第ニ百二十九話
アルハレムに会うために猫又一族の隠れ里を訪ねてきたヒューマンは霊亀の魔女達が暮らしている屋敷に案内されていて、魔物使いの青年と彼に従う猫又の魔女が霊亀の魔女達が暮らす屋敷に行くと、そこで待っていたのは五十代くらいの禿頭の大男だった。その禿頭の大男は、シン国特有の服であるキモノの上からでも分かるほど筋肉を鍛えていて、素手だけで猛獣や魔物を倒せそうな猛者の雰囲気を身にまとっていた。
「突然お尋ねして申し訳ない。拙僧、成鍛寺という寺の住職を務めているコシュという者です」
禿頭の大男、コシュはその外見に似合った厳しい声音で挨拶をすると小さく頭を下げた。
「コシュ……で、ござるか。なんか、顔とは似合わない可愛らしい名前でござるね?」
「ちょっ!? ツクモさん?」
コシュの名前を聞いたツクモが正直な、それでいて聞き様によっては失礼極まりないことを言ってそれをアルハレムが慌てて止めようとするが、コシュは気にした様子も無くむしろ豪快に笑う。
「はっはっはっ! 別に構いませぬよ。何しろ幼少の頃から言われ慣れていますからな」
「そ、そうですか……ありがとうございます。あの、それで成鍛寺……というか『テラ』とは?」
「ふむ……。そう言えば貴殿は中央大陸から来られたそうですな。それでは『寺』について知らないのは仕方がない。寺というのは世界の創造主である女神イアス様の威光を世の人々に広め、それと同時に修行で自身を鍛えることでイアス様の願いである『自らの子が成長する姿』を見せてイアス様に感謝を捧げる場所です。中央大陸にも教会という寺によく似た場所があると聞きましたが?」
「成る程。よく分かりました」
コシュの説明にアルハレムは、寺というのは要するに外輪大陸の教会のようなものだと理解する。
「それで……貴殿が中央大陸からやって来た冒険者の方でよろしいか?」
「はい。自己紹介が遅れてすみません。ええ、俺が中央大陸にある国の一つ、ギルシュ公認の冒険者、勇者のアルハレム・マスタノートです」
「おおっ! やはりそうですか! いやっ、女神イアス様より直々に試練を与えられるとは実に羨ましい!」
アルハレムが自己紹介をすると、コシュは熊のように厳めしい表情をほころばせてやや興奮ぎみに言う。
「試練?」
「クエストブックの事でござるよ、アルハレム殿」
「然り。クエストブックに記された試練を挑む事、それは女神イアス様に己の修行の成果をお見せする絶好の機会なのです」
首を傾げるアルハレムにツクモが説明するとコシュがそれに頷く。そして言われてみれば確かに、クエストブックは寺の活動内容を達成するのに最も有効な手段と言えた。
「そういうことですか。それでコシュさんは俺に一体何の用なのですか?」
「はい。拙僧が今日ここに来たのは、成鍛寺を代表してアルハレム殿にあるお願いをするためなのです」
アルハレムが聞くと、コシュはわざわざ猫又一族の隠れ里にまで足を運んで魔物使いの青年を訪ねた理由を話始めた。




