第二百三十六話
「まず最初に……。此度の魔物の凶暴化、その原因はこの成鍛寺に封印されている一人の魔女が原因なのです」
「この成鍛寺に魔女が?」
「それに封印って……何だかとっても他人事には思えないのですけど」
「そうですね……」
コシュから告げられた魔物の凶暴化の原因にアルハレムが思わず聞き返し、リリアとヒスイが嫌なことを思い出したような辛い表情となる。
リリアとヒスイはアルハレムの仲間になるまで百年、二百年という長い時の封印をされていたので、その頃の事を思い出したのだろう。その様子を見て心配になった魔物使いの青年がサキュバスの魔女と霊亀の魔女に声をかける。
「リリア、ヒスイ……大丈夫か?」
「……あはっ♩ アルハレム様、私の心配をしてくれたのですね。嬉しいです♩ もちろん私なら大丈夫ですよ、ほらっ!」
「うわっ!?」
「あっ……! だ、旦那様、私も大丈夫です!」
「なっ!?」
「……………!」
心配したアルハレムが声をかけると満面の笑みを浮かべたリリアが魔物使いの青年に抱きつき、その直後にヒスイも負けじと抱きついてきた。そしてその姿を見て他の仲間達の数名が怒りと嫉妬で濃厚な殺気を漂わせる。そんな彼らの姿を見てコシュはしみじみと呟く。
「やはりアルハレム殿の一行は皆、仲が良いようですな」
「ええっと……そう見えます? それはともかく話の続きをお願いします。ほら、二人も離れて」
アルハレムはリリアとヒスイを自分から引き離すとコシュに話の続きを促した。
「そうですな。ことの始まりは二百年以上昔、この成鍛寺が開かれるより前まで遡ります。成鍛寺の開祖には一人の兄がおりました。開祖の兄は開祖と勝るとも劣らない熱烈な女神イアス様の信者であり、クエストブックに選ばれた『魔物使いの冒険者』だったそうです」
「魔物使いの冒険者?」
成鍛寺の開祖の兄弟がクエストブックに選ばれた、しかも自分と同じ魔物使いの冒険者だと聞いてアルハレムが驚いて目を見開き、それまであまり興味がなさそうにしていた彼の仲間達も今の話には興味を覚えてコシュを見た。
「左様。クエストブックを授かった開祖の兄は大変喜び、女神イアス様にお会いするために試練の旅に出たのです。そして開祖の兄は旅に出てすぐにひょんなことからとある一人の魔女と出会い、その魔女を仲間にしたそうです」
「魔物使いの冒険者で、しかも旅を始めてすぐに魔女の仲間か……」
「何だかご主人様とそっくりですね」
コシュが語る開祖の兄の話にアルハレムとレムが思わず呟く。しかしコシュは首を横に振って二人の言葉を否定した。
「同じではありません。アルハレム殿は皆さま方仲間にした魔女を対等な存在として見ていますが、開祖の兄はその魔女を初めとする仲間にした魔物達を単なる道具としか見ていませんでした……」




