第二百二十二話
「この先にいるのか?」
「ええ、そうよ」
「かなりの数がいたね」
アルハレムの言葉にシレーナとウィンが頷く。
猫又の一族からの仕事を実行するため森に入ってからしばらくした後。先に森に増えた魔物の集団を退治した方がいいと判断したアルハレム達は、まずシレーナとウィンに上空から偵察をしてもらって、今は魔物の集団がいる場所の近くにときていた。
魔物使いの青年が極力音を立てずに茂みをかき分けて見ると、茂みの先にはセイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドが言った通り魔物の集団の姿があった。
「………?」
「何アレ? 蟻?」
「でも、随分、と、大き、い」
アルハレムの後ろから魔物の集団を見たレイアとアリスンとルルの三人が首を傾げる。
茂みの先にいた魔物の姿は、一言で言えばアリスンとルルの言葉通り「大きな蟻」であった。
体の大きさは全長一メートル程。全身を毒々しい紫色の外骨格で覆っていて、黒曜石のような複眼からは「己の意志」といったものが感じられず「種族の習性」のみで行動しているのが容易に見てとれた。
そんな巨大な蟻の魔物が少なくても二十匹以上。そして現在蟻の魔物の集団は恐らく熊だと思われる大型の獣の死骸に群がって「ガリッ! ゴリッ!」といった石を砕く様な音を立てながら黙々と死骸の肉を喰らい、血をすすっていた。
普通の人間であれば嫌悪感を抱きそうな光景であったが、幸いにもここにはこの程度の光景を見た程度で気分を害したり騒いだりする者はおらず、蟻の魔物の集団を見ながらヒスイが自分の仲間達に訊ねる。
「あの魔物達を退治するのですか?」
「ええ、そうですよ。あれが最近、この山で増えてきた魔物で間違いありません」
「確か名前は悪食蟻だったかな?」
霊亀の魔女の疑問に、事前に隠れ里の猫又達から魔物の情報を聞いていたリリアとアルハレムが答え、ツクモがそれに頷いてみせる。
「その通りでござる。悪食蟻はその名の通り目に付いたものは何でも食すという魔物で、そうして得た栄養は腹部に溜め込み、逆に毒素は毒液にしてあの外骨格から分泌するというかなり頭のいい魔物でござるよ。この辺りでは中央大陸のゴブリン並みに数が多くて出現率が高いでござるな」
「中央大陸でいうゴブリンか……。なんだかアッチの方がゴブリンよりずっと強そうで厄介そうなんだけど」
ツクモの説明にアルハレムが悪食蟻の集団を見ながら呟く。
猫又の魔女の話が本当なら、あの悪食蟻は別の場所にまだ多くの仲間がいる上に攻撃には毒があることになる。悪食蟻とゴブリンのどちらが厄介かと言えば前者であろう。
「とにかくあの蟻達はここで退治しておいた方がよさそうだな。……皆、行くよ」
『はいっ!』
アルハレムが声をかけるとリリアを初めとした彼の仲間達は悪食蟻に気づかれないくらいに音量で揃って返事をした。




