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第二十二話

 アルハレム達はオークの焼き肉の朝食をすませるとすぐに旅に出て、その数時間後に目的の街が見える所まで辿り着いた。


「アルハレム様。あの街ですか?」


「そうだ。あの街に俺の友人でこの辺りを治める領主、ビスト伯が住んでいる」


 質問をしたリリアはアルハレムの言葉に驚いた顔をする。


「領主様にご友人がいるのですか」


「一応俺も貴族の息子だからな。隣の領地の貴族とは親交があるさ。それに領主様って言っても三年前に前領主だった父親を事故で亡くして爵位と家を継いだ新米領主だよ。歳も俺と同じだし、子供の頃はよくお互いの領地まで行って遊んだよ」


 子供の教育を思い出したのか懐かしそうな顔をするアルハレム。その表情を見るかぎりアルハレムとビスト伯は今でも親しい間柄であることがうかがえる。


「そうでしたか。私もアルハレム様のご友人のお顔を一目見たいです。早速行ってみましょう♪」


「ああ、俺もそうしたいんだけど……」


 アルハレムはそこで言葉を切るとリリアとレイアの姿を見て何やら考え出す。


「アルハレム様? 私達が何か?」


「………?」


「いやな? リリアとレイアって魔女、魔物だろ? どうやって街に入れたらいいかな、と思ってな」


 首をかしげるリリアとレイアにアルハレムは何を考えているかを言う。確かに彼の言う通り、街中に魔女が二人も現れたとなれば何らかの騒ぎが起こるのは想像に固くないだろう。


「あの『バカ』はリリアとレイアを見ても驚きはしないだろうけど、街の人はそうはいかないだろうしな……。できたら余計な騒ぎは起こしたくないんだけど」


「………?」


「え? アルハレム様? 今、バカって言いましたけど……それってもしかして領主のビスト伯のことですか?」


「そうだけど?」


 顎に手を当てて考えながら言うアルハレムの言葉に、頭に疑問符を浮かべるレイアの横にいるリリアがためらいがちに聞くと、彼は当たり前のように答える。


「……………その、アルハレム様? いくらご友人でも領主様の悪口を言うのはどうかと思いますが?」


「実際にバカなんだから仕方ないだろ? それにこんなの、悪口にもならないって」


 リリアの言葉をアルハレムはあっさりと切り捨てる。いくら親しい古くからの友人とはいえあまりにもひどい扱いに、リリアとレイアはビスト伯とは一体どんな人物なのかと考える。


「さて、本当にどうするか……」


「アルハレム様。それでしたら私にいい考えがあります♪」


 どうやって騒ぎを起こさずに二人の魔女を街に入れるか考えているアルハレムに、リリアは名案があるとばかりに手を上げた。


「リリア? いい考えって何だ?」


「はい♪ 私の技能には『透明化』という、文字通り自分の体を透明にするというものがあります。この技能を使って透明になった私はアルハレム様と一緒に街に入って、体を透明にできないレイアはここで留守番ということで……」


「………!!」


 リリアの言う考えにレイアは視線だけでも人を殺せそうな目を向ける。怒りに燃えるラミアの額には何本もの青筋が浮かんでおり、体は輝力で身体能力を強化した証である青白い光に包まれていて、両手の爪はまるで短剣のように長く鋭く伸びていた。


 言葉は一言も発してはいないが、全身で「それ以上ふざけたことを言えば貴様を殺す!」と自分の意思を表に出すレイアに、リリアは肩をすくめる。


「仕方がないじゃないですか? レイアはその蛇の下半身のせいで目立ちやすいのですから。姿を隠す方法がなければアルハレム様に迷惑をかけないよう、ここで留守番をするしかないでしょう?」


「………。………♪」


 リリアの説明に一応は納得したのかレイアは戦闘態勢を解くと、すぐに不敵な笑みを浮かべる。その笑みは「だったら目立たなければいいのね?」と言っているように見えた。


「何ですか? その自信に満ちた笑顔は? 何かいい方法でもあるのですか?」


「………♪」


 レイアがリリアに頷くと、突然レイアの体が強い光に包まれる。光がおさまるとそこには黒髪のラミアはどこにもおらず、代わりに黒髪の女性が立っていた。


 特性「人と化す蛇」。


 数時間だけ人間の姿となることができるラミアの種族特性。昔話ではラミアはこの種族特性を使って人間の群れに紛れて狙った人間の元に現れたとされる。


「………♪」


 人間の姿となったレイアは胸を張り、「これなら文句はないでしょ?」と言わんばかりの笑みをリリアに向けた。


「た、確かにそれだったら問題はな……」


「いや、あるだろ?」


 リリアの言葉を遮ってそれまでずっと(魔女二人のやり取りが怖くて)黙っていたアルハレムが口を開いた。


「………!?」


「どうしてですかアルハレム様? レイアはどこから見ても人間の姿ですよ? 下半身蛇じゃないですよ?」


「いや、下半身じゃなくて問題は服だよ。服」


 どこに問題があるのか全く理解できないといった顔をするリリアとレイアに、アルハレムは仲間のラミアの姿を指差して指摘する。


 レイアは以前アルハレムが着ていた白いロングコートの切れ端と木の葉で体の秘所を辛うじて隠しているという格好で、ある意味リリアの極細の帯だけの格好よりも卑猥に見えていた。


「人間の姿でその格好は流石にまずいだろ? それで街に入ったら別の意味で騒ぎになるって」


「………」


「……仕方がありませんね。私は体を透明にできますから、今だけ私の一張羅を貸してあげます」


 アルハレムの指摘にレイアが肩を落として落ち込んでいると、リリアが身につけている服……というな帯を脱いで仲間のラミアに渡した。


「ちょっ、リリア!? 何をしているんだお前は!?」


「? 見てのとおりレイアに私の一張羅を貸してあげただけですが? これでしたらちょっと薄着の戦乙女ということで誤魔化せると思うのですが……駄目でしたか?」


 思わず顔を赤らめて叫ぶアルハレムにリリアはさも当然のように答える。


 確かに輝力で身体能力を強化できる戦乙女は防具にあまり気を使わないから薄着なのも多いし、自分の身一つで戦う戦乙女もいるから素手であってもおかしくない。……だがそれでもやはりリリアの服は「ちょっと」どころの薄着のレベルではないと思う。


「いやいやいや!? 確かにそれだったら戦乙女のフリはできるだろうけど、あんまり問題解決してないから! 服だったら俺のを貸すからそれを着てくれ」


「………!?」


「あ、あ、アルハレム様!? お、男の服を着ろだなんて大胆過ぎます! わ、私達、そんなふしだらなことはできません!」


「アレェ!? 何でこんなことで顔を真っ赤にして怒ってるの!? 今まで散々、これ以上にふしだらなことしてきたよね、キミタチ!?」


 服を貸すと言った途端に顔を真っ赤にして怒るリリアとレイアに、アルハレムはこれ以上ない理不尽、そして人間と魔女との感性の違いを感じたのだった。

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