第二百五十五話
「メイか……。いや、何でもないよ。おはよう」
「はい。おはようございます」
アルハレムが狐の耳と尻尾の生えた金髪の女性、メイの名前を呼んで挨拶をすると、メイも笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた。
「メイ、それは?」
「これですか? 主様が喉が乾いていると思って冷たい水を用意しました」
「助かるよ」
メイは両手で水が入っている小瓶とコップを載せたお盆を持っていて、アルハレムはコップを受けとると早速水を飲んだ。メイが予想した通り、魔物使いの青年は昨夜九人の魔女達と長時間に渡って肌を重ねていた為に汗などの大量の水分を失っていて、口にした冷たい水はまるで身体中に染み渡るかのように美味しく思えた。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ、お役に立ててよかったです」
(やっぱりいい娘だな、メイは。……こう言っては失礼だけどまだ少し意外だな)
礼を言うアルハレムにメイは笑顔のまま優しい声で答えて、その笑顔を見ながら魔物使いの青年は内心で呟いた。
外見から見て分かるようにメイはヒューマンではなく、寝台の上で眠っているリリア達と同じ魔女である。
そしてメイこそが三日前にアルハレムが契約の儀式で戦って仲間にした、成鍛寺の山に封印されていた魔女であった。
アルハレムと契約をして暴走が治まったメイは非常に穏やかで母性的な性格で、契約の儀式で戦った魔物使いの青年はあの時の彼女と今の彼女が同一人物とはとても思えずにいた。
ちなみに「メイ」とはアルハレムが彼女につけた名前で、契約の儀式の時に全身から輝力の光を放って周囲を照らしていたことから、シン国にある「明り」という文字の別読みを名前にしたのだ。
「メイさん。私にもお水貰えませんか?」
「え?」
「リリア?」
アルハレムがメイの顔を見ながら契約の儀式の時の事を思い出していると、いつの間にか目を覚ましていたリリアが二人の近くに来ていて、サキュバスの魔女は返事を聞く前にメイのお盆に載っている小瓶を手に取って口につけた。
「ん♪ ん♪ ん♪」
「……」
「……」
リリアも喉を渇いていたのか、アルハレムと同様に美味しそうに小瓶の水を飲んでいく。一糸纏わぬ裸体を隠そうともせずに水を飲むリリアの姿は非常に艶かしいが、同時に自然体に見えるのは彼女がサキュバスの魔女であるからだろうか?
その魅力的なサキュバスの魔女の姿に、メイだけでなく彼女の裸体を見慣れているアルハレムも目を離すことは出来なかった。
「あ……」
不意にメイが顔を真っ赤にしながら小さな声を漏らす。
アルハレムが彼女の視線の先を見てみると、水を飲んでいるリリアの口から漏れた一筋の水が彼女の喉元から胸元の谷間を通って下腹部にまで流れており、それが何とも言えない色香を放っていた。
「………!」
(? メイはこういうのには慣れていないのか?)
今のリリアの姿は確かにいつも以上に魅力的ではあるが、魔女であるはずのメイがサキュバスの魔女から目を離せず恥ずかしさのあまり放心状態となっているのは少し大げさのような気がしてアルハレムは内心で首を傾げるのであった。




