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第二百四十五話

「どうぞこちらです」


 コシュ達との会話が終わった後、アルハレムは成鍛寺の僧侶に案内されて境内にあるとある大部屋に一人で、いや、腰に差したロッド状態のアルマと一緒に訪れていた。


「これは……中々……」


「随分と充実していますね」


 部屋の様子を見たアルハレムが感心したように呟き、彼の腰にあるロッドからも感心した風のアルマの声が聞こえてきた。


 アルハレムとアルマが訪れたのは成鍛寺の僧侶が戦いの時に使用する武具を納めている武器庫であった。


 武器庫には中央大陸のそれとは造形が異なる剣に槍や弓矢、鎧等の様々な武具が所狭しと、しかし綺麗に整理整頓されて置かれている。そしてこれらの武具からは、今まで何度の戦いに使われてその度に丁寧に手入れをされた、長年使い込まれた道具のみが持つ独特の雰囲気が感じられた。


「本当に凄いですね。家の武器庫にも見劣りしないくらいだ」


 武器庫に納められている武具の状態を見てアルハレムは自分にとって最大の賛辞を口にする。


 アルハレムの実家のマスタノート家は中央大陸の南半分を支配するギルシュにある貴族の中でも「ギルシュの蛮族」と呼ばれ、国内国外に問わず恐れられる程の武闘派である。そこの武器庫と比べても遜色がない武装が一つの寺に集まっているのは「凄い」を通り越して「異常」と言えることなのだが、その事を指摘する者はこの場にはいなかった。


「ここにある武具を自由に使っていいのですか? ええっと……」


「ヨウゴと申します。はい。ここにある武具はどれでも自由にお使いください」


 アルハレムが自分をここまで案内してくれた成鍛寺の僧侶、ヨウゴに訊ねると、彼は一つ頷いてから答える。


 この武器庫にやって来た理由は、契約の儀式でこの成鍛寺に封印されている魔女と戦う為の武器を選ぶ為であった。


 成鍛寺に封印されている魔女はあらゆる魔物や魔女を狂化する力を持つ。そしてそれは今アルハレムの腰に収まっているインテリジェンスウェポンの魔女のアルマも例外ではない。


 もしアルハレムがいつも通りにアルマを武器にして封印されている魔女に契約の儀式を挑めば、彼は武器を失ってしまうどころか、たった一人で二人の魔女と戦うことになってしまう。それを避ける為に魔物使いの青年はこの武器庫に武器を借りに来たのであった。


「そうですね……じゃあ俺はこれを使わせてもらいます」


 一通り武器庫にある武具を見たアルハレムが武器として選んだのは、頭部の輪形に六つの鉄の輪を通した「錫杖」と呼ばれる鉄製の杖だった。


「アルハレム殿、それでよろしいのですか?」


「ええ。剣や槍だと契約の儀式で相手の魔女を必要以上に傷つけてしまいますからね。でもこれだったら槍の要領で戦うことができます」


 ヨウゴの言葉にアルハレムは答えると、持っていた錫杖を手の中で回転させたり、右や左にと振るって見せた。魔物使いの青年に振るわれる錫杖は武器庫に所狭しと置かれた武具に当たる事なく、鉄製とは思えないくらいの軽やかさで風を切る。これだけで彼がどれ程の技量が持つかが分かるだろう。


 アルハレムは家族の戦乙女達や仲間の魔女達の影に隠れて目立たないが、物心がついた頃から様々な武術の訓練を受けていて、通常の戦士や騎士の中では上位の実力を持っていた。


 魔物使いの青年の槍さばき、いや、錫杖さばきはヨウゴの目から見てもかなりのものだったらしく、成鍛寺の僧侶は笑みを浮かべて小さく拍手をする。


「お見事。流石は女神イアス様に選ばれた冒険者のお一人ですね」


「……でもやっぱりせっかくの戦闘なのに参加できないのは不満です」


「って!? おい、アルマ!」


 仕方がないこととはいえ、自分が戦闘に参加できないことに不満なアルマが人間の姿となってわずかに不機嫌そうな顔を見せ、アルハレムが慌ててインテリジェンスウェポンの魔女に声をかける。


 女性の姿となったアルマの外見は、衣服を全く身につけていない身体中に刺青を入れた褐色の女性である。アルハレムは女性になった彼女の姿に見慣れているが、ここにはもう一人の男、ヨウゴもいるのだ。


「いいから隠せって!」


 魔物使いの青年はとっさに羽織っているマントを外し、それでインテリジェンスウェポンの魔女の身体を隠した。


「マスター。暑いです。私は余計な装飾(衣服)は身につけない主義だと知っているはずなのに、何故この様な仕打ちを?」


「お前はちょっと黙っていろ。すみません、ヨウゴさん。コイツ、ちょっと変わったところがありまして……」


「いいえ、気にしてませんよ。それにしても彼女が女神イアス様より与えられたという聖なる武器ですか……。いや、本当に羨ましい……」


 気のせいか先程よりも不機嫌そうな顔をするアルマを黙らせてアルハレムがヨウゴに謝ると、彼は特に気にしたそぶりを見せず、興味深そうに女性の姿になったインテリジェンスウェポンの魔女を見る。その瞳からは情欲の色は見えず、ただ少年が憧れの英雄を見る様な、あるいは欲しくてたまらない玩具を見る様な羨望の光だけがあった。


「(……マスター。この人、こんな美人が目の前で裸でいるのに顔を赤くしないなんて、ちょっと変です)」


「(俺も少しそう思うけど、自分で自分を美人って言うな。いや、アルマは美人だけどさ……)」


 アルマは自分を羨望の目で見つめるヨウゴを見てから彼に聞こえない小声でアルハレムに話し、魔物使いの青年も小声で答えるのだった。

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