第二百三十四話
移動手段にエターナル・ゴッデス号を用いたアルハレム達の一行は、猫又一族の隠れ里を出発して僅か半日の時間で成鍛寺に着いた。ちなみに徒歩で成鍛寺から猫又一族の隠れ里にやって来たコシュは辿り着くまでに丸五日かかり、この異常とも言える短時間で帰ってこれた事に大きく驚いていた。
「ここが成鍛寺……凄く大きいですね」
「はっはっはっ。そう言っていただけると拙僧も嬉しく思いますすぞ。この成鍛寺はシン国中の女神イアス様を強く敬う者達が集まり、長い月日をかけて造った場所。つまりこの寺もまた、拙僧達の女神イアス様に対する信仰の形の一つなのです」
成鍛寺に着くと今度はアルハレムが驚き、それにコシュが笑いながら誇るように答える。
アルハレムの言う通り成鍛寺は山頂に建てられた寺であるにも関わらずまるで小さな城のようなの広さがあり、大きな街の広場くらいはある境内ではコシュと同じような格好をした大勢の僧侶達が今も熱心に修行に打ち込んでいる最中であった。
ある十数名の僧侶達は武術の型と思われる動きを何度も何度も繰り返し、またある十数名の数組の僧侶達は二人一組となって組手を行っていて、どの僧侶達も成鍛寺の住職であるコシュが帰ってきたことに気づかないくらい真剣に修行に集中していた。
「これは……何だか実家を思い出すな」
「そうですね。お兄様」
修行に打ち込む成鍛寺の僧侶からは戦いを間近に控えて訓練に励む兵士達のような気迫が感じられ、それを見てアルハレムが魔物との戦いが日常茶飯事であった故郷のマスタノート領を思い出して呟くと、隣に立っていたアリスンが頷く。
「しかし何と言うか……凄いですね。……その、『色々』な意味で」
故郷の事を思い出す二人の兄妹を余所にリリアが何か不可解な点があるのか微妙な表情で言う。
サキュバスの魔女であるリリアから見れば、今こうして修行している成鍛寺の僧侶達の動きからは何の脅威も感じられなかった。のだがそれでも僧侶達はとても真剣に修行をしていると思うし、実力もヒューマンにしては上等な方だと思う。
それで何故リリアが微妙な表情をするのかというと、その理由は境内の中央にあった。
境内の中央には小さな台座があって、その台座の上には背中に外側に輪っかを背負った少女の像が一つ飾られていた。そして境内で修行している僧侶達は、修行に一区切りがつくと小休止代わりに少女の像に向かって何度も礼をするのだ。
少女の像に向かって礼をする僧侶達からは修行の時とはまた違った気迫みたいなものが感じられ、それがリリアは不思議に感じていたのだった。
「あれは女神イアスの像でござるよ。背中の輪っかは太陽を象徴したもので『光り輝く少女の姿をした尊き者』という意味でござるな」
いつの間にか側に来ていたツクモが台座にある少女の像を見ているリリアに説明すると、サキュバスの魔女は得心がいったように頷いた。
「ああ、そういう事でしたか。確かこのお寺はあの女神を信仰していますから、女神像があってもおかしくはありませんし、女神像に熱心にお祈りするのも当然ですね。……でもなーんか、あの僧侶さん達のお祈りするテンションが怪しいのですけど?」
「そうでござるな。ツクモさんもあの僧侶達の女神像を見る血走った目を以前どこかでみたような……」
ツクモの説明に一時は納得したリリアだったがまたすぐに何かを怪しむ目で成鍛寺の僧侶達を見て、猫又の魔女もサキュバスの魔女の言葉に心当たりがあるのように頷くのだった。




