第二百三十三話
「おおっ! これはまさに絶景ですな!」
空を飛ぶエターナル・ゴッデス号の甲板で下の様子を見たコシュが感極まった声を上げる。
「そうですね。俺も初めてここからの景色を見たときは驚きましたよ」
「ふふっ。コシュ様。当豪華客船エターナル・ゴッデス号はお気に召したでしょうか?」
コシュの言葉にアルハレムが同意するように頷き、レムが笑みを浮かべながら訊ねると、コシュはゴーレムの魔女に興奮冷めやらぬといった様子で答える。
「ええっ! 成鍛寺も山頂に居を構えているのですが、その山より更に高い場所より下界を見下ろすなんて中々できる体験ではありませんからな。いや、流石は偉大なる女神イアス様に創造された伝説のダンジョンの一つ。この様な素晴らしい景色を見せていただき心から感謝いたします」
「そ、そんな……。そんな風に褒められると照れてしまいます」
自分が管理しているエターナル・ゴッデス号を惜しげなく称賛されてレムは赤くなった顔を両手で押さえて身をくねらせる。
だがそれはある意味仕方がないだろう。なにしろエターナル・ゴッデス号はレムがアルハレムに従うようになるまで「さまよえる幽霊船」と人々に呼ばれて恐怖の対象でしかなく、この様に称賛されたのは彼女の何百年にもわたる人生(?)でも初めての体験なのだろう。
「それにしてもアルハレム殿。この度は拙僧のお願いを受けていただいてありがとうございます」
そう言うとコシュはアルハレムに向けて頭を下げた。
アルハレム達はコシュの依頼を受けることに決めており、魔物使いの青年の一行は今、コシュをエターナル・ゴッデス号に乗せて成鍛寺へと向かっている最中であった。
「気にしないでください。俺にもコシュさんの依頼を受ける理由がありますからね」
「それはっ!?」
アルハレムがクエストブックを呼び出して言うと、コシュはエターナル・ゴッデス号の甲板から下界を見下ろした時以上に驚き、そして感動した声を上げた。
「そ、それが女神イアス様が創造されたクエストブック。まさかこの目で見れる日がこようとは……!」
目を大きく見開き、感動のあまり今にも泣き出しそうな表情でアルハレムの手にあるクエストブックを凝視するコシュ。その姿は欲しくてたまらない玩具を羨む子供のように見えた。
「コシュさん? 俺のクエストブックがどうかしましたか?」
「あっ、いえ……。醜態をさらしてしまい申し訳ない。拙僧達、成鍛寺の僧が修行をするのは女神イアス様に信仰を捧げるのと同時に、いつクエストブックを手にして冒険者になっても良いように力をつけるためなのです。その為、クエストブックを目にしてつい興奮をしてしまいました」
「ああ、成る程」
コシュの態度を不思議に思ったアルハレムだったがその理由を聞いて納得をする。確かに、常日頃から冒険者になれる日を夢見て厳しい修行を行っている者達からすれば、魔物使いの青年が何でもないように見せたクエストブックは正に垂涎の品であろう。
そしてそんなコシュの様子を見てアルハレムは、自分の元にクエストブックが現れて冒険者になったこと。そのお陰で「強くなりたい」という自分の目標が少しずつではあるが叶い、リリアを初めとする仲間達ができた事を幸運に思うのだった。




