第二百三十話
「アルハレム殿は知っておるだろうか? 実はこのシン国では数ヵ月前より魔物の活動が活発になっておるのです」
「ええ、それは知っています」
コシュが言葉にアルハレムが頷く。シン国各地での魔物の活動の事は、魔物使いの青年も隠れ里の猫又達から聞いていた。
「うむ。それならば話が早い。自慢ではないが拙僧を初めとする成鍛寺の僧は日頃の修行により、そこらの兵士よりも武の心得がある。ですので近隣の村が魔物の被害に遭えば、魔物を退治して村を守る手伝いをしておるのです」
(へぇ……。教会とは随分と違うのだな)
話を聞きながらアルハレムは内心で感心する。中央大陸の教会にも神官戦士という僧兵がいるが、彼等は教会からの指示を実行するのみで、コシュのような寺の僧のように自ら率先して村を守ろうとする者は全くいないとは言わないが、それでもごく少数だろう。
「そして今から半月程前、とある村を襲う魔物を拙僧が数名の僧と共に退治した時、その村に訪れた行商人から複数の魔女を従えた異国の冒険者の話を聞いたのです。更に詳しい話を聞いてみると、異国の冒険者が従える魔女達の中には猫又の姿もあったらしく、その事からこの猫又一族の隠れ里を訪れた次第です」
「……ああ、それは多分俺ですね」
「そのようでござるね。だったら猫又はツクモさんのことでござろう」
アルハレムとツクモはコシュの話に出てきた複数の魔女を従える冒険者と、それに従う猫又が自分である事を認める。言われて思い返してみれば以前、魔物使いの青年は仲間の魔女達と猫又一族の隠れ里の外に出た時に、魔物に襲われていた行商人を助けた事があった。
どうやらその時に助けられた行商人が偶然コシュと出会い、アルハレム達の事を話したようだ。
「やはりそうでしたか。……アルハレム殿。クエストブックに選ばれた冒険者は女神イアス様より一つ特別な力を与えられると聞きます。そして複数の魔女を従える貴殿が与えられた力というのは『魔物使い』の力ではないでしょうか?」
「ええ、そうですが?」
今までの話の流れから充分予想できる話であるし、別段隠す様な秘密でもないのでアルハレムが正直に話すとコシュは安堵した表情となって頷いた。
「良かった。それならば何とかなるかもしれぬ」
「……? コシュさん、それはどういう意味ですか?」
アルハレムが聞くと、コシュは両手を床について魔物使いの青年と猫又の魔女に向けて頭を下げた。
「……アルハレム殿。ここで最初の話に戻らせていただきます。最近のシン国の魔物の活性化はその昔、成鍛寺とエルフ達が協力して封印したとある魔物、それの封印が解けかけている影響なのです。この国の騒ぎをおさめる為に貴殿のその魔物使いの力を拙僧達にお貸しください」




