に向き合うべきだって、そして今回の祭りはその為の場所だってメイも納得しただろ?」


「……はい」


 アルハレムが一ヶ月前にメイを説得した時の会話をするとメイは俯いて返事をし、それを見て頷いた魔物使いの青年はコシュに向き直ると深く頭を下げた。


「コシュさん。こんな立派な祭りの舞台を作ってもらってありがとうございます。俺達は早速、祭りの舞台が出来たので祭りに来てもらうようにとエルフや猫又と霊亀の一族に伝えてきます」


「おお、それは助かります。アルハレム殿達が伝言をしてくれのでしたら、エルフを始めとする参加者達が集まる時間を考えて十日後には祭りをできるでしょう。それまで拙僧らも準備を進めておきますのでよろしくお願い申します」


「はい」


 コシュの言葉に頷くとアルハレムは仲間達と共にエルフや猫又と霊亀の一族に祭りの参加を呼びかけるべく、彼らの元に向かうことにした。

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