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第二百五十三話

「リリア、ありがとう。アリスンも無事な様だな」


 アリスンが気絶したリンを連れて後ろに下がっていく姿を見てアルハレムが胸を撫で下ろす。それに対してリリアによって顔を強打されて気を失っているリンのことは全く心配しておらず、目も向けていないのだがこれは仕方がないだろう。


「アルハレム様! もう……、あまり持ちません!」


 アルハレムが妹の無事に安堵していると、上空でリリアがシレーナと相対しながら悲鳴のような声を上げる。


 見ればリリアは非常に辛そうな表情を浮かべており、彼女だけでなくツクモとヒスイにアルマも、辛そうな表情を浮かべてルルにウィンにレイアを抑えている。その表情は自分達が押さえている相手が手強いだけでなく、自分達が今にも魔女の力で凶暴化してしまいそうなのを表していた。


「これは思ったよりヤバいか……なっ!」


 リリア達の様子を見てアルハレムは魔女が降らせてくる光の線の攻撃を避けながら言う。


 アルハレムの言葉の通り、現在の状況は非常に悪い。これ以上時間をかけてしまいリリア、ツクモ、ヒスイ、アルマの四人まで凶暴化してしまえば取り返しのつかないことになってしまう。


 そうなる前になんとしても契約の儀式を成功させて魔女を仲間にして、魔女の暴走を止めなくてはならなかった。


「やるしかないか……」


 覚悟を決めた表情となったアルハレムはヒスイが作り出した結界の中で暴れているウィンに視線を向けた。


「ウィン、お前の力を使わせてもらうぞ」


 契約の儀式を始める前にアルハレムはリリアから輝力を分けてもらうと同時に自身の固有特性「力の模倣」を使ってウィンの持つ技能の一つをコピーしていて、それを今使う事にした。


「『畏怖を与える視線』」


「………!?」


 呟くのと同時にアルハレムの瞳が怪しく光り、それと同時に魔女が僅かに身じろぎする。


 アルハレムがウィンからコピーした技能はドラゴンに属する魔物が共通して習得するもので、自分が見た相手に強い恐怖の感情を与えるという効果がある。


 視界に入った相手に効果を発揮するという点ではレイアの魔眼と同じように思われるが、魔眼が相手と視線を合わせる必要があるのに対してこの技能「畏怖を与える視線」は視線を向けるだけで効果を発揮する。ただその代わり、使用している間大量の輝力を消費する為、アルハレムも使い時を考えて今まで使うことができなかった。


「……!」


「どうやらこの技能は効果がある様だな」


 アルハレムは自分の視線を受けて後ずさる魔女を見て安心したように呟く。


 契約の儀式を成功させるには魔女に敗北を認めさせて自分から服従するようにさせるしかない。


 そして強い怒りで暴走している魔女に敗北を認めさせるにはどうするべきかとアルハレム達が考えた手段が、ウィンから借りた技能で怒りよりも強い恐怖の感情を魔女に与えるというものであった。


「……………!」


「これは……」


 魔女は叫び声を上げると数本の光の線をアルハレムに向けて降らせる。その攻撃は今までの攻撃よりも勢いがあった。


(なるほど。恐怖を感じたことでその原因である俺を全力で排除しようと思ったわけか)


 攻撃が激しくなった理由を察して納得したアルハレムは、前方に駆けて魔女の攻撃を避けるとそのまま輝力で強化した脚力を活かして魔女に肉薄する。


「……!? ………!」


 光の線を降らせると自分にまで被害が出る距離まで近づかれた魔女は両腕を振り回して暴れるが、アルハレムから見れば隙だらけで何の抵抗にもなっていなかった。


「本当に戦いの素人なんだな!」


「!?」


 でたらめに振り回される魔女の両腕を避けるのは容易いのだが、アルハレムはあえて錫杖を振るって魔女の両腕を叩き返して魔女の恐怖心を煽った。すると相変わらず全身が光に包まれていて表情は分からないのだが魔女が動揺する気配が伝わってきた。


「これで……終わりだ!」


「………! ……!」


 恐怖によって魔女の体が固まり動きが鈍くなった隙をついてアルハレムが体当たりを仕掛けると、魔女は驚くくらいあっさりと地面に倒れ、魔物使いの青年は地面に倒れた魔女の喉元に錫杖の先端を突きつける。


 そこでついにアルハレムが与える恐怖の感情が魔女を支配する怒りの感情を上回り、敗北を認めた魔女の胸元から彼女の魂の一部である光の球が現れて魔物使いの青年の体へと移り、契約の儀式は成功したのだった。

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