第二百五十九話
「なるほど。そういうことでしたか……」
アルハレムの話を聞いてコシュは、彼が自分に大きな行事をひかえている村がないかを聞いた理由を理解して頷く。
「事情は分かりました。しかし残念ながらこの近くにその様行事の予定がある村はありません」
「そうですか……」
「にゃ~……。あてが外れたでござるな」
コシュの返答にアルハレムとツクモは肩を落とすが、そんな魔物使いの青年達に成鍛寺の住職は笑いながら話しかける。
「はっはっは。皆様、そんなに落ち込まなくてもよろしいと思いますぞ。大きな行事をひかえている村がなければ、ここでその大きな行事を行えばいいではないですか」
「ここで?」
アルハレムがコシュの突然の提案に首をかしげると成鍛寺の住職は「さよう」と言ってから言葉を続ける。
「アルハレム殿のお陰でメイ殿は開祖の兄君にかけられた神術から解放されて自由の身となりました。これは我ら成鍛寺の二百年にも渡る罪が終わったのと同時に、この辺りの魔物が凶暴化する危険が無くなった事を意味しております。ですからこれを祝う為の祭りを行うというのはどうでしょうか?」
「なるほど……」
コシュの提案にアルハレムが頷き、その両隣ではリリアとツクモも納得した表情を浮かべている。
確かに成鍛寺の開祖の兄とエルフの行動が原因であったメイの暴走が解決された事は、コシュを初めとする成鍛寺の僧侶達にとって大いに祝うべき事と言える。更にその当事者であるメイがその祝う為の祭りに参加して友好的に接すれば、成鍛寺の僧侶達も二百年にも渡る開祖の兄が犯した罪が終わった事をより強く認識できるであろうし、彼女も他者と付き合うきっかけを作れるはずだ。
「どうでしょうか、アルハレム殿? 貴方方さえよろしければこれからでも祭りの準備を始めますが?」
「よろしいも何もこちらからお願いします。ありがとうございます、コシュさん。メイには俺の方から参加するように話します」
コシュの言葉にアルハレムは嬉しそうな表情となって頷き、それを見てリリアとツクモも笑みを浮かべて魔物使いの青年に話しかける。
「よかったですねアルハレム様。これでメイさんも少しは他人に慣れてくれるといいですね」
「そうでござるな。クエストブックのクエスト達成の目処も立ったし、ありがたい事ばかりでござる」
サキュバスの魔女と猫又の魔女の言葉に成鍛寺の住職の身体が僅かに動き、それに気づいた魔物使いの青年が首を傾げる。
「コシュさん? どうかしましたか?」
「い、いえ……。実は先程から気になっていたのですが、アルハレム殿は今クエストブックをお持ちなのでしょうか?」
アルハレムに聞かれてコシュは気恥ずかしそうに答えて、それを聞いた魔物使いの青年は納得する。言ってみればこの成鍛寺は、シン国でも特に女神イアスへの信仰心が厚い者達が集まる場所なのだから、そこの住職であるコシュが女神イアスが創造したクエストブックに強い興味を持つのも当然と言えた。
「ええ、持っていますよ。クエストブック」
「おおっ!?」
アルハレムが右手を上げてクエストブックを呼ぶと虚空から一冊の本、クエストブックが現れて魔物使いの青年の右手に収まり、それを見たコシュが驚きの声を上げる。
「読んでみますか?」
「っ! よ、よろしいのですか、アルハレム殿!?」
「はい。構いませんよ」
「で、では失礼をして……」
メイの悩み解決とクエスト達成の手伝いを申し出てくれたコシュにせめてものお礼にとアルハレムがクエストブックを読んでみるか聞くと、成鍛寺の住職は震える手でクエストブックを受け取る。手が震えているのは自らが信じる女神が創造した書物に触れられるという感動によるものであった。
そしてクエストブックを開いたコシュは……。
「………!? ふぉ、ふぉう!!」
……とあるページを目にしたところで突然奇声を上げたのであった。




