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第二百四十九話

「ア、アルハレム様……」


「っ! リリアか!?」


 人の姿をした光、封印されていた魔女に目をとられていたアルハレムが背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには額に手を当てて膝をついているリリアの姿があった。


 リリアの顔を見ると顔中に汗を浮かべた苦しそうな表情が浮かんでいたが、自分の主人の目を見てサキュバスの魔女は安堵の笑みを浮かべる。


「アルハレム様……無事でよかった……」


「……リリア、俺が気絶してどのくらい経った? いや、それより俺が魔女の封印を解いてから何があったんだ?」


 具合が悪そうなリリアも気になるアルハレムだが、それよりも気になることがあったので聞いてみることにした。


「……社の中で何があったかは分かりませんが、突然石の社が吹き飛んだかと思うとアルハレム様がここまで飛ばされてきたのです。アルハレム様が気を失っていたのはほんの数分ですが、どうやらかなり危険な状況のようです。……周りを見てください」


「え? ………これはっ!?」


 リリアに言われてアルハレムが見てみると周囲は何故今まで気づかなかったのかと思うくらいに混沌と化していた。


 辺りからは山の獣達の悲痛な鳴き声が絶え間なく聞こえ、鳥達が一刻も早くこの場から離れようと飛び立ち、本来であれば無害であるはずの小型のモンスターがその身に狂気を宿らせて近くの木々や石、動物に噛み付いている。


「これは……あの魔女の仕業なのか?」


「恐らくは……石の社が吹き飛んだのと同時に……こうなりましたから……」


 アルハレムの言葉にリリアは何かに耐えるかの様に苦しげな口調で答える。その後ろでは魔物使いの青年に従う他の魔女達も、サキュバスの魔女と同様に苦しそうな表情を浮かべて何かに耐えていた。


「アルハレム様……。早くあの光……魔女を……。あの光を見た時から、身体中に『何かを壊したい』という衝動が走って……。このままだと私達も、他のモンスターのように暴れてしまいます……」


「………!」


 もはや間違いない。あの人の形をした光こそが伝説にある封印された魔女である。


 コシュ達の話を疑ったつもりはなかったが、それでも話にあったモンスターを凶暴化させる力を目の当たりにしてアルハレムは言葉を失った。


「アリスン!」


 アルハレムは魔法陣の外で両手で自分を抱きしめるようにして倒れているヒスイを介抱していた妹を呼び、兄に呼ばれたアリスンは慌てて彼の方を見た。


「は、はい! お兄様!」


「アリスン! お前は急いでコシュさん達とこの場から離れろ! ここは危険だ!」


 アルハレムがアリスンに大声で警告する。今でこそリリア達は耐えているが、九人の魔女達の理性が限界を超えて凶暴化したらアリスンやコシュ達では太刀打ち出来ないだろう。


「わ、分かりました!」


 アリスンがコシュ達の所に走って行くのを確認してからアルハレムはリリア達に顔を向ける。


「皆、もう少しだけ待っていてくれ」


「旦那様……」


 アルハレムの言葉にリリアを始めとする彼と契約をした魔女達が苦しげだが微笑んで頷く中、ヒスイが自分の主人である魔物使いの青年に声をかける。


「ヒスイ?」


「旦那様……。どうかあの魔女の方を救って下さい……。あの方は……今も傷つき、苦しんでいます……。よく分かりませんが……そう、感じたのです……」


 封印から解放された魔女を見て何かを感じたらしいヒスイの訴えにアルハレムが頷く。


「ああ、分かった。待っていてくれ」


 アルハレムはヒスイにそれだけ言うと封印から解放された魔女の元に向かって駆け出した。その途中で武器として選んだ錫杖が落ちているのを見つけて拾い上げる。


「……さて、これからどうしたものかな? ヒスイには何とかするって言ったけど……っ!?」


 走りながらアルハレムがこれからどうするか考えていると、そこに数本の光の線がアルハレムに目掛けて降ってきた。


「ちぃっ!」


 自分を目掛けて降ってきた光の線に気づいたアルハレムはリリアからもらった輝力を使って身体能力を強化して光の線を回避する。その直後に光の線は先程までアルハレムがいた場所に降って地面を大きく抉った。


「……どうやら俺を敵と認識したって訳か」


 アルハレムがそう呟いて封印から解放された魔女を見ると、人の形をした光も視線と背中から伸びている光の線の先端を魔物使いの青年に向けていた。


「悪いな、ヒスイ。やっぱりこうするしかないようだ」


 アルハレムは小さく呟いてヒスイに詫びると手に持った錫杖を構えて目の前の魔女と戦う覚悟を決めるのであった。

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