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第ニ百五十一話

「………!」


 地面に倒れた魔女は立ち上がろうとするが、アルハレムの一撃で受けたダメージが大きかったのかその動きはひどくゆっくりとしたものであった。


 体を震わせながら立ち上がろうとする魔女を見てアルハレムは考える。


 この契約の儀式であの魔女と契約するには、魔女に「自分ではアルハレムに勝てない」と思わせて支配を受け入れさせる精神状態にしなければならない。しかしこうして直に戦ってみたアルハレムは、魔女が強い怒りの感情によって完全に理性を失った状態で、自分に従うように持っていくのは非常に困難であると理解した。


(まったく……。一体何をしたらここまで恨まれるんだよ?)


 つまりそれだけ魔女が前の主人から受けた怨みが大きいということで、アルハレムは魔女の前の主人である成鍛寺の開祖の兄に思わず心の中で恨みの言葉を吐いた。


「さて、ここからどうしようかな……」


「何をしているのよ!?」


「えっ?」


 眼前の魔女を油断なく観察しながらどうやって契約をしようかとアルハレムが考えていると、そこに聞き覚えのある女性の怒声が聞こえてきた。声が聞こえてきた方を見るとそこには離れた場所で待機しているはずのリンの姿があった。


(なっ……!? 何でリンがここに? リョウさん達はどうしたんだ?)


 リンの姿に驚いたアルハレムが彼女と共にいたはずのリョウとコシュにヨウゴの姿を探すと、彼らは後方で狂暴化した魔物と戦っていて、慌てて駆けつけたアリスンがリンの肩を掴む。


「ちょっと貴女、一体何をしているのよ!? お兄様はここから逃げろって言っているでしょ!」


「離しなさいよ!」


 リンは自分の肩を掴むアリスンの手を乱暴に振りほどくとアルハレムに向かって叫ぶ。


「アルハレム! 今が好機でしょ! 早くその化け物を殺しなさい!」


「……はぁ?」


 魔女を殺せと言うリンの言葉にアルハレムは思わず今の状況も忘れて呆けた声を出した。そしてそれはこの場においては悪手であった。


「ーーー!」


「っ!? しまった!」


 アルハレムの意識がリンに向けられた隙を突いて魔女が光の線を魔物使いの青年の頭上にと降らせる。


 しかし幸いにもダメージを負っている魔女が降らすことができた光の線は一本だけで、その上速度も今までのよりも遅かった為アルハレムもとっさに避けることができた。そんな魔物使いの青年の背中にリンの怒声が飛ぶ。


「何をふざけているのよ! 早くその化け物を殺しなさいと言ったでしょ!」


 リンの発言のせいで危ない目にあったアルハレムは流石にリンの怒声に苛立つが、魔物使いの青年よりも先にアリスンが怒りを露わにする。


「ふざけているのは貴女でしょうが! 貴女の所為でお兄様が危ない目にあったのよ!? それにあの魔女はお兄様が契約するって話……!」


「何を言っているのよ! もうそんな事を言っている場合じゃないでしょ!?」


 怒声を上げるアリスンにリンは怒鳴り返すと周りを見るようにと腕を振ってみせる。周囲では相変わらず狂暴化した魔物が暴れまわっていた。


「それに私は元々あんな化け物を生かしておくのは反対だったのよ! 魔女なんて所詮人の姿をした魔物じゃない! そんなのをまるで本当の人間のように扱うだなんて貴女もアルハレムも頭が可笑しいんじゃないの!?」


「「……………!?」」


 リンの口から出たのは彼女が今まで溜め込んでいた不満。彼女の偽りのないアルハレム達を見下してきたという本音。


 それを聞いたアルハレムとアリスンは怒りを感じるよりも自分達との価値観の違いに驚き絶句した。そして……。


『……………………!!』


 リンの吐き捨てるような言葉にリリアを始めとしたこの場にいる魔女達が体を大きく一度震わせて瞳に狂気の光を宿したのだった。

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